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特集 アルペンスキー日本代表 森井大輝選手は6大会連続出場!北京パラリンピック

パラスポーツ パラリンピック 2022年2月28日(月) 午後5:15

北京パラリンピック、アルペンスキー日本代表の森井大輝(もりい・たいき)選手は、今回の北京大会で6大会連続出場。これまでに銀メダル4個、銅メダル1個を獲得しています。森井選手は、どんな選手なのか?また、パラリンピックの競技の中でも迫力があると言われるアルペンスキーとは、どんな競技なのか?パラリンピックに日本代表として3回出場した井上真司さんにアルペンスキーの魅力と森井選手について聞きました。

アルペンスキーは5種目!それぞれに魅力あり!

 

――パラリンピックのスキー競技について教えてください。

 

スキー競技は、ノルディックとアルペンという2つに大きく分かれます。このうち、アルペンは、雪の斜面を自然に下りる力を利用していかに速く滑るかという、スピードと技術を競う競技。アルペンには、5種目があり、技術系と高速系の2つに分けられます。

 

技術系は「回転」「大回転」の2種目。コースに立てられたポールの間を細かくターンしながら滑っていく「回転」。そして、旗門をぬうように、大小のカーブを描きながら滑り降りる「大回転」です。

 

高速系は「スーパー大回転」「滑降」「スーパー複合」の3種目。「スーパー大回転」は、大回転と同様に旗の間を滑り降りる競技。旗の数が少なく、カーブも緩やかなので、大回転よりスピードが出ます。「滑降」は、かっ飛んでくるという表現をされるように、とにかくスピードが魅力。「スーパー複合」は、回転とスーパー大回転の2本のレースの合計タイムで競います。

 

そして、各種目に、障害の程度に応じて、3つのカテゴリーが設けられています。立って滑る「立位」、チェアスキーに乗って滑る「座位」、そして「視覚障害」の3つです。

 

座位カテゴリーの選手が使用する「チェアスキー」

 

「チェアスキー」は、座位のカテゴリーで使用されるマシンのことを指しています。より良いパフォーマンスを出せるよう、雪質やコースを考慮しながら、競技に合わせてサスペンションを調整するなど、細かくセッティングしていきます。スキー板の部分は種目によって変更しますが、チェアの部分はどの種目も同じものを使用することが多いです。本来はチェアもそれぞれの種目にあわせて変更したいところですが、使用できる装備の数に制限があるため、難しいですね。

滑りだけではなくメカニックも追求する森井選手

 

――森井大輝選手は、どんな選手ですか?

 

森井選手とは2002年のソルトレークからトリノ、バンクーバーと3大会で一緒にパラリンピックに出場しました。私とは、だいぶ年齢が離れていますが、人懐こく、気さくに挨拶してくれるような選手でした。森井選手は、明るいキャラクターで、みんなに好かれていましたね。今回の北京大会では、5種目に出場予定です。

 

――技術的には、最初から優れたものがあったのですか?

 

ソルトレークの時は、まだ出てきたばかりという印象でしたが、次のトリノに向けて一気に成長しましたね。のめり込むと、すごい集中力で、はまっていく印象がある選手です。スキーの滑りはもちろんですが、チェアスキーのメカニック的な部分にも非常にこだわりがあって、気になるところがあると「こうしたほうがいいんじゃないか」と、とことん突き詰めます。滑り方だけではなく、メカについても、日本のチェアスキーのあり方を確立した選手と言えるのではないでしょうか。

 

――日本選手の中心的な存在になっていったということでしょうか?

 

チェアスキーに関していうと、2010年のバンクーバー大会あたりから日本選手がいい成績を残すようになってきたんですね。この勢いを主導してきたのも、森井選手だと思います。

 

――森井選手の強みはどのようなところでしょうか?

 

自分の体の動くところ、動かないところをよく理解した上で、体を上手に使い、バランスが取れた動きができることは、強みのひとつでしょう。彼は、パワーリフティングにも挑んだことがあるので、上半身の鍛え方がすごいんです。だから、そのように強く使える部分の動きで、使えない部分をカバーしてバランスをとっているのでしょう。スキー板の使い方も上手ですね。板の"しなり"を十分に活用できる滑り方ができています。

 

――森井選手は6大会連続のパラリンピック出場。前回のピョンチャン大会まで4大会連続で銀メダルを獲得。20年近く日本のトップにいます。その強さの秘密は、どこにあるのでしょう?

 

彼の向上心と、それによって培われた洗練された技術でしょう。あと、年齢を重ねるにつれて身体能力が落ちたとしても、別の部分を動かすことでそれをカバーできる、といったことを理解しているんだと思います。その意味では、“体の使い方”という技術は年々向上しているのかもしれませんね。

 

2018年、ピョンチャンパラリンピックで銀メダルを獲得した森井選手(前列左)

 

――森井選手は現在41歳。北京パラリンピックでもメダルを狙えるでしょうか。

 

おしり周りや太もものような大きな筋肉が必要になる部分は、チェアスキーが代わりに仕事をしてくれます。つまり、身体の加齢による衰えが、他のカテゴリーよりも出にくいんですね。一方で、チェアスキーの使い方は経験を積めば積むほど上達します。それに加えて、森井選手は体の使い方をちゃんとわかっている。こういうことを踏まえると、北京大会でメダルを狙うことは十分可能だと思います。

 

実際、森井選手の練習を見ていると、細かな動きが求められるスラロームでも「その障害で、ここまで動けるのか!」というくらい、いい動きをしています。森井選手が得意な大回転、スーパー大回転は特に期待しています。

いきいきとした選手たちを見てほしい

 

――アルペンスキーを観戦する時の注目ポイントを教えてください。

 

選手たちは、日常生活では車いすに乗っています。少しの段差や坂道ですら非常に困難に感じていると思いますが、その彼らが、ひとたびチェアスキーに乗ると、チェアスキーを自由自在に使いこなしながら、急斜面のコースを縦横無尽に颯爽と滑っていくんです。そのいきいきとした姿をぜひ見てほしいですね。

 

――アルペンスキーの各種目では、どのように勝敗を決めるのですか?

 

それぞれの種目は、障害の程度によって「クラス分け」されています。数字が小さいほど障害が重く、座位には、LW10、LW11、LW12と3つのクラスがあります。LW10とLW12については、さらに細かくLW10-1、10-2、LW12-1、LW12-2と分かれています。日本代表の森井大輝選手は、LW11という中間のクラスです。

 

このクラスごとに“係数”が設定されていて、実測タイムに、この“係数”をかけて、正式な成績とします。“係数”は、障害が重いクラスの方が小さいので、LW12の選手が、LW10の選手よりも実測タイムでは、速かったとしても、“係数”をかけた結果、LW10の選手が上の順位になるということもあります。

 

――選手にとって納得がいかない結果になることはないのでしょうか?

 

そういうことが、極力発生しないよう、クラス分けも係数も非常に慎重に設定されています。実際に試合の結果を見ると、誰が見ても実力があり速い選手が上位に来ています。

 

チェアスキーはさまざまな部品で構成されており、状況に合わせてサスペンションを調整する

 

チェアスキーの場合、重心の位置のコントローㇽが難しい。高速系の種目であれば重心が低いほうが安定しますが、低くしすぎるとターンするときに雪にお尻がこすってしまう。かといって重心を高くしたら、今度はバランスが悪くなる。この調整が難しいですね。

 

ちなみに、チェアスキーは、4年ごとのパラリンピック開催に合わせて、稼働するところを変えたり、より良い動きを求めて開発を進めたりしていきます。車やバイクなどのメカが好きな人は、そういった視点でチェアスキーを見るのも、面白いかもしれませんね。

 

――初めて競技を見る人でも、上手な選手の特徴は分かりますか?

 

上手な選手は体が揺れません。曲がるときに体を傾けても、頭は斜面に対してまっすぐ向いています。肩のラインも、左右に動いたり上下にぶれたりすることがありません。そういう点にも注目して「この選手は期待できそうだな」「この選手は結構ぶれているけど、大丈夫かな」などという視点で見ると、よりレースを楽しめると思います。ぜひ、この機会に日本選手の応援をしながら、より多くの方に魅力を知ってもらえたらうれしいですね。

 

井上真司(いのうえ・しんじ)

日本障害者スキー連盟、理事。パラリンピックのアルペンスキー日本代表として、2002年ソルトレークシティー大会に初出場。その後も06年トリノ大会、10年バンクーバー大会に出場。2014年ソチ大会では、NHKで中継の解説を務めた。

 

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