ストーリーパラスポーツ

"超人"マルクス・レーム 2020へのメッセージ

2019-08-30 午前 11:04

東京パラリンピック開催まで1年を切りました。8月25日のサンデースポーツ2020にはスペシャルゲストとして、パラ陸上・走り幅跳びのマルクス・レーム選手が生出演。

義足のジャンプでリオデジャネイロオリンピック金メダリストを超える8m以上の記録を連発し、自身の持つ世界記録を塗り替え続ける「超人」。その強さと可能性に迫りました。そして、レーム選手が日本の人たちに贈ったメッセージとは・・・。

※こちらは、2019年8月30日に公開されたものです。内容は公開時のものとなります。

義足は体の一部

8月25日。東京・渋谷のグラウンドに「超人」の姿がありました。

 

 

陸上ドイツ代表、マルクス・レーム選手、31歳。去年、パラ陸上のヨーロッパ選手権で「8m48」を記録し、自身の持つ世界記録を更新。来年の東京パラリンピックで3連覇を目指しています。

 

この日はパラリンピック開幕1年前。来日したレーム選手は大会を盛り上げるためのイベントに参加しました。この場でのデモンストレーションのジャンプで、驚きの跳躍を見せました。

 

驚きの世界記録!?

 

記録はなんと「8m50」

 

公式な記録会ではないため、あくまで参考記録ですが自身の世界記録を2センチ上回りました。

 

まさに「超人」的な跳躍を見せてから数時間、サンデースポーツ2020への生出演でパラリンピックに向けた思いをたっぷりと語ってくれました。

 

 

――あれだけ跳ぶと爽快じゃないですか。

 

「いいジャンプができているときは、いつも本当に楽しいです。あれだけ遠くに、砂場のぎりぎり最後まで跳ぶというのは、すばらしい感覚なんですよ。」

 

――レーム選手は義足の方の足で思い切り踏み切りますよね。その時に怖さは感じないのですか。

 

「いえ、恐怖は全くないですね。競技用の義足はもう『自分の体の一部』という感覚ですし、とても信頼しています。体の一部ですから、全く怖くありません。」

 

スタジオで世界記録のジャンプを再現すると…!

絶え間ない努力と心の強さ

レーム選手は現在31歳。リオ大会でパラリンピック連覇を成し遂げた後も、自らの世界記録を更新し続けています。30代に入っても、止まることなく自分の記録を伸ばし続ける、その秘訣を尋ねました。

 

リオ大会・金メダルのジャンプ

 

「一番の秘訣はいつも努力すること。私にはトレーニングをサポートしてくれるチームがいるので、彼らと常に厳しいトレーニングをしています。みなさんの見えないところでね(笑)。
ジャンプする上で重要なのは体のバランスです。特に踏み切りの時ですね。これは自分のために調整されたブレード、競技用の義足が完全にフィットすることが大前提です。そして体幹がしっかりしなければいい踏み切りができません。強い体幹が、ジャンプのエネルギーを作り出しています。
ただ、大会で記録を出す上で非常に重要なのは、『心の強さ』だと思います。その点は、年を重ねることで、より強くなってきましたね。」

 

レーム選手は少年時代、プロを目指すウェイクボードの選手でした。
14歳の時、ボートのスクリューに足を巻き込まれ右ひざより先を切断します。

 

しかし、彼はスポーツへの情熱を失いませんでした。

 

 

――14歳で膝から下をなくした時、その時はどのような気持ちになったんでしょうか。

 

「もちろん最初はショックでした。私はとても『アクティブ』な子どもでしたから。スポーツはなんでも大好きで、木登りも得意でしたよ。それがある日、突然なくなってしまった。『アクティブ』な生活のために大切なものがなくなってしまうというのは、とてもショックでしたね。
でも、すぐに乗り越えることができました。家族の存在ももちろん大きかったですし、病院では多くの友人たちが私をサポートしてくれました。ボードが波に乗っているビデオを見せてくれたりね。だから入院していた時すでに私は、『また絶対ウェイクボードに乗るんだ』と決意して、実際に1年後にはボードに乗ることができたんです。」

 

ロンドン大会で初めての金メダル

 

20歳の時に本格的に走り幅跳びの競技を開始。次々と快進撃を続け、健常者のトップ選手を超えるほどのジャンパーへと成長していきました。


――陸上競技、特に幅跳びとの出会いは、レーム選手にとってどのようなものでしたか。

 

「本当にすばらしい出会いでした。元々私は小さいころ、飛んだり跳ねたり、時には窓から飛び降りたりする事が大好きでしたのでね(笑)。今は本当に走り幅跳びという競技が大好きです。」

オリンピックとパラリンピックをつなぐ

レーム選手の持つ世界記録、8m48という記録のすごさは、オリンピック選手の記録と比較すればより鮮明なものになります。オリンピックの過去3大会、北京、ロンドン、リオの男子走り幅跳びの金メダリストの記録を、レーム選手の世界記録は上回っているのです。

 

オリンピックのアスリートに匹敵する、時に上回る記録を出していくなかで、レーム選手はある「夢」を明らかにして、世界を驚かせました。


――レーム選手は「オリンピックにも出場したい」という思いを明らかにしましたよね。その気持ちは今も変わりませんか。

 

 

「はい。もし実現できたらすごいことですからね。私は、いつでも自分を向上させたいんです。自分がオリンピックのアスリートと同じくらいの記録で跳べるようになって、彼らと一緒にチャレンジを、挑戦をしたいと思うようになりました。今はオリンピックのアスリートと一緒に練習する事もありますし、しばしば私の方が遠くに跳ぶ時もあるんですよ。将来的には、私だけではなく多くのパラアスリートが、オリンピックのアスリートと一緒の舞台でパフォーマンスをして、『自分たちも同じように跳べるんだ、競技できるんだ』ということを見せられたらいいなと思います。」

 

――これはちょっと聞きにくい質問ですが、レーム選手に対しては、「義足のおかげで遠くに跳べるんだ、いい記録が出ているんだ」という意見もありますよね。そうした声にはどうお答えになりますか。

 

 

「その問題は、答えを出すのが本当に難しいことです。これまでいろいろな調査や研究が行われてきました。義足は競技に有利なのか、不利なのか。でも現在最高峰といわれる研究でさえ、義足による優位性があるのか、完全には断定することができないという結果でした。だから私はいつもこう答えるようにしています。

 

『もしかしたら義足で私の記録は伸びるかもしれない。でも、世界に私と同じくらい遠くに跳べる選手は他にいないよ』と。

 

今のところ、私は2位の選手の記録よりも1m近く遠くに跳んでいるのですから。私の記録が決して簡単なものではないということを、わかってもらえるかと思います。」

 

オリンピックとパラリンピック。それぞれの大会で競技をするそれぞれのアスリートたち。レーム選手は、自らが両者の距離を近づけていきたいという思いを語ってくれました。

 

「私はオリンピックとパラリンピック、それぞれのアスリートをもっと近い存在にしたいのです。もちろん、現在それぞれの大会で競技をしているのは、決して悪いことではないとは思っています。今はまだそれぞれの「価値観」が違うのです。しかし将来的には、両者がもっと近くで、もっとつながれたらと思います。私たちはアスリートとして同じパッション、情熱を持っています。そのパッションを一緒に共有しましょう。そして一緒に競い合いましょう。それができたらと思っています。」

 

 

「私の最大の目標は、『パラアスリートは、決してオリンピックのアスリートの影に隠れた存在ではない』という事をみんなに伝える事です。オリンピアンのみなさんは、本当に気をつけた方がいいですよ(笑)。私たちパラリンピアンは、みなさんに負けない記録を出して、すぐそばまで追いついてきていますからね。
来年の東京パラリンピックでは、できるだけ多くの日本のみなさんに、わたしたちが競技する姿をその目で見てほしいです。もしかしたら、私たちがオリンピック選手よりもいい記録を出すかもしれませんからね!」

一人一人が「超人」

今回の来日に合わせたイベントで、レーム選手の印象的な姿がありました。それは、子どもたちと積極的に交流する姿です。

 

 

この日のイベントでレーム選手のジャンプを始めて目の当たりにした子どもたちにとっても、忘れられない経験になったようでした。

「すごい躍動感!さすが世界一だと思います!」

「僕も義足体験をしたことがあるけど、バランスをとるだけでも難しかった。あんなに遠くに跳べるのはすごい!」

 

――今日のイベントでは、レーム選手から子どもたちに積極的に話をする姿がとても印象的でした。そこにはどんな思いがあるんでしょうか。

 

 

「子どもたちは私たちの未来です。だから彼らに『インスパイア』、気づきを与えることができたらすばらしいことです。そうすれば、いつの日かオリンピアンとパラリンピアンが一緒に競技をすることが、子どもたちにとっては普通の事になっているかもしれません。
義足であっても、あるいは車椅子であっても、外に出てアクティブになり、そして自分に誇りを持ってほしいです。来年の東京パラリンピックを通して子どもたちには、人間は何だってできる力を持っているんだと感じてほしい。人生が変わるような経験になってくれることを願っています。」

 

最後にレーム選手は、自身の異名である「超人(Superhuman)」という言葉を使い、日本の人たちへのメッセージを送ってくれました。

 

 

「私自身、『超人』と呼ばれるのは、非常に光栄だと思っています。しかし私は誰しもが『超人』だと思うのです。みんなそれぞれが特別な力を持っています。一人一人がそれぞれのゴールに向けて、一生懸命努力することが大切なのです。私は子どもたち、若者たちにそのことに気付いてほしい。自分の中にある『超人』を見つけてほしい。そのために私は競技を通してもっと多くの人たちに、気づきを与えていきたいと思っています。」

 


 

関連キーワード

関連トピックス

最新トピックス

RANKING人気のトピックス

アクセス数の多いコンテンツをランキング形式でお届け!