特集 大栄翔『一つ一つ上がっていく』

大栄翔は令和元年九州場所で白鵬から金星を挙げて殊勲賞を受賞しました。新小結の初場所は上位の壁に苦しみ負け越し。春場所は東前頭筆頭で勝ち越して1場所で三役復帰を果たしました。七月場所への思いを聞きました。
無観客の春場所を経験し、声援が力になると思った
白鵬から金星を挙げ初の三賞殊勲賞を受賞(令和元年九州場所千秋楽)
ーー夏場所が延期から中止になりましたが、どう思っていますか。
今、世の中が大変な時期で、中止の判断は正しいと思います。相撲を楽しみにしていたお客さんにとっても力士にとっても残念だという気持ちがありますが、コロナウイルスに感染しないことが大事なので、中止にしてよかったと思っています。
ーー七月場所に向けては二か月以上の長い時間の稽古となりますが、どう臨んでいますか。
初めてのことなので体づくりも稽古の仕方も少し変わってくると思います。そこで気持ちを切らさずにこつこつとやり続けることが、いい成績を残すために必要なのだと思います。あとは1年に1回の名古屋に行けないので、名古屋や部屋の宿舎のある三重県のファンの方には、テレビの前で応援してもらえたらと思っています。
ーー無観客の春場所は、3連敗から7連勝し再び3連敗して最後に勝ち越しましたね。
連敗癖があるので、そういうところは直していかなければと思っています。自分の弱いところですね。無観客の場所は初めての経験ですが、改めて館内のお客さんの声援が力になっていると思いました。
立ち合いを厳しく、突き押しをもっと磨きたい
竜電を押し倒して勝ち越しを決める(春場所14日目)
ーー1場所で三役に復帰しますが、三役に何を感じましたか。
初めて三役に上がれたときは本当にうれしかったです。負け越して三役から落ちて、春場所は東の前頭筆頭だったので1場所で戻ると決意して臨みました。上位にも自分の相撲を取り切ると通用するということを感じることができました。三役に上がって落ちて、また戻れることで精神的にも成長できたと思います。
ーー精神的にも技術の面でも成長した実感がありますか。
そうですね。三役を経験したことで自分でも成長できたと思っています。
ーー今は具体的にどのような稽古をやっていますか。
ほかの力士との接触を避けるために、相撲を取ったりぶつかり稽古をしたりできないので、部屋に置いてある器具やダンベルを使ってトレーニングをしたり、しっかりと四股やてっぽう、すり足の基本動作をやっています。あと埼玉栄高校時代に山田先生に教えてもらった練習をやっています。
ーー七月場所に向けての課題は何だと思いますか。
立ち合いをもっと厳しくすることです。やはり自分の立ち合いができるようになってから、そのあとの攻めが厳しくなりました。私の持ち味は突き押しなので、突いて攻めることができたら相手の形にさせずに取れると思います。自分の形で先手が取れます。突き押しをもっと磨いていければと思います。
場所を楽しみにする方のために自分の相撲を取り切る
母校埼玉栄高校の化粧まわしをつける
ーー七月場所は関取らしい激しい突き押しの相撲を見せたいですね。
無観客といってもテレビで見てくれているファンがいっぱいいます。そういう人たちにいい相撲を見せられたらいいなと思います。
ーー関取にとってはさらに上を目指す大切な場所となります。決意を聞かせてください。
三役に復帰したと言って喜んでいても仕方がないと思っています。そこで勝ち越すことを目指していかないと。まだまだ上もあります。ここで気持ちを引き締めて相撲を取っていきたいです。
ーー目標はさらに上の地位ということですね。
そうですね。今は関脇に上がりたいと思っています。一つ一つ上がっていくのです。大変な状況のなかで、夏場所が中止になったあとの場所を楽しみにしてくれる方も多いと思います。そういう方のためにも自分の相撲をしっかり取り切って頑張りたいと思います。
この記事を書いた人

北出 幸一
相撲雑誌「NHK G-Media大相撲中継」編集長。元NHK記者。昭和の時代に横綱千代の富士、北勝海、大乃国らを取材し、NHKを定年退職後に相撲雑誌編集長となる。