特集 好きな決まり手第2位!逆転技「うっちゃり」に迫る! 大相撲どすこい研

土俵際の鮮やかな逆転技で一瞬にして勝敗が入れ替わる「うっちゃり」。大相撲どすこい研の番組HPで行った“好きな決まり手投票”では堂々の2位!「胸のすく爽快感」「最高にドラマチック」と人気抜群でした。毎回ワンテーマで大相撲の魅力を深く掘り下げる「大相撲どすこい研」では、この「うっちゃり」を独自の視点で調査。その魅力に迫りました!(この記事は、2021年3月13日放送の「大相撲どすこい研」の一部をテキスト化したものです)
うっちゃりとはどんな技?
大相撲中継の英語実況では「バックワード・ピボット・スロー」と呼ばれる、うっちゃり。これは、すなわち「後方回転投げ」を意味します。
角界で決まり手の判定を務める「決まり手係」40年の大山親方によると、うっちゃりの条件は“体を反らせ、両足は土俵につけたまま”投げに入ること。腕は2本抱えても、差しても、首を抱えても、反り腰になっていればOK。
逆に、うっちゃりをしようとした力士の両足が、そのまま土俵についていなければ、うっちゃりとは判定されず、すくい投げなど、別の技と見なされます。
現役・歴代うっちゃり名人力士は?
今回、どすこい研では、現役・歴代で最も多く「うっちゃり」を決めている力士を調査。まず現役力士第3位には、白鵬や鶴竜、大栄翔ら7人が、同じ勝利数でランクイン。その勝利数は、なんとわずか「1」。なかでも白鵬の「うっちゃり」は、全勝優勝を決めた技でした。
栄えある1位は白星「2」の2人。1人は栃ノ心、そしてもう1人が大関・正代。正代にとって、うっちゃりは“最後の切り札”。うっちゃりを狙った時点で正攻法での勝ちはなく、最後に一緒に倒れるつもりで出す、捨て身の技だそうです。
元横綱・稀勢の里の二所ノ関親方いわく、正代の強さは“背筋力の強さ”。正代は前に出る時も反りながら出てくる、反りながら攻めることが非常にうまい力士なのだといいます。では、歴代で最も多く「うっちゃり」を決めているのは誰なのか――?
歴代No.1力士は、身長1m78cm、体重およそ100kgの体で昭和40年代に活躍した、元小結・若浪!うっちゃりで56勝を挙げました。その秘訣は何なのか?本人が引退後に語った言葉が残されていました。
「うっちゃりは1つのタイミングがある。呼吸を相手が吐いた時に、しめたと思ってうっちゃったら(相手の)体が軽くなる」――相手が呼吸を吐いたな、というタイミングを、稽古場で自然に覚えたのだといいます。
昭和43年春場所には、なんとうっちゃりだけで5勝も挙げた若浪。つま先だけで俵に残り、まるでバレエダンサーのような足さばきで「うっちゃり」を決めるなど強靭な足腰を武器に観客を沸かせ、この場所で見事に初優勝を飾りました。
二所ノ関親方は、若浪の“相手に密着する力”に注目。相手に体をぴったりくっつけることで、相手の力を出せなくさせているのだといいます。そもそも体が密着していると、お互い力が相手に伝わりにくくなるのだとか。若浪はそれを自分先行に有利に働かせ、相手が息を吐いて軽くなった瞬間にうっちゃりを決めているのだと分析。自分有利に持っていくのが非常にうまい、と舌を巻きます。
今や絶滅寸前!?「うっちゃり」は、なぜ減ったのか?
ところで、この「うっちゃり」、実は決まり手全体に占める割合が、年々、激減していることが分かりました。
では、その理由として、どんなことが考えられるのか、3人の親方に話を聞きました。1人目は幕内で3勝、十両で5勝をうっちゃりであげた元北太樹の小野川親方。2人目はうっちゃりでの勝ったことも負けたこともない、元大関・琴奨菊の秀ノ山親方。そしてうっちゃりで幕内4勝の経験を持つ元関脇・安美錦の安治川親方です。
親方たちが、まず挙げたのは、力士の大型化が進み“怪我につながる”から減ったのではないかということ。小野川親方は、かつて土俵際で200kg以上の巨体力士相手にうっちゃりをしかけて、土俵から一緒に落ち、お尻から足首まで全部すりむいた経験を話してくれました。
次に指摘があったのは“手をつく立ち合い”への変化に伴う減少です。小野川親方によると大相撲では昭和59年に、しっかり手をつく立ち合いに変わりましたが、それ以前の“手をつかない立ち合い”のほうが、力士の胸と胸が当たりやすく、うっちゃりになる四つ※の体勢になりやすいのだそうです。(※対戦する2人の力士がお互いに差し合い、体を密着させるように組み合う形のこと)
確かに、土俵に手をつかずに立ち合うとまわしを掴みやすくなり胸が合う。そうなれば「うっちゃり」の体勢に入りやすくなります。そのため、稽古場でもよく四つ相撲を組んでいたであろう昔の力士のほうが、うっちゃりが体に染み付いていたのではないかと小野川親方は分析していました。
安治川親方は、力士の戦い方の変化を理由に挙げました。力士たちが、頭をつけて押す人は押す、四つ組む人は組む、など“自分の型”を優先するようになり、どんどん勝負が早くなっていったのだと安治川親方はいいます。自分の形になれば一瞬で勝負が決まる一方、自分の形になれないと諦めてしまうパターンも影響したのでは、ということでした。
うっちゃりを決めやすい力士の条件とは?
では、次にうっちゃりを決めやすい力士とは、一体どんな力士なのか。
うっちゃりで勝った力士の身長と体重を調べたところ、身長の平均は幕内全体とほぼ変わらない一方、体重はおよそ13kg軽いことがわかりました。
次に調べたのは、うっちゃりで勝った力士の番付。最も多かったのが「前頭13枚目」。次いで「前頭10枚目」と「12枚目」。横綱や三役と当たる機会が少ない、番付下位の力士の方が多く決めていました。
「うっちゃり」は何日目に多い?
では、決まり手として減りつつある「うっちゃり」は本番所の何日目に出る可能性が高いのか?どすこい研では、スタッフが2000年以降に記録された47の「うっちゃり」をすべてチェック。その傾向を調べたところ、中日の9日目が1番多い結果でした。
「うっちゃり」はリスクが高い技ではあるものの、力士たちが“これだけは譲れない”という大一番で、逆転をかけて挑む切り札、そして、最後まで諦めない心意気から繰り出すため、勝ち負けを超えて見る者の心をつかむ技ということなのかもしれません。