ストーリーパラスポーツ

見方を変えるとこんなに面白い! "違いを楽しむ"パラスポーツ

2019-11-06 午後 03:27

2020年は東京オリンピック・パラリンピックイヤー! でも、オリンピックの競技は分かるけど、パラリンピックの競技は何があるのかよく知らない…という人も多いのではないでしょうか? 

実はパラスポーツは健常者の競技以上に高度な技が光る見ごたえ抜群のスポーツなんです。今回は、11月7日から開幕するパラ陸上世界選手権に先駆けて、長年パラスポーツを取材してきた浅生鴨さんに、パラスポーツをより楽しむための見方や注目の選手・競技などについて教えてもらいました!

浅生鴨(あそう かも)

1971年、兵庫県生まれ。作家、広告プランナー。元NHK広報局員。31歳の時に交通事故にあい、生死の境をさまようも奇跡的に生還。「もう一生歩けない」と医師に宣告されるほど重症だったが、長いリハビリを経てもう一度歩き方をゼロから覚える。現在は執筆活動のほか、NHKでパラリンピック関連番組の制作や宣伝なども行っている。

 

浅生鴨流 パラスポーツが面白くなる2つの見方

注目の競技・選手の前に、まずはパラスポーツを楽しむための見方を教えてくれました。浅生鴨流の“パラスポーツの楽しみ方“は、「“違い”を楽しむ」「“高度な技術とゲーム性”を楽しむ」の2つ。

1. “違い”を楽しむ

「パラスポーツになじみがなく、どこに面白さを見いだして観戦すればいいのかいまいち分からないという方は、まずは“違い”を楽しむといいと思います」

 

 

「パラスポーツは身体の障害の部位や度合いによってクラス分けがされ、同じゴールをいろいろな手段で目指します。100メートルで一番速い人を決めるのに車いすの選手もいれば、義足の選手もいる。同じ山なのに違う登り方をする、そんな“違い”が面白いポイントなんです。また、ひとつの競技の中の、選手ごとの“違い”を見つけるのも面白いですね。例えば走り高跳び1つをとっても、助走の仕方からバーを越えるときのジャンプのフォームまで選手によってそれぞれ異なっています。健常者の場合だと基本的な体の使い方が同じなので、競技に合わせて最適化した結果、同じようなフォームになりますが、パラアスリートの場合は障害のある部位によってそれぞれ最適な体の使い方が違うため、異なる体勢になるわけです。こうした選手の個性に着目することで、 “あの選手はこう飛んだけど、この選手はこう飛んだ” “どうしてこのような飛び方をするんだろう?”と、どんどん発見があって面白いんです」

2、 もし自分がやったら…を想像 “高度な技術”に注目する

視覚ではなく、ボールから出る鈴の音やコーラー(ガイド)の指示を頼りにプレーするブラインドサッカー

 

「パラスポーツはゲーム性の高さが魅力です。ブラインドサッカーを想像してもらうと分かりやすいのですが、目隠しした状態でフィールドを走り回って、さらにゴールを決めるのって普通はできないですよね?陸上競技で両足義足の選手は竹馬をつけて速さを競っている感覚に近いし、車いすテニスも車いすをこいでいるときは腕の自由が奪われてラケットを振ることができません。つまり、健常者の競技よりも難しいルールで勝負をしているのです。パラスポーツは、普段僕たちがやっているスポーツに1つルールが追加されて難しくなったものと考えると、“より高度なスポーツ”になります」

 

「車いすにしろ、義足にしろ、道具を使いこなしてここまでのパフォーマンスを発揮するのは相当なレベルに達していないとできません。“障害があるのにここまで出来てすごい”のではなく、アスリートとして“飛び抜けた能力の人たちが厳しいルールをこなして戦っている”、という見方をすることで、一層観戦が楽しくなりますよ。オリンピックだって、健常者の中で身体能力の優れた一握りの人が競うわけですよね。
それと同じです」

 

「僕たちにはできないことをパラアスリートはやっている」と浅生さん

 

「パラアスリートのすごさを知るのに一番いいのは、彼らの感覚を体感すること。ちょっとそれに近い体験ができる方法をご紹介しますね」

 

 

「まず手首を交差させて、手を組み、腕を返して胸元に引き寄せてみてください。中指、人差し指、薬指…相手にさされた指を思った通りに動かすことはできるでしょうか?

 

多分、ほとんどの方がうまくできないと思います。実はこれ、脳性まひの人が手足を動かすときの感覚に近いのだそうです。考えて確認しながら体を動かす、そんな状態で体をコントロールし、100メートルを走ってゴールするのって至難の業ですよね。こういった知識や体験が一度あるだけでも、選手たちがいかに難しいことをやっているのかが分かります」

 

「『ルビンの壺』ってありますよね。見方によって壺にも見えるし、向かい合った2人の顔にも見えるという図形です。パラスポーツもそれと同じで、はじめはどう見ればいいか分からないかもしれませんが、一度見方が分かってしまえば、あとは自分で考えたり楽しんだり出来るようになると思いますよ」

 

デンマークの心理学者エドガー・ルビンが考案した「ルビンの壺」。見方によって壺にも、向かい合った2人の顔にも見える

パラ陸上世界選手権が開幕!注目の選手・競技は?

“推し”を応援することで、より観戦が盛り上がる!

「とはいえ、ルールなど分からない部分が多いパラリンピックの競技。いきなり試合を観戦しようとしても入り込めないこともあると思います。そんなとき、僕は“推し”の選手を見つけて、その選手を応援しつつ競技を知っていきます

 

走り幅跳びのアジア記録・日本記録保持者である中西麻耶選手

 

「11月7日からパラ陸上の世界選手権が開催されますが、その中でいうと僕の推しは中西麻耶選手! 21歳の時に事故で右足を失い、義足で走り幅跳びに挑んでいます。パラリンピックには北京大会から3大会連続で出場しているトップアスリートですが、プライベートではかなりの酒飲みで、その上うっかり屋さん(笑)。財布とかすぐ忘れちゃうようなぼんやりしたところがあるんだけど、試合となるとガラッと表情が変わります。そんなギャップも素敵なんですよ」

あえて“想像がつかない”競技に注目する

2008年北京パラリンピック 当時60歳の年齢で男子円盤投げ銅メダルを獲得した大井利江選手

 

「どんな風に試合が行われているのかまったく想像がつかない競技にあえて注目してみるのも面白いです。僕が気になる競技でいうと、投てきは車いすに乗った状態でどうやって重い砲丸や円盤などを遠くまで飛ばすのか、ちょっと想像がつきません。多分投げた瞬間に車いすがぶれると思うんですけど、下半身に踏ん張りがきかない状態でそこをどうやってコントロールしているのか…と、細かい技術的なところに注目すると気になったり、不思議に思ったりすることが出てきますよね。

健常者がなかなか想像つかないことを、彼らは独自の方法でやって見せます。競技について情報が真っさらな状態で観るのも、パラアスリートのすごさを実感できる楽しさがありますよ」

関心が高まるパラスポーツ、一方で課題も…

メディアが作る下地と、ヒーロー・ヒロインの登場が必要

「11月7日からのパラ陸上世界選手権だけでなく、2020年の東京パラリンピック、そしてパラスポーツそのものにも興味を持つ人が増えてほしいと思います。最近だと選手のCMが流れたり、大会の情報が報道されたりとメディアでも取り上げられる機会が増え、世間の関心が以前よりも高くなっていると感じます。

ですが、より多くの人に魅力を知ってもらうためにはまだまだ課題もあると思います。例えば今年のラグビーワールドカップはメディアがこぞって報道し、その影響もあってたくさんの人がラグビーの情報に触れるような下地があったわけです。そこで4連勝と結果を残したから一気に盛り上がりましたよね。パラスポーツだって、メディアが大会の告知や結果といった情報をもっと提供していく必要があるんじゃないかと思います。

もちろん、スポーツだから勝ってなんぼ。情報という下地があった上で、選手たちの中からヒーローやヒロインが登場すると、パーンと注目度が上がるのではないでしょうか。そのためにも、選手たちの成長が待ち遠しいですね」

福祉ではなく“スポーツ” つまらない試合は“つまらない”でいい

 

「ただ、パラスポーツに対する世間の関心が高まるにつれて単なるスポーツとしてではなく、競技が“福祉”寄りの視点で見られているのは気になります。パラスポーツは高い身体能力を持ったアスリートたちの真剣勝負です。それが障害があることを理由に、選手を必ず褒めないといけないという空気感になってしまうと、僕はスポーツとしては健全ではないと思うんです。

 

つまらないと思う試合はつまらないでいいし、選手が下手なプレーをしたらブーイングだって出てくるのが普通。障害者の頑張っている姿を見て感動する、というのではなく純粋にスポーツとして楽しめばいいのではないでしょうか。見方についていろいろ考えてしまう人もいますが、まずはそうして気軽に観戦を楽しんでくれる人が今後もっと増えていってほしいですね。」

 

パラ陸上 世界選手権2019 特設サイト



※こちらは、2019年11月6日に公開された記事です。内容は公開時のものとなります。

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