ストーリーパラスポーツ

東京パラリンピックの暑さ対策は?

2019-11-15 午後 02:27

東京オリンピックのマラソンと競歩は猛暑対策として札幌に会場が変更になりましたが、東京パラリンピックの陸上は車いすや視覚障害の選手が行うマラソンを含めて東京で行われる予定です。陸上が行われる8月28日から9月6日にかけての時期は例年、都心の最高気温が35度を超える日もあり、暑さへの対策が不可欠で、パラ陸上の日本代表チームは猛暑の中東 ドバイで開かれている世界選手権で来年の本番に向けてさまざまな暑さ対策を試しています。

 

指宿立監督

 

和歌山県立医科大学の助教でパラ陸上日本代表の指宿立監督は「東京パラリンピックは湿度が高い分、今回以上に過酷な環境になると思うので、暑さ対策を十分にやった国が勝つと思う。選手が自己ベストを出し、1つでも多くのメダルを獲得できるよう、考えられるすべての対策を行っていきたい」と話していました。

暑さの影響 五輪選手以上に深刻

 

パラ選手は障害があることによって暑さによる影響がオリンピック選手以上に深刻に表れやすいとされています。例えば、車いすの選手は体の位置が地面と近いため、強い日ざしの中で照り返しの影響をより多く受けることになります。日本パラ陸上競技連盟によりますと、車いすの選手は一般の選手と比べて体感温度が3度ほど高く、炎天下での30分ほどの練習で体の内部の温度、「深部体温」が40度を超えることもあるということです。その場合、脳に負担がかかって車いすをこぐリズムなどが乱れ、パフォーマンスの低下につながりやすいと指摘されています。

また、車いすではトイレに頻繁に行くことを負担に感じるため、水分を十分にとらないことが習慣になっている場合があり、脱水症状の傾向を示す選手が多いということです。さらに腕や足がない選手は血液の循環の範囲が限られるため、熱を逃がすことが十分にできず汗をかきやすく、脱水症状に陥りやすいということです。一度、脱水症状に陥ると、回復するまでには数日かかるため、大会期間中は早めに兆候をつかんで対処する必要があるということです。

 

指宿立監督

イギリスやアメリカ、オーストラリアなどのパラスポーツの先進国では障害に応じた暑さ対策に長年、取り組んでいる。

 

暑さ対策が不十分なままではパラリンピックのメダルに挑戦することすらできないので選手の特性に合わせて細かく対応していく必要がある。

東京を想定 厳しい暑さの中 トレーニング

 

来年の東京パラリンピックでの暑さを想定して、多くの国の選手たちが厳しい暑さの中でトレーニングを行っています。パラ陸上の世界選手権が行われているアラブ首長国連邦のドバイは、東京に比べて湿度は低いものの強い日ざしと日中は35度を超える厳しい暑さが特徴です。

 

 

暑さを考慮して、競技の多くは午後6時以降に実施されていますが、予選や一部の競技の決勝は午前中に行われています。大会3日目の正午ごろ、気温が30度を超えるスタジアムでは砲丸投げの脳性まひなどのクラスの競技が行われ、選手たちは待ち時間に水を飲んだり、首に水をかけたりして暑さをしのいでいました。

またトラックではカナダやオーストラリアなどの車いすの選手たちが強い日ざしのもとでトレーニングを行い、練習の合間にこまめに日陰に入って体を冷ましていました。

 

オーストラリアの車いすの男子選手

とても暑いけれど、暑さに慣れるためにも、暑い日中に練習することが大事だと思う。

 

カナダの車いすの男子選手

本当に暑くて、汗が流れるように出てきて前が見えないくらいだ。でも来年の東京も暑いことはわかっているから体を慣らしておかないと。

体温上昇抑えるアイスベスト初導入

パラ陸上の世界選手権に出場した車いすのクラスの日本代表選手たちは開幕前日、35度近い気温の中で1時間ほど走り込みを行った後、体温の上昇を抑えるため、さまざまな方法で体を冷やしていました。

 

アイスベスト

 

中でも、今回初めて導入されたのが「アイスベスト」です。胸や脇、背中の部分に18個の保冷剤を入れたベストで脱ぎ着が簡単なため、トレーニングの合間にこまめに着ることで、体温の上昇を抑えながら練習を続けることができます。来年に向けて、着用したまま練習ができる丈が短い新たなベストの開発も検討しているということです。

チームに同行している医師の今井寛さんは「体の内部の体温が上がると、生理的に体がそれ以上熱を出さないようにしようとするので、パフォーマンス低下につながってしまう。ベストの体温で止めておくことが重要だ」と話していました。選手たちはほかにも、練習の合間に首に氷を当てたり、氷水に手をつけたりして、体温の上昇を防ぐ工夫をしながら競技に取り組んでいました。

 

樋口政幸選手

 

マラソンや5000メートルでパラリンピックに2大会連続で出場している樋口政幸選手(40)はアイスベストを試したあと「手軽に着られるので、次の競技に疲労を残さないためにもすごくプラスになる。暑さに強いほうではないが、こういう道具の力を借りて乗り切っていきたい」と話していました。

 

パラ陸上世界選手権 男子800メートル(車いす)予選 力走する西勇輝選手(11月9日)

 

今回、100メートルや400メートルに出場する西勇輝選手(25)は「健常者より低い姿勢なのでどうしても暑さを感じやすいが、暑くてもレースはあるのでどうにか乗り越えたい」と話していました。世界選手権の初日は西選手が100メートルの予選に出場し、レース直前までなるべく日陰に入るなどして過ごしました。

準決勝に進むことはできませんでしたが、東京パラリンピックを前に暑さ対策を実践できたことを前向きにとらえていました。レースの後、西選手は「東京大会もこれくらい暑いと思うし、すごくいい経験ができた。この暑さの中で自分のベストパフォーマンスを出すことが次につながると思う」と話していました。

脱水症状予防へ毎朝検査

 

パラ陸上の日本代表チームが東京パラリンピックに向けた暑さ対策として特に力を入れているのが脱水症状を予防する試みです。去年10月、インドネシアのジャカルタで開かれたアジアパラ大会では陸上の代表選手68人のうちおよそ10人が熱中症の症状を示し、成績も伸び悩みました。

 

 

これを教訓に今回の世界選手権の期間中、選手たちは毎朝、宿泊先のホテルで尿検査を受けて、脱水症状の兆候がないかをチェックしてもらいます。そのうえでチームに同行している暑さ対策を専門に担当する栄養士から水分補給についてアドバイスを受けています。

 

栄養士と面談する白砂匠庸選手

 

世界選手権の開幕前日、左腕のひじから先がないやり投げの白砂匠庸選手(23)は栄養士との面談で脱水症状の傾向があるため、積極的に水分をとるようアドバイスを受けていました。中には日本から飛行機で移動する際に水分が十分にとれておらず初日の検査で脱水症状に近いことが分かった選手もいたということです。

 

白砂匠庸選手

暑さ対策は自分だけではなかなか取り組めず、水分量の調整ができずに足がつることもあったので、サポートはありがたい。

 
 

また、栄養士の西村貴子さんは「大会に入ると水分補給のペースが乱れ、自分が脱水状態にあることにも気付かない選手が多いので、数値化して知らせる必要がある。東京パラリンピックはより厳しい暑さになることも予想されるので、この大会で安心して競技できる仕組みを作って東京に向かっていきたい」と話していました。

 

パラ陸上 世界選手権2019



※こちらは、2019年11月15日に公開された記事です。内容は公開時のものとなります。

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