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特集 スキーノルディック複合 渡部暁斗 大舞台で気付いた “スポーツの価値”とは

スキー 2022年4月23日(土) 午前11:00

オリンピックで2個の銀メダルなど、数々の国際大会で結果を出し、強さを示してきた渡部暁斗選手。みずからを“マシーンのようだった”と表現してきた男が、5回目の大舞台で「弱くて人間らしい自分」を知った。今月、新年度から始まった新たなコーナー。おはよう日本の「筋肉体操」でマンスリーゲストとして、みずからの体を探究している渡部暁斗選手が北京オリンピックで気付いた“価値”とは・・・。

 

 

オリンピックシーズンを終えた渡部選手は、新年度から新たにスタートしたおはよう日本の『筋肉体操』に出演。「自身の体を探求することが何よりも好きだ」という言葉どおり、楽しそうに細かな筋肉の部位について語り、柔軟でバランスがとれた肉体を惜しげもなく披露してくれた。およそ2か月前の北京オリンピックで苦しんでいたとは思えないほど、すっきりとした表情だった。

これまでと違う自分を見てみたい

北京大会開会式、旗手を務める渡部選手の姿があった。5大会連続のオリンピック出場で、これまで2つの銀メダルを獲得した第一人者にとって初めての大役。特別な思いを抱いていた。

 

北京オリンピック開会式で旗手を務めた渡部暁斗選手(左)と郷亜里砂選手(右)

渡部 暁斗 選手

これまでの大会ならやっていなかったと思う。4年間の取り組みだったり、ここ2年コロナ禍でいろいろなことがあって自分の心境も変化してきて、今回の五輪は、いつもと違う感覚で臨みたかった。

この『いつもと違う』という感覚。理由の1つは渡部選手の大きな心境の変化があったからだった。おととし(2020年)第一子の男の子が誕生。心底スキーが好きで、これまで何よりも優先して100パーセント、スキーに注いできた。それが子どもが生まれて大きく変わったという。

 

長男の雄然ちゃんを抱く渡部選手

渡部 暁斗 選手

自分の息子のためだったら、一生スキーに乗らなくてもいいと思える。どうにかして彼の成長を見守り支えることが僕の人生の最優先になった。そのためならスキーも辞められる。1人の人間としての行動だが、もう片方ではスキーをしたいという自分もいる。それは別人格。そこのバランスが変わってきている。

だからこそ、北京大会の位置づけについて「自分の時間を100パーセント使って、金メダルを目指すのは最後」としていた。

弱くて人間らしい自分に出会い 気付いたこと

2014年、2018年のオリンピックで銀メダルを獲得

高校生の時に初めてオリンピックに出場し、これまで20年近く世界で戦い続けてきた。世界一を模索しながら、みずからの肉体とも向き合ってきた。成長を目指したチャレンジの失敗は恐れず、強くなりたい。その一心でストイックに挑み続ける姿は、まるで侍のようだった。さらに自分自身をこうも表現していた。

渡部 暁斗 選手

今までのオリンピックや競技人生って、マシーンみたいな感じだった。結果を出して実力を証明するためだけのマシーン。

オリンピックシーズンの渡部選手は序盤からずっと苦しんでいた。得意のジャンプで飛距離が伸びなかったのだ。北京入りして本番のジャンプ台で練習を重ねれば重ねるほど、これまでにない不安が襲っていた。

 

北京オリンピック ノルディック複合男子個人ノーマルヒル 前半のジャンプ

その中で迎えた初戦のノーマルヒルは、まさかの7位に終わった。この結果に心が折れたという。

 

それでも「100パーセントで臨むオリンピック」と発した自分の言葉には責任を持たないといけない。

渡部 暁斗 選手

金メダルが取れるか取れないかというよりは、諦めないでベストを尽くすことだけは、しなければいけない。

ラージヒルまでの5日間で持ち直そうと、もがき続けた。コーチと濃密に意見を交わし、体の反応をよくするために神経や筋肉の使い方を意識し、片足スクワットやレッグプレスでトレーニングを続けた。その成果は、徐々に飛距離に現れた。ラージヒルの前の公式練習でようやく「今シーズンで一番いい」と言えるまでに復調していた。

 

そして、本番の激闘で手にした銅メダル。「奇跡的なこと」と語った渡部選手は、一番、ホッとしているように見えた。

 

渡部 暁斗 選手

たくさんの人に応援してもらって背中を押してもらって、ここまで来られた。応援してくれた皆さんにありがとうという言葉を伝えたい。

気付いた“スポーツの価値”

求めていたメダルではなくても応援の声が「弱くて人間らしい自分」と“スポーツの価値”を出会わせてくれたと感じた。

 

渡部 暁斗 選手

自分でも芯は強いと思ってたし、そのくらい信念を持って競技に取り組んでいたので、ちょっとやそっとのことでは心なんて折れないという感覚。でも自分の思うようなパフォーマンスが出せなくなってくる機会が多くなり、結果も出なくなってきた。そういう時に応援の言葉を素直に受け取って、それをパワーに変えることもときには必要なんだな。

そして、スポーツの本当の価値は「スポーツ選手がプレーで伝えるのもそうだが、見ている人が選手に対して応援の気持ちを伝えるという方向の価値もあるな」と語った。


さらにもう1つ。強さを追い求め続けてきた渡部選手がうれしくてしかたなかったことがあった。自分が愛してやまないノルディック複合のオリンピックのレースを多くの人たちがおもしろいと感じてくれたことだ。

 

北京オリンピック ノルディック複合男子個人ラージヒル 前半ジャンプと後半距離

渡部 暁斗 選手

オリンピックって、メダルを取るか取らないかとか色に対してこだわりを持ってきた中で、今回『面白かったよ』とか『思わず立ち上がって応援しちゃった』というメッセージをもらった。自分が求めていたものってそういうものだったなと。そういう瞬間ってメダルを取る前に訪れている。そういう瞬間がスポーツの本当の価値なんじゃないかと思えるオリンピックだった。

だからこそ、これから先、もっと変わっていきたいと思っている。次の目標は、競技を続けながらノルディック複合の魅力を伝えて盛り上げていくことだ。

この記事を書いた人

沼田 悠里 記者

沼田 悠里 記者

平成24年 NHK入局。金沢局、岡山局を経てスポーツニュース部。

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