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特集 小よく大を制す!小兵の知られざる世界 大相撲どすこい研

相撲 2022年4月27日(水) 午前11:00

巨漢の力士がひしめく大相撲。その中で、ひときわ目を引く存在「小兵」。大きな相手に果敢に挑む小兵力士の戦いは、近年の大相撲人気を押し上げています。毎回ワンテーマで大相撲の魅力を深く掘り下げる「大相撲どすこい研」では、今回、小兵力士について独自の視点で調査!小兵の知られざる魅力に迫りました!(この記事は、2021年7月3日放送の「大相撲どすこい研」の一部をテキスト化したものです)

あなたが好きな小兵力士は?

どすこい研では、番組ホームページを通じて好きな小兵力士についてアンケートを実施。思い入れのある小兵力士の名前とともに、数々の熱いメッセージが集まりました。


まずは「肉体美の“相撲レスラー”」、元十両の維新力(身長1m74cm、体重89kg)。ファンの記憶に刻まれているのが十両時代の若貴兄弟との対決。成長著しい若貴兄弟に対し、電光石火の上手投げで白星!アンケートには「凄まじい筋肉が印象的」「筋肉マッチョ」などの声が寄せられました。


続いては「イケメン スピードスター」、元関脇・寺尾(身長1m86cm、117kg)。ファンを魅了したのは“高速の突っ張り”。体重は軽くても回転数で圧倒。横綱・千代の富士を相手に猛スピードの突っ張りで対抗!組まれても素早い反応で白星を手にした姿が印象的だったようです。


そして「技のデパート」、元小結・舞の海(身長1m71cm、体重97kg)。多彩な技を繰り出す舞の海の相撲は驚きの連続!巨漢を翻弄する姿は多くの人を勇気づけました。


そして最後は「真っ向勝負の大物食い」、昭和の名関脇・鷲羽山(身長1m74cm、体重110kg)。大きな相手にもひるまず立ち向かい土俵狭しと動き回る姿から、ついた愛称は“ちびっこギャング”。「小柄ながら突き押しの真っ向勝負が凄かった」などの声が寄せられました。

体が小さいのは有利?不利?体格差と勝率の関係


ところで、そもそも小兵の基準というものはあるのでしょうか?相撲界には小兵の基準はないそうですが、現役力士の中で小兵といえば、こちらの4人ではないでしょうか。

・石浦(身長1m75cm、体重121kg)
・炎鵬(身長1m68cm、体重98kg)
・翠富士(身長1m71cm、体重117kg)
・照強(身長1m69cm、体重117kg)

・・・ということで、放送直前の場所を休場した翠富士を除く、3人に集まってもらいました!


1人目は、大量の塩まきがトレードマークの照強。阪神淡路大震災が発生した日に淡路島で生まれた照強。大きな相手にも真っ向から挑む負けん気の強さと、パワー溢れる相撲が人気です。


2人目は石浦。大学卒業後、一度相撲を離れ海外留学。そこで、ハリウッド映画のオーディションに合格したという異色の経歴の持ち主。鋼の肉体とスピードに乗った攻めが特徴です!


その石浦に憧れて角界入りしたのが、十両以上では最軽量の炎鵬。圧倒的な体格差をモノともせず、相手に立ち向かっていく姿がファンの心を捉えています。


3人にまず質問したのは「相撲では体が小さい方が不利だと思う。〇か×か」。

 

これには、3人揃って×を挙げました。「物理的に考えれば大きい力士が有利である一方、弱点は小さい力士より多くなる」と言う炎鵬に、石浦も「小さい分、相手の懐への入りやすさやスピードなど有利なこともある」と賛同していました。

 

では、体が小さいと有利な面もあるのか?どすこい研のスタッフは、現役の小兵力士4人について、対戦相手との体格差と勝敗の関係を調査してみました。


まずは身長。小兵の皆さんが言うとおり、相手との差が5cm未満の時に最も勝率が低く、20cm以上の時に最も勝率が高い、という結果に!


続いて体重。相手との差が20kg未満の時に最も勝率が高く、逆に最も勝率が低かったのは20kg以上、40kg未満の相手でした。

 

大きくもなく小さくもない中間くらいの体格の力士は、動きも早く力もあるため、やりづらいのだそう。炎鵬も「僕の一番苦手なタイプだ」と納得していました。


ところが、相手の体重がさらに重くなると勝率は上がっています。一体、なぜ…?

 

炎鵬曰く、体重が極端に違うと相撲の取り口や攻め方が全く違うため、相撲がとりやすく、自分の良いところも出せるのだといいます。

 

「結局小兵は“相手の形にさせない”ことを第一前提で戦わないといけない」と言うのは照強。相手の形に持ち込まれると、小兵は絶対に負けてしまう…だから自分の形になることよりも、“相手の形にさせないこと”の方が、大事なのだといいます。

 

では、相手の形にさせないために、どんな工夫をしているのでしょうか?


「 “相手より低くいく”のが、相手の力を一番出させない一番の技術」と考えるのは照強。低くいくことによって相手は差しづらく、当たりづらく、そして突きづらくなるということでした。


石浦の考えは“スピードで上回る”こと。相手が力を出す前に動くスピードが大事だといいます。


炎鵬の考えは“相手の嫌がることをする”ということ。相手の考えていないことをやると、相手は慌てて力が出ない、だから。そのために相手の裏をかこう、相手の頭にないことをしよう、といつも考えてやっているのだとか。

 

工夫の仕方は三者三様なれども、常に“相手に力を出させない”ことを最前線に考える小兵力士たち。自分の形ではなく、相手に合わせた相撲で勝ちにもっていくことが求められるようです。

小兵たちの“立ち合い”作戦


続いてどすこい研では「立ち合い」に注目。小兵力士たちの戦いをさらに細かく分析しました。


元小結の舞の海さんは、以前「立ち合いってなきゃいいのに」と語っていました。立ち合いを省いて途中から戦うためにはどうしたらいいのだろうか――そのために「猫だまし」で相手の目をくらませる手を使ったり「八艘飛び」で当たらずにまわしを取ったりと、さまざまな工夫をしていたのだとか!

 

一方「立ち合いがないと勝てない」と語ったのは炎鵬。相撲の流れは、立ち合いでほとんどが決まるため、そこで、どれだけ相手の裏をかけるかどう、何をするか、というところに自分の勝機があるのだといいます。

 

では、小兵たちは、立ち合いの作戦を、いつ、どのように決めているのでしょうか?


「前の日の夜に決める」というのは照強と石浦。勝負の直前になると、どうしても勝ちたいという気持ちが出て、勝ちにいくような立ち合いになってしまうから、とのこと。そのために、前の夜の冷静な時に「相手はこう来るから自分はこうやっていこう」と決めるのが大事なのだということでした。

 

これに対して、炎鵬は「土俵に上がった時の直感」。土俵に上がると考えが変わってしまい、ほとんどの取組では、決めきれていないのだそう。そこで仕切りの様子などから相手の雰囲気の違いを見て、立ち合いの制限時間いっぱいになる時に作戦を選択するのだそうです。

 


照強や石浦と同じく“作戦は前の日からしっかり考えるタイプ”だったという元横綱・稀勢の里の二所ノ関親方(元・荒磯親方)にとって、炎鵬のような発想は“ありえない話”とのこと。「炎鵬は天才じゃないかと思う」と、ただただ驚愕!とはいえ、直感勝負の力士は感性が良い時は活躍できる一方、はまらなくなると負け込む場合もあるのだそう。良い時と悪い時の良し悪しがはっきりしているといいます。

小兵力士に多い決まり手は?


どすこい研では、さらに小兵たちの戦い方を深堀りすべく、小兵4力士の幕内すべての「決まり手」を集計。第3位は「下手投げ」、第2位は「寄り切り」、そして第1位は「押し出し」という結果になりました。


意外にも上位の2つは、幕内全体と一緒でした。体格で劣るはずの小兵が、なぜ王道の技で勝つことができるのか?現役時代、小兵を苦手としていた元関脇・栃煌山の清見潟親方に、小兵の強さの秘密を聞いてみました。


親方曰く、相撲は“バランスの崩し合い”。小兵の力士は、もともと重心が低いうえ、さらに低さを上下左右と低いままで使ってくるので、重心が崩されて最終的には押し出されてしまうのだそうです。


では、相手のバランスを崩すために大事なこととは?3人の力士に聞いてみました。


「僕らは小さいけど押す力がある」というのは石浦。“押す”ことが相手のバランスを崩すのに一番大事だといいます。


しかし「ただ押すだけでは押し負ける」と主張するのは照強。どれだけ押す力があれども、巨漢力士と頭を付け合ったらやはり押されてしまうもの。そのため“相手の顎より下のどこかに頭をつけて押す”ことが大事なのだそう。そんな時に、小さい方が得なのだといいます。


脚力で押すタイプの石浦と照強に対して、炎鵬の場合は相手と自分のまわしの距離感が近く、なおかつ抜群の体幹で下から押して攻めるのが特徴。相手に力を出させないように相手の肘や脇の下に手を入れるなど、基本中の基本がしっかりできているのだと二所ノ関親方も称賛していました。

 

小兵力士の相撲はトリッキーに見える時もありますが、実は、足腰の良さや基本が、しっかりできているという二所ノ関親方。王道の技でも勝てる理由は、人一倍の努力で培った技術にあるようです。

小兵は技が多い?“業師”たちの「思い入れのある技」


とはいえ、小兵力士といえば正攻法だけではない、変幻自在な相撲も魅力。実際、小兵はほかの力士と比べて技が多いと言えるのでしょうか?


100勝を挙げるのに使われる決まり手の種類を調査すると、小兵以外の力士は平均21種類だったのに対し、小兵はおよそ30種類の技を使っていることが判明。そこで、そんな“業師”の小兵力士たちに「思い入れのある技」を聞いてみました。


まず照強が選んだのは「足取り」。押し出しなど取り組みの流れで出せる技に対して、足取りははじめからやると決めて狙わないとできない技。自分の思い通りに足を取れた時が一番気持ちいいのだそうです。


石浦が選んだのは、相手の腕の下から取ったまわしを手前に引きつけるようにひねって倒す「下手ひねり」。一番決まる感覚を持っている技だといいます。


炎鵬が選んだのは「下手投げ」。炎鵬の下手投げは、相手の体重が左手に全部かかってきたのを抜くように投げるのが特徴。相手の体は支えるものがなくなると前に倒れるもの。つっかえ棒をなくすような原理なのだとか!


スペシャルな技、といえばこの方も気になるところ。「技のデパート」で知られる元小結・舞の海さんにも聞いてみました。


選んだのは、相手の膝の外側に自分の膝を当て、後ろにひねるように倒す「切り返し」。タイミングや膝の使い方、体の使い方などが全てピタッとハマった一番では、すごく軽く感じられたと振り返っていました。

もし稀勢の里と戦うとしたら?その攻略法とは?


さらに、どすこい研は、3人の力士にこんな質問も。

「もし、稀勢の里と戦うとしたら、どうやって攻略しますか?」



「下から鋭く当たって、上下の動きで崩したい」という照強に対し、「思い切って足を取りに行く」という炎鵬。もうそれしか勝ち目がないと苦笑いします。


また「稀勢の里関が慌てて追いかけてきた時はチャンスあるかもしれない」というのは石浦。力では絶対勝てないものの、そのシチュエーションを作れたら面白い相撲になるのでは、という石浦の意見に「追いかけてくれば5%くらいの勝率はあるかな」と照強も賛同していました。


これについて、二所ノ関親方に聞くと、自身の負けパターンはまさに“慌てて追いかけるとき”なのだそう!そのため、石浦の意見には「さすが分かっているな」と感心!また照強の作戦に対しては「上下の動きは嫌いではないので外れ」という一方、炎鵬の足取りを狙う作戦はものすごくいい作戦だと唸っていました。

生まれ変わったらもう一度小兵になりたい?


どすこい研では最後に3力士に「生まれ変わってまた相撲を取るとしたら、もう一度小兵になりたいですか?」と質問してみました。

 

すると石浦が「稀勢の里のような体で相撲をとってみたい」と答える一方、照強と炎鵬は「もう一度小兵でいい」という答えが返ってきました。小さな体でどこまでやれるのか――まだ分かっていない可能性を、試してみたいと話していました。小兵1人とっても相撲の取り方も考え方はさまざま。最後まで多彩な小兵たちでした。

 

大型力士を相手に色々な技を繰り出し、大相撲を盛り上げる小兵力士たち。番組では、そんな小兵力士がバラエティー番組における“ひな壇芸人”のようだという意見も。番組が盛り上がるのは彼らが色々な技を出すからこそ。大相撲も小兵力士抜きには絶対に盛り上がらない、そんな影の立役者といえそうです。

 

なお、どすこい研の調査によると、小兵の勝率が高いのは千秋楽。続いて初日、2日目、3日目と序盤に高い傾向に!次の場所では、小兵力士がどんな戦略でどんな技を繰り出すか、ぜひ注目してみてください!

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