特集 「立ち合いで変化をするな」と叔父(元横綱朝青龍)に教えられた豊昇龍 秋場所で三役昇進に挑戦

東京オリンピックを目指してレスリング留学で日本に来たモンゴルの若者が、国技館の本場所を見て、叔父の元横綱朝青龍の後を追って大相撲に入門。豊昇龍は名古屋場所で初の技能賞を手にし、秋場所は東前頭筆頭で上位に挑戦します。
大相撲中継でおなじみ吉田賢アナウンサーがインタビューしました。
吉田賢アナウンサーはコロナ禍のため電話でインタビュー
初の技能賞 前に攻める相撲が評価された
ーー名古屋場所では技能賞を受賞。おめでとうございます。
ありがとうございます。びっくりしましたね。
名古屋場所千秋楽 豊昇龍は初の技能賞を手にした
ーーどういうところが技能賞に評価されたと思っていますか。
やっぱり技ですかね。技をよく決めたからもらえたかなと。投げ技も決まったし足技も決まったし。
ーーそれもあるのですけれど、まっすぐ前に攻めていく相撲が、三賞選考委員会では評価されましたね(吉田アナウンサーは三賞選考委員会のメンバー)。そこに投げ技があり、足技があると。
いつも前に攻めようと思っていますし、名古屋場所もよかったと思うのですが、そこまで自分のことを見てくれているとは思わなかったですね。
名古屋場所10日目 豊昇龍(左)が翔猿を押し出しで破る
ーー名古屋場所での10勝5敗という成績はどうですか。
自信がつきましたね。
ーー5月の夏場所は幕内上位で、2大関を倒しながら負け越してしまいましたね。
もちろん勝ち越したかったですけれども、勉強だと思って相撲を取っていました。上位の人たちの力を自分の体で調べたかったから。
夏場所9日目 正代を攻める豊昇龍(左)外掛けで大関を破る
ーー夏場所は何が足りなかったと思いましたか。
まだまだ甘いなと思いました。自分よりでかい人を前に持っていく力をつけないといけないなと考えて、立ち合いの当たりの稽古をするようにしました。
夏場所6日目 照ノ富士に寄り切りで敗れた豊昇龍(右)
ーー当たりを強くするのにこういう稽古を増やしたというのはありますか。
立ち合いは、体が大きくても小さくても関係なくて、思いっ切り、しっかり当たることです。下から当たれば誰でも起こせると思います。これからも当たりの稽古というか動きの稽古をしていきたいと思います。
レスリングで東京五輪を目指し来日も国技館で本場所を見て相撲に変更
ーー夏場所に続いて正代関を倒しましたけれども、名古屋場所の15日間で印象に残った相撲はどれですか。
13日目の逸ノ城関との一番です(取り直しの末豊昇龍が下手投げで勝ち)。でかい人(190センチ、206キロ)なので勝てば自信になる。この人が押せれば誰でも押せると思うので、どうしても勝ちたい相手でした。
名古屋場所13日目 206キロの逸ノ城を破ったのは自信になったと豊昇龍(右)
ーーこの相撲を見て、本当に強くなったなと思いましたよ。もちろん。若隆景関に勝った相撲や大関正代関に勝った相撲もすごいと思ったのですが、逸ノ城関という大きな相手に、真っ向勝負で勝ったでしょう。もしかしたら上手を取りに変化するなど、立ち合いで動いてくるのかなと思ったんですが。
私は変化というのはあまりしないです。まともにいって力で勝負したい。相撲を始めたときに、叔父さん(元横綱朝青龍)に「変化するな」と言われたんです。「自信がない人が変化するんだ」と教えてくれましたね。
ーー関取が相撲を始めたのは日体大柏高校に来てからですね。レスリングをやるために来て、途中から相撲になりましたね。
本当は東京オリンピックを目指して日本に来ていたんですけれどもね。
2017年 日体大柏高校時代 高校総体個人で準優勝
ーー相撲に変わろうと決めたのは?
入学してすぐ、高校の行事で大相撲夏場所を見に来たんですよ。それで一瞬で変わっちゃいました。場所を見たのは初めてでしたが、私にもできるのではないかと思ったのです。そのときに国技館の上を見たら叔父さんの優勝額があったんですよ。そのあと叔父さんに相撲をやりたいって言ったら、めちゃくちゃに怒られました。でも、きちんと話し合って、相撲をやれるようにしてくれたのも叔父さんなんです。そのときに「変化はするな」と言われたんです。
叔父 朝青龍としのぎを削った横綱白鵬との対戦に思い
ーー叔父さんというのはどういう存在ですか。
う~ん、叔父さんは神様というくらいの存在ですね。叔父さんがいなかったら相撲をやることはなかったし、同じ道を歩いていると、すごい人だったなと思います。
2004年 連続全勝優勝の優勝額の前に立つ朝青龍
ーーでも叔父さんが朝青龍となると比べられるでしょう。嫌ではないですか。
嫌ではないですけれど、あまり言われたくないです。でもやっぱり叔父さんがいてくれたことは大きいですね。
ーー名古屋場所で2桁勝って三賞をもらったことについて、叔父さんは何か言っていましたか。
おめでとうって言われましたが、「負けた相撲も攻めていてよかったけれど、内容で勝っていながら勝負は負けたという相撲が多かった。それが勝てていれば優勝争いに入っていた」と言われました。もっと頑張らなくちゃと思いましたね。
名古屋場所千秋楽 豊昇龍(右)が北勝富士をはたき込みで破り10勝目
ーー叔父さんは厳しいですね、何が足りなかったんでしょうか。
早く勝ちたいという気持ちが強かったかな。落ち着いていけば大丈夫だったかなと思うんですけれど。
ーー秋場所は前頭筆頭と幕内上位に上がりましたがどうですか。
やっぱり一番一番。本当に1日一番というのが大事です。そして本当に力を出し切るところまで頑張りたいです。
ーー当然三役を目指したいですね。
次の目標は三役です。
相撲専門雑誌「NHK G-Media 大相撲中継」から