特集 照ノ富士「横綱としての責任、地位の重みを感じている」大相撲秋場所を前に

9月12日に初日を迎える大相撲秋場所で一番注目されるのが新横綱の照ノ富士です。けがと病気で大関から序二段まで陥落しながら努力と精進を重ねて横綱に上り詰めました。
秋場所に臨む照ノ富士にNHKの大相撲中継でおなじみの吉田賢アナウンサーが話を聞きました。
吉田 賢 アナウンサー
ちょっとずつ努力を重ね、横綱が近い存在になってきた
横綱伝達式後 タイを両手に持つ照ノ富士
ーー改めて横綱昇進おめでとうございます。ついに横綱になりましたね。
はい、そうですね。
ーーやはり続けてきてよかったという気持ちを新たにしたんじゃないかと思うのですが。
頑張ってきてよかったなと思います。
ーー日本の大相撲を目指して、最初は鳥取城北高校に留学してきたのですけれど、そのころは横綱という地位はどう感じていましたか。
初めて日本に来たときはそれほど深く考えずに来ていますから 、頑張ればすぐにでもなれるだろうと思っていました、しかし実際やってみてその難しさを知りました。
2010年 照ノ富士の鳥取城北高校時代(後列中央)
ーー大相撲の世界に入ってからは、横綱というのはどういうものでしたか。
新弟子のころは雲の上の存在ですし、目標ではなく夢というかそういうものでした。しかし、段階を踏んでちょっとずつ頑張ってきたら、少しずつ近い存在になってきた。そういう感じですね。
2011年 新弟子時代 稽古を見つめる照ノ富士
ーー前回の大関のときには、もう少しで横綱というところまで来ながら、病気やけがで届かなかったんですけれども、どういう思いですか。
まぁ過去のことは忘れることがいちばんで、これからのことを考える。今はそういう思いでいます。やはり1日1日、1場所1場所。そこで力が出せればいいかなと。あまり先のことを考え過ぎちゃうと、目の前のことに集中できないんでね。
名古屋場所に向けて稽古に励む
ーーでも欲が出たり恐れが出たりと、そういうことはなかったですか。
ふだんの準備をちゃんとしていれば、不安とかプレッシャーはないんじゃないでしょうか。準備を整えることができてないと、不安も出てくる。高校とか中学校のテストもそうじゃないですか。勉強して全部頭に入れたうえで教室に入れば、大丈夫だったとなるわけですしね。
横綱という地位を理解して、ちゃんとした生き方をしたい
ーー横綱昇進の伝達のとき「不動心を心がけ、横綱の品格・力量の向上に努めます」という口上を述べたのですが、どのように考えてこの言葉を思いついたんですか。
一つのことを徹底してやってきた。その思いを素直に使いたいなと、親方とおかみさんと相談して決めました。
横綱昇進の伝達式
ーーどんな横綱をこれから目指していきますか。
この人がいい、あの人がいいっていうことはないんですけれども、今までやってきたことを精いっぱい出して、横綱という地位はどんなものか、どんな立場なのかということを理解したうえで、ちゃんとした生き方をしたいなと思っています。
新横綱 照ノ富士の奉納土俵入り
ーー特に「不動心を心がけ」という言葉が、この2年余り、復活に向けて横綱自身が大事にしてきたことなのかなと感じましたが。
不動心といったら、何事にもぶれない精神という意味合いがあります。私はこの何年間は、相撲について考え続けて、1日24時間、寝ているときでも考えるぐらい、夢に出てくるぐらい相撲に打ち込んだ。他の事にぶれずに打ち込んだと思っています。それを続けていきたいなと思っています。
序二段に下がる試練で精神力が鍛えられた
ーー序二段に下がる試練を乗り越えたことが、横綱自身を磨いたんじゃないかなと思うんですけれども。
何事についても思うのですけれど、何でだろう何でだろうとマイナスに捉えていけば、何事もマイナスの方に向いて焦ってしまうし、逆に悪いことでもそれが自分にとって勉強だと、いい方向に考えれば次の段階に進める。精神力が鍛えられたんじゃないかなと思いますけれどもね。
2019年春場所 序二段からの復帰戦で白星
ーー横綱になった方々がよくおっしゃるのは、横綱になった瞬間から、やめるということも頭に入れながら日々精進しなければいけないということなのですけれども、そのあたりの思いはどうでしょうか。
うーん。最初はそういうのを聞いて、何か納得できていなかったけれど、改めて自分でなってみたら、何かその責任感っていうか、その地位の重みというのを感じてますね。
推挙状と新しい横綱を手渡される照ノ富士
ーー横綱になった以上、毎場所優勝争い、そして優勝というものが期待されます。それについてはどうでしょうか。
もちろんそういう成績を挙げなければいけないという思いはあります。だからといってそればかりにこだわっていてはね。それにだけこだわって、自分自身がやってきたことをなくすわけにはいかない。何事もバランスですから、まあ一生懸命鍛えていきたいなと思います。
ーーやっぱりそこは横綱になろうがどうしようが、1日1日ということは変わらないということですね。
そうですね、もちろん。病気になって苦しいときは、1日を過ごすのが必死という時期を過ごしました。それを思えば、「ああ、ここまで来たんだなぁ」というそういう気持ちになっています。だからといってそのときの気持ちを忘れて、好きなことをやろうという考えはしたくないですね。もっと自分を磨いて、1日の大切さという自分の思いを打ち込めるか、そのことを考えていきたいなと思っています。
相撲専門雑誌「NHK G-Media大相撲中継」から