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"進化形高速タックル"で2連覇へ レスリング・川井梨紗子の決意

2020-02-20 午前 09:00

女子レスリングといえば、吉田沙保里さんや伊調馨選手の大活躍を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。2004年のアテネオリンピックで正式競技に採用されて以来、日本選手が必ず金メダルを獲得してきた「日本のお家芸」と言われる競技です。
ところがここ数年、女子レスリングは苦境に立たされています。2018年のアジア大会は、金メダルゼロ。2019年の世界選手権では1個にとどまりました。そんな厳しい状況の中、姉妹でオリンピック代表に内定し、2連覇を目指すのが女子57キロ級の川井梨紗子選手(1994年生まれ)です。川井選手は、東京オリンピックにどう挑もうとしているのか、戦略と決意を聞きました。

封じ込まれた日本の“高速タックル”

妹・川井友香子選手(左)、姉・川井梨紗子選手(右)

 

川井選手の武器といえば、なんと言っても「高速タックル」。オリンピックで3連覇を果たして「霊長類最強女子」と呼ばれた吉田沙保里さんから受け継がれる戦い方で、歴代金メダリストが「勝利の方程式」として磨きをかけてきた大技です。組み手争いの段階から一瞬の隙を逃さずに鋭いタックルで足をつかみ取り、そこから相手のバック(背後)に回って身体をローリング(回転)させるなどしてポイントを重ねます。

 

吉田沙保里選手(2012年 世界選手権)

 

ところがこの1〜2年、国際大会でこの「高速タックル」がことごとくかわされ、試合を優位に進めることができなくなっています。原因は、外国勢による日本選手をターゲットにした徹底的な研究です。インターネットを通じて試合の映像が世界中どこでも見られる時代、外国勢が日本の選手の戦術や癖を徹底的に研究し、入念に対策を立てているのです。

 

土性沙羅選手(2019年 世界選手権)

 

カザフスタンで行われた2019年の世界選手権。妹の川井友香子選手は、敗者復活戦に勝って銅メダルを獲得し五輪内定を決めましたが、3回戦ではフォール(両肩を1秒間マットにつける)負け。リオ五輪金メダリストの土性沙羅選手は、タックルが通用せず、3位決定戦で敗退しました。

 

川井梨紗子選手(2019年 世界選手権)

 

川井梨紗子選手は、日本女子選手で唯一金メダルを獲得しましたが、決勝では中国の選手に第2ピリオドだけで6点を取られるなど、苦戦を強いられました。

 

川井梨紗子選手

川井梨紗子選手

世界選手権では、すごく研究されているな、という感じはありました。簡単にタックルを取らせてくれない。私の癖や入り方を徹底的に頭に入れて戦っているのがよくわかりました。相手の力強さに6点取られたので、正直言って、これが東京じゃなくてよかったなって思った部分もありました。

強化本部が打ち出した“カウンターアタック”

苦戦を強いられた2019年の世界選手権を受けて、日本レスリング協会強化本部は、「カウンターアタックに磨きをかける」という方針を打ち出しました。高速タックルだけでは東京オリンピックでの金メダルは厳しいと言う危機感からです。カウンターアタックとは、相手からの攻撃に対して返し技で攻勢に転じ、ポイントを奪う戦い方。いわば「肉を切らせて骨を切る」戦法です。川井選手がカウンターアタックを詳しく教えてくれました。

 
 

実は、川井選手が伊調選手と繰り広げたしれつな代表争いで苦しめられたのが、このカウンターアタックでした。2018年12月の全日本選手権、伊調選手に敗れた試合です。鉄壁のディフェンスを誇り、世界一のカウンターアタックを武器とする伊調選手は、川井選手が高速タックルで攻め込んだ瞬間、切れ味の鋭いカウンターアタックで切り返し、ポイントを重ねたのです。

 

伊調馨選手(左)川井梨紗子選手(右)(2018年12月 全日本選手権)

 

しかし、川井選手は「カウンターアタックに磨きをかける」と言う強化本部の方針に理解を示しながらも、あくまで「高速タックル」にこだわり、高めていく決意をしました。高速タックルを川井選手なりにアレンジした「進化形高速タックル」を目指すと言うのです。

 

川井梨紗子選手

確かにカウンターアタックは有効です。でも、相手が攻めて来るのを受ける形になります。受けを狙って待っていたのでは、相手のペースで試合が進みます。私は自分から仕掛けて、常に攻撃的に戦いたいのでカウンターアタックで勝とうとは考えません。あえて練習することもありません。普段から実戦練習をしていますから、自然にカウンターアタックの動きが出てポイントを奪うことはあるでしょうが、私は別の方法で勝機をつかむつもりです。

これが、川井選手の“進化形高速タックル”

(2019年 世界選手権)

 

川井選手が東京オリンピックに向けて磨きをかける「進化形高速タックル」とは、どのような技なのでしょうか。最大の特徴は、タックルに入る前の動作にあります。相手の腕を右や左に動かすと目の前に相手の足が現れます。また、相手の頭を手で抑えて頭を意識させると足への警戒心がおろそかになります。こうしたフェイントによって生まれるほんの一瞬の隙をついて超高速タックルを決める、それが川井選手の「進化形高速タックル」です。川井選手が、タックルに入る前のフェイントの動作を実演してくれました。

 

川井梨紗子選手

受け身が前提となるカウンターアタックに私が頼らない理由は、レスリングという競技の特性にあります。レスリングは、攻めと守りがはっきりと、わかりやすく分かれていません。いま攻めていたかと思ったら次の瞬間には攻められている。もちろん逆もあります。瞬時に攻守が変わる中では、常に攻撃の態勢にあることが大切だと思うのです。だから、自分から攻めて勝つ姿勢を貫きます。そして、東京五輪では金メダルをとりに行きます。

 

川井梨紗子選手 (2019年世界選手権優勝)

 

金メダリストの誇りを胸に2連覇を目指す川井梨紗子選手。自らの経験と信念を信じ、ブレることなく自分のスタイルを貫く姿勢には、強い決意がみなぎっています。「日本のお家芸」を背負い、自国開催という極度のプレッシャーと戦いながら、東京オリンピックの舞台に立つ川井選手、日の丸を高く掲げるその姿に期待が膨らみます。

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