NHK sports

特集 楽天 石井一久監督 “航海”の先に見据えるもの

野球 2021年11月4日(木) 午前9:20

プロ野球・楽天の石井一久監督。今シーズン、チーム編成のトップであるゼネラルマネージャーを兼任する形で指揮官となった。いわば全権監督だ。

 

就任から1年、球界でも異例と言える挑戦の末に見えたものは?そして、その先に見据えるものは…?

“監督ってしんどい”

石井 一久 監督

監督ってしんどいなぁと思う。状況判断はもちろん、いろんなことに備えて、準備して、実行に移さないといけない非常に難しい職業だと思う。


楽天がレギュラーシーズンを終えた10月27日、石井監督は、初めて指揮官として戦った1年を振り返り、思わず本音を漏らした。結果は66勝62敗15引き分けで3位。ゼネラルマネージャーに就任した2018年以降では最も高い勝率を残したが、8年ぶりのリーグ優勝には届かなかった。

チームは一隻の船

石井監督は今シーズン、チームの現在地を航海に例えて表現してきた。石井監督の地元、千葉県浦安市を出発して、東京湾から太平洋に出る航路だ。

 

(4/3・開幕3カード連続勝ち越し)
「浦安出て幕張にも進んでない、まだそのくらいの距離です」

 

(4/7・開幕4カード連続勝ち越し)
「幕張は過ぎたけど、習志野くらい。まだまだ」

 

(東京五輪で中断期間)
「塩釜港に停泊中です」

 

(8/29・100試合を終え3位)
「青森の鰺ヶ沢ですかね。右往左往している状況です」

 

なぜ航海に例えるのか。石井監督はチームを1隻の船、選手たちを乗組員と捉え、1人1人がそれぞれの役割を全うしつつ一丸となることで、初めて長いシーズンを乗り越えられると考えるからだ。今シーズンのスローガン「一魂」にも、チーム一丸で魂を込めて戦うという思いが込められている。

 

石井 一久 監督

マラソンみたいに1人で戦っているわけじゃなくて、いろんな人が役割を持ちながら正しい方向に行かないといけないし、何かあったときもみんなで協力してそこを乗り越えていかないといけない。止まりそうな人がいれば、引っ張ってでも前進することが大事。

「僕は魚群探知機」真意は

2月 ロッテとの練習試合で初采配をふるった石井監督(左奥)

 

となれば、チームを指揮する石井監督は当然“船長”。「…ですよね」と同意を求めると、石井監督はいつものようにひょうひょうと答えた。

 

「僕は船長ではないですね。魚群探知機です」


魚群探知機?一瞬、笑いを誘ったのかと戸惑ったが、実はこの答えが、石井監督の“流儀”を見事に表していることに気付く。魚群探知機は、水中の魚の群れや水深などを超音波で特定する機器だ。

 

船=チームの周りに隠れたチャンスや危機を察知し、あるべき方向に導く。「現場を預かる立場はネガティブな方がいい」という石井監督。確かにこの1年、優れた魚群探知機のような“危機管理”が随所に見られた。

ベースを踏んだ回数まで 徹底した危機管理

その1つが、徹底した選手の体調管理だ。楽天は8年前に球団初のリーグ優勝と日本一に輝いたが、その後は3位以下が続いていて、特に好不調の波が大きいことが課題だった。

 

たとえば4年前の2017年は、開幕から投打がかみ合い、7月には勝ち越しが30を上回って首位を走ったが、8月以降に急失速して3位。2019年も交流戦の終盤から引き分けを挟んで10連敗を喫し、3位に転落。昨シーズンも8月までは首位を走りながら終盤、主力にけが人や不振が相次ぎ、4位に沈んだ。

 

その反省から石井監督は、途中で“下船”するメンバーが出ないよう、選手たちのコンディションを徹底的に管理した。

 

 

コーチやトレーナーとのコミュニケーションを密にしたことに加え、目に見えない疲れを客観的に判断しようとデータも重視。例えば野手では、塁打数、つまり「安打で何塁まで進んだか」の合計を毎週確認し、多い選手は練習量を減らしたり指名打者で起用したりして体への負担を軽減したという。

 

石井 一久 監督

ショートゴロ3本で凡退するよりもツーベース3本打った方が、その分プレーをしているはず。ベースのマスを何マス踏んだかで疲労度は変わる。プレーを見て疲れているかどうか、というのはあくまで予想でしかないので、データは大事にしている。選手たちに、長い143試合をしっかり戦い抜いてほしいという思いがある。

危機管理①1年グラウンドに

特に気を配った相手は、茂木栄五郎。6年目の生え抜きで、石井監督みずからキャプテンに任命した。

 

6月25日 ソフトバンク戦でタイムリーを打った茂木選手

 

早いカウントからの積極的なバッティングで打線を引っ張るが、けがでの離脱が多いのが悩み。昨シーズンは3割を超える打率を残しながら大事な終盤に離脱し、自己最少の73試合の出場にとどまった。

 

石井監督は、茂木にシーズンを通して活躍してもらうため、開幕から東京オリンピックによる中断期間までは数試合に1度、休養日を設けた。その日は試合前の全体練習への参加を免除し、コンディションの調整に専念させていたという。

 

石井 一久 監督

ゲームでよくある、エネルギーのゲージを想像してプレーしてもらっている。存在感のある選手なので、チームの看板として頑張って、1年間グラウンドに立ち続けてほしいという願いを込めてキャプテンマークを渡している。

 

今シーズンの茂木は勝負の後半戦、石井監督の配慮に結果で応え、8月と9月は月間の打率がともに3割を大きく上回った。特に9月は得点圏打率が驚異の4割7分6厘、打点も14をあげる活躍。東京オリンピックに出場した浅村栄斗がコンディション不良の影響で調子を落とすなか、チームの得点源として打線を引っ張った。

 

9月30日 日本ハム戦 4回に茂木選手が2ラン

茂木 栄五郎 選手

本当は全試合スタメンで最後まで出たいが、すぐにけがをしてしまってチームに迷惑をかけるので、自分でも納得している。プラスにとらえて次にどうするか考えながらうまくリセットできているんじゃないかなと思う。

危機管理②先発に頼らない

大リーグから8年ぶりに復帰した田中投手

 

一方、投手陣でも危機管理が光った。今シーズンの楽天は田中将大が大リーグから8年ぶりに復帰。

 

(左から)涌井投手、岸投手、則本投手、早川投手

 

さらに涌井秀章、岸孝之、則本昂大という、いずれもタイトルを獲得したことがある3人、そこへドラフト1位ルーキーの早川隆久も加わり、先発投手陣の充実ぶりは12球団随一とも言われた。しかし、石井監督は少し引いた目で見ていた。

石井 一久 監督

皆さんがすごく期待している部分はあくまでも期待でしかないし、妄想でしかない。もてはやされたけど、そんな簡単じゃない。

 

石井監督が重視したのは、ゼネラルマネージャーに就任して以降、整備を進めてきたリリーフ陣だ。

 

“抑え”の松井投手

 

“抑え”の松井裕樹以外、リードした展開で起用するリリーフを固定せず、相手の打順やバッターとの相性、ランナーの有無などの状況に応じた「適材適所」の起用で試合終盤の粘り強さを演出した。

 

(左から)安樂投手、酒居投手、宋投手

 

特にプロ7年目で飛躍した安樂智大、おととしのオフにロッテからトレードで加わった酒居知史、台湾出身の宋家豪の3人はいずれも防御率2点台前半と安定感抜群。8月下旬に松井がけがで離脱してからは、3人が日替わりで“抑え”を務め、ピンチを乗り切った。

 

リードして終盤7回を迎えた試合は53勝3敗3引き分けで、勝率は95%。12球団トップの防御率を誇るリリーフ陣が、勝ち試合を確実に拾っていったのだ。

 

石井 一久 監督

勝っているときはゲームを終わらせる、負けているときは味方の得点を待つという状況を作ることができているから僅差でも頑張れる。今のチーム状況があるのはリリーフのおかげだと思っている。最後までリリーフを信じ抜く。

波のない戦いぶり

みずからを魚群探知機に例えた、石井監督の危機管理により、長年の課題だった「好不調の波」は一定程度改善された。

 

 

今シーズン、開幕直後の3月と4月以外は、まとまった“貯金”を作れた月がなかったが、逆に大きく負け越した月もなく、毎月、5割前後の勝率をキープ。6月に7連敗を喫したものの、優勝争いを続けた後半戦は4連敗以上が一度もなかった。波のない戦いぶりでパ・リーグでは唯一、開幕から1度も“借金生活”を経験することがなかった。

 

2年ぶりに挑む、短期決戦のクライマックスシリーズ。次の“目的地”は当然、本拠地・仙台での日本シリーズだが、石井監督はその先の“航海”も見据えている。

 

石井 一久 監督

僕は監督なので、結果が大事だと思うし、結果は出していきたいが、僕がいなくなった後でもチームのカラーは生き続ける。5年後10年後に淡泊なチームでいて欲しくない。楽天というチームの方向付けを中長期的にやっていかないといけない。

 

 

【取材後記】

石井監督は報道陣も、同じ“船”の乗組員として受け止めてくれていると感じたできごとがありました。

 

8月29日、ロッテの投手陣に4安打無得点に抑えられ、9回、けがで離脱した松井投手の代わりに登板した宋投手が決勝点を奪われた試合。「松井投手の不在が響いた?」という報道陣の問いに対し、石井監督は「うーん、皆さんの書く仕事としてはそれが手っ取り早いと思いますけど、きょうはそういう方向じゃなくないですか。打線が得点圏にランナーを進められない状況が続いているので対策を立てたい」と返しました。

 

目先の結果にとらわれがちな報道陣をさりげなく本質に導いたその姿勢に、選手に対する親心と同じようなものを感じたのです。今シーズン、石井監督への取材を通して、野球の見方をたくさん教えて頂いた気がします。私はクライマックスシリーズのファーストステージまでで、3年あまり務めた楽天担当を外れますが、“船”の行方を離れた場所から見守り続けます。

この記事を書いた人

並松 康弘 記者

並松 康弘 記者

平成26年NHK入局。新潟局を経て、仙台局で楽天担当3年目。野球は「中学から大リーグまで」幅広く愛する。

 

関連キーワード

野球

関連特集記事