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大越健介が見た リオ五輪のレガシー 前編

2018-07-27 午後 03:26

東京オリンピックの開幕まであと2年を切りました。大会が成功と言えるかどうかは「レガシー=良い遺産をどの程度残せるかにかかっている」と言われています。そのヒントを探りに、2年前にオリンピック・パラリンピックが開かれた、ブラジル・リオデジャネイロをサンデースポーツ2020の大越健介キャスターが訪ねました。(2018年7月22日放送サンデースポーツ2020から)

都市インフラの整備は、人々の生活を便利に

南米初のオリンピックが行われた、ブラジル、リオデジャネイロ市。日本のメダルラッシュに沸いた2年前。街は熱気に包まれていました。
2年前も現地で取材した大越キャスター。オリンピック開催をきっかけに再開発された地区を再び訪ねてみると、そこは今もにぎわっていました。

 

大越健介キャスター

 

かつては治安があまりよくなかったリオデジャネイロの港湾地区。オリンピック、パラリンピックを機に、人々がのどかに時間を過ごす広場に生まれ変わりました。

リオデジャネイロ市では地下鉄の新しい路線もオリンピックに合わせて整備。1日16万人に利用されています。普段利用しているという女性も「毎日の通勤が便利になりました。以前に比べたら100%以上良くなったと思いますよ」と満足な様子。今では市民の足として欠かせない存在になっています。

事前に計画されていたはずのレガシー、その現実

一方、競技会場はどう利用されているのか。リオ大会では事前に200ページ近くに及ぶ「レガシー計画」が策定され、大会後の施設利用の仕方を明確に定めていました。例えば、フェンシングが行われた会場は、大会後、市が学校に改修することになっていました。しかし、訪ねてみると・・・。

 

アリーナは工事が始まらないまま

 

当時の姿のままほとんど変わっていません。計画ではスタンドだったエリアを教室に改修、アリーナを取り囲むように配置し、スポーツ教育に力を入れた学校を作るはずでした。しかし、およそ4億円の改修費用を市が捻出できず、いまだ工事すら始まっていません。計画はなぜ進んでいないのか。レガシー計画を管轄するリオデジャネイロ市レガシー局のパトリシア・アモリンさんは、その理由は苦しい財政状況だと語りました。

 

 

パトリシア・アモリンさん

計画は中止になったわけではありません。ただ、経済・財政の現状を考えれば変えざるをえないんです。まず、計画の甘さもありました。
でも、お金さえ潤沢にあれば、あとから何とでもなるはずだったのに・・・。今の財政不足では、もうお手上げです。

 

このフェンシング会場だけでなく、ほとんどの施設で計画が予定通り進められていません。市が解体するはずだった競技会場も、放置されたまま。歓声が響いていた会場には今、廃墟のような景色が広がっていました。

深刻な危機の中、リオが見ていた「夢」

次に訪ねたのは、選手村。大会後は不動産会社が高所得層のニーズを当て込んでマンションとして売り出しました。高層階からはベイエリアが一望でき、まさに高級マンションという印象です。

 

選手村はがらんとした雰囲気

 

しかし、東京ドーム16個分の敷地の中をどれだけ取材しても、人の姿が見当たりません。3600部屋のうち、住んでいたのは5世帯だけ。
投資目的のものを入れても、購入されたのは1割にすら届いていないといいます。不動産会社に現状をどう考えているのか聞くと・・・。

 

 

不動産会社 エンヒッキ・カバンさん

ここを見に来た客はみんな感動してくれます。でも売れないのは、『今は』客がお金を持っていないからです。経済が良くなれば、すぐに売れると信じていますよ。

 

では、景気が良くなってきた兆しはあるのか。その答えは「ノー」でした。

ブラジルでは、オリンピック開催時点から起きていた経済危機が、さらに深刻化しています。ブラジル全土で失業者は1300万人以上。失業が続く市民の中には、「オリンピックはリオにとって最悪だった」と語る人もいるほどです。
事前のレガシー計画の見通しは、甘かったのではないか。すでに悪化していた経済状況に合わせたプランに変更することもできたのではないか。組織委員会の幹部、マリオ・アンドラーダさんにその疑問をぶつけました。

 

 

リオ五輪組織委員会 マリオ・アンドラーダさん

もっと費用を抑えた計画を立てる、そんな考えは当時はありませんでした。なにせ多くの投資があつまっていましたからね。開会式の前日までは、オリンピックというのは『夢』なんです。始まって初めて、現実が見えてきます。でも、『夢』よりも大切なのは、誰もが仕事に就き良い社会が築けることなんだと、今はそう思います。

「なんとかレガシーを残す」 リオの人々の意地

そんな中でも、選手たちのかけ声が聞こえてくる競技会場がありました。柔道の試合が行われた施設です。

 

 

この場所も厳しい現状にさらされています。本来は市と民間企業が運営にあたるはずでしたが、財政負担を理由に市はこの施設を手放しました。運営する企業も現れず、国が運営に乗り出さざるを得ませんでした。国も財源がないため、配線工事や更衣室の改修などのメンテナンス費用は利用する競技団体に負担してもらい、何とか施設を維持。「できる範囲で」レガシーとして活用していくプロジェクトが進められているのです。

ここでは、リオ大会のスター選手が練習を続けています。地元リオデジャネイロ出身の、ハファエラ・シルバ選手。2年前、このアリーナで金メダルを獲得しました。

 

 
ハファエラ・シルバ選手

いまは2020年の東京オリンピックに向けて、新しい技を練習しています。このアリーナは練習拠点として素晴らしい場所なんです。でも、ここで練習しているオリンピックのメダリストは、私だけ。子供たちにもっとこの場所を利用してほしいと思っています。

 

メダリストの自分が率先してこの場所で練習することで、後輩たちも自分に続いて利用が進んでいく。そうすれば、このアリーナはオリンピックを経た後の「レガシー」として続いていくのかもしれません。

ブラジルと日本では政治や経済の状況が違うとはいえ、学ぶべき点はやはりあるのではないでしょうか。大会に一気にまい進するのではなく、施設の利用計画などを冷静に立ち止まって検証し続けることが大事だと感じます。ただ、シルバ選手の姿が象徴するように、「モノ」の問題ではなく、大会が人々の心に鮮烈な印象を残すのもまた事実。第2回ではそうした「心のレガシー」について見ていきます。

この記事を書いた人

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大越 健介 キャスター

昭和60年NHK入局、初任地は岡山局。政治部の記者、NW9キャスターなどを経てサンデースポーツ2020キャスター。
"スポーツをこよなく愛する親父"の代表として自ら楽しみながら伝える。

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