ストーリーパラスポーツ

為末大さんと語る「イメージ力」視覚障害者走り幅跳び・髙田千明

2019-07-23 午後 03:44

視覚障害者の走り幅跳びで活躍する、髙田千明選手。助走路や踏み切る位置を視覚で確認していない髙田選手は、コーチ兼コーラーの大森盛一さんの掛け声に合わせて走り、位置や方向などを認識します。そんな髙田選手が競技と日常生活の接点について、為末大さんと話しました。

 

目隠しをして一人で走って跳ぶ「恐怖心」との闘い

「いきなり変な質問から始まって申し訳ないのですが……競技、やっていて怖くないんですか?」対談は、為末さんのこんな一言から始まりました。

 

「怖いです。(笑)目隠しをして一人で走って跳ぶので、怖くないわけがないです。」と髙田選手。過去には、着地のときに砂場から片足が出てしまい、思わず「痛っ!」と声を上げたこともあったといいます。

 

大森さんがコーチになったばかりだった当時、大森さんに「この競技は怖いのなんか当たり前なんだから、絶対怖いって言うな。」と言われても、髙田選手は「怖い、怖い」と言い続けていたそうです。

 

 

一方、試合ではそれほど恐怖心を感じないと話します。「とにかく『少しでも記録が欲しい』という思いが前面に出るので、怖いっていう感情はどこかに飛んでいっていますね。」(髙田選手)

まっすぐ走るために意識しているイメージと修正力

視覚に障害のない晴眼者は、目を閉じると、全力疾走どころかまっすぐ進むことすら難しいのではないでしょうか。視覚障害の走り幅跳びという競技の技術性の高さがわかります。

 

 

為末さんが「まっすぐ走るには何が大切なんですか?」と尋ねると、髙田選手は次のように答えました。

 

「まず“まっすぐがここ”というのをイメージします。正面に大森さんが立って音を出してくれたときに“自分のイメージ”がどれだけズレてるか、という修正をする。それがきっちり決まったら、そのあとはもう、腕と脚、膝をしっかり中心に寄せるように、大森さんの音により近づけるように走る、という感じですかね。」

 

コーチの大森さんの声がどこから来ているのかをつかめるようになるまでには、少し時間がかかったといいます。助走は最初、7mほどから始め、今の24mの助走に至るまで徐々に精度を上げていったそうです。

足音だけで練習仲間のコンディションがわかる

髙田選手いわく、日常生活のなかでも競技に役立つ場面があるといいます。

「私は目からの情報がないので、外を歩くにも街の音を耳で全部覚えなきゃいけないし、耳で方向も捉えるしかないんですよね。どこから人が呼んでいるとか、どちら側から音が鳴っているとか。普段やっていることが、競技にも生きているのかな。」

 

 

さらに、髙田選手は足音だけで練習仲間の誰が走っているのかを当てられるのだそう。「『あの子は靴換えたな』とか『けがしているのかな』とかもわかります。本人に聞くと大抵、当たっていますよ。そういうのは皆わかっているものだと思っていました。」と。

 

為末さんは「髙田さんは音に対する感覚はもちろんですが、記憶力もすごいですね。一応、陸上競技を20年くらいやっていましたけど、ぼくは全然わかりませんでしたよ。(笑)」と感心していました。

イメージ共有のためのコミュニケーション

目が見えない髙田選手は、写真や映像を見て自分のフォームを修正したり、チャンピオンの映像を見てお手本にしたりといった練習法は取り入れていません。フォームなどを修正するときは指導者からのフィードバックを頼りにしています。しかし、そのフィードバックを理解するのに、難しさを感じることもあるそうです。

 

 

「『踏み切ったときに腕がこうなっているべき』『顔の位置がこうなっているべき』『足が下がっているべき』『そのときの角度はこうなっているべき』など、どれだけ説明してもらっても難しい。なので、話し合っては跳び、また話し合っては跳び、の繰り返しです。」と髙田選手。

 

一方で、指導者からの言葉で、イメージがうまく一致することもあるといいます。例えば「着地の手前で、折りたたみ携帯になる」というアドバイス。「『体を前に折り曲げて、足の方に持っていって』と言われたときは、あまりピンとこなかったんですが…『折りたたみ携帯になりましょう』と言われた途端、ああそうか!と。」(髙田選手)

 

為末さんも「折りたたみ携帯というのは初めて聞いた例えです。面白いですね。」と納得。

 

そして、「髙田さんのように、人が体験できない世界を知っている人は、やっぱり世の中に語った方がいいんじゃないかと思う。悩んでいることでも何でもいいから、世の中とシェアするだけで、世界がちょっと良い方に変わるような気がしています。」と為末さん。“言葉の力”に期待を込めます。
「はい。頑張って発信していきたいと思います。(笑)」と、髙田選手も答えていました。

 

 

※この記事は以下の番組から作成しています。

2019年2月22日放送「超人たちのパラリンピック「音で限界を超える 走り幅跳び 髙田千明」
内容は放送時のものとなります。

 

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