ストーリーその他のスポーツ

太田忍はあきらめない 階級アップで2020へ

2019-12-20 午後 01:43

もうすぐ2020年。各競技でオリンピックの出場権をめぐる戦いが激しさを増しています。その中で、一度は出場権争いに敗れ夢を断たれながらも、あきらめずにオリンピックに挑む選手がいます。レスリング男子グレコローマンスタイルの太田忍選手25歳。リオデジャネイロ大会の銀メダリストです。

 

戦ってきた60キロ級で、ライバル文田健一郎選手がオリンピック代表に内定。そこでまだ代表が決まっていない、五輪で実施される中でひとつ上の67キロ級に階級を上げ、金メダルを目指す決断をしました。周囲からは、国内を勝ち抜けるかどうかも分からないとも言われる挑戦。それでも太田選手は、可能性を一途に追い続けています。

五輪を目指さない選択肢はない

太田選手が階級変更を決断したのは、9月の事でした。

 

太田忍選手

「自分がこだわってやって来た階級でもうできない。どういう感情か、なんて表したらいいかわからないような感情でしたね。」

 

男子グレコローマンスタイル60キロ級では、太田選手とライバルの文田選手が激しい代表争いを繰り広げてきました。

 

全日本選抜で太田選手は文田選手に敗れる

 

一進一退の争いの中、今年の全日本選抜選手権で文田選手が勝利し世界選手権への切符を獲得。そして、メダルを獲得すればオリンピック代表が内定する9月の世界選手権で、文田選手が優勝。たったひとつの代表枠がライバルのものとなるのを、太田選手はスタンドから見ていました。

 

文田選手は世界選手権で優勝し、60キロ級代表に

 

25歳の太田選手にとっては、最後となる可能性もあるオリンピック。出場するには、60キロ級から67キロ級へ、階級を上げるしか道は残されていませんでした。

五輪まで1年を切った段階での厳しい決断。「今回のオリンピックを目指さないという選択肢はないのか」。太田選手に問うと、きっぱりと答えました。

太田選手

「ないです。どの階級だろうと、出場して金メダルを取りたいって気持ちは変わらないです。やるしかないですね。」

金メダルこそ唯一の目標

オリンピックの金メダル。それは小学1年生でレスリングを始めた時からの目標でした。

 

1日5時間の猛練習で連戦連勝。しかし、高校生になるとフリースタイルでは2位止まり。目標の金メダルのため、伸びしろがあると感じたグレコローマンスタイルへの転向を決意します。

 

リオでの銀メダルにも表情は晴れなかった

 

そして、たどりついた3年前のリオ大会。結果は銀メダル。「頂点」を目指してきた人生が満たされる事は、なかったといいます。

 

太田選手

「オリンピックで銀メダルをとりました。それは本当にすごい成績なんだろうけど、僕にとってはオリンピックで金以外は自分が目指してないものだから。金メダルを取る事だけが、自分が今まで積み重ねてきた事、やって来た事が間違いではなかった、正解だったと証明してくれると思っているので。このままじゃ終われないです。金を取らないと、レスリングに区切りをつけられない。」

60キロ級→67キロ級 過酷な挑戦

 

67キロ級でオリンピックに出場するためには、12月の全日本選手権で優勝し、そのうえで来年のオリンピックアジア予選、世界最終予選で出場枠を勝ち取らなければなりません。

 

12月の全日本選手権で勝たなければ、その時点で代表の可能性はなくなります。階級変更から残された期間はわずか3か月しかありませんでした。

 

 

母校の日本体育大学で、太田選手の階級を上げるための戦いが始まりました。7キロ重い階級で戦うためには、これまで以上筋力が重要になります。集中的にウエイトトレーニングに取り組み、太田選手は急ピッチで体作りを進めます。

 

さらに、戦い方も見直す必要に迫られていました。太田選手の得意技は、相手の首を抱えて投げる「がぶり返し」。60キロ級では、この技を武器に攻撃的なレスリングを貫いてきました。

 

 

しかし体格が上回る相手に対しては、首を抱えても簡単に振りほどかれてしまいます。何度もスパーリングを繰り返しますが、「がぶり返し」が決められません。大粒の汗をかいた太田選手の雄叫びが道場に響きます。

 

「くそー!」

 

太田選手は、急ピッチで階級を上げる難しさに直面していました。

日本代表・松本慎吾監督

「自分自身に置き換えると、やっぱり上の階級だった勝負できないと思います。本人の中でやっぱり、どうなるんだろうという不安な気持ちもあると思いますよ。正直言えば。」

 

 

家に帰っても休まる時はありません。体を大きくするため、食事は1日5回。栄養面を考え、鶏肉や野菜を中心にしたレシピをほとんど自炊します。

 

「無謀な挑戦」という声も聞こえる中、迷いなく自分を追い込む太田選手。譲れないオリンピックへの思いが支えていました。

 

 

太田選手

「みんな思っているんじゃないですか。『太田忍はオリンピックに出るのは厳しいだろう』って。でも僕は自分を曲げるつもりもないし、絶対金メダルをとりたい気持ちは変わらないです。言ったら『自己満足』ですよ、完全に。レスリング初めて20年目なんですけど、20年間やってきた事を証明したい。金メダルを取る事によって、自分の中で『ああよかったな』って思えるじゃないかなって。本当に自分の『自己満足』です。」

レスリング人生をかける

全日本選手権まで残り1か月となったこの日。太田選手に今の力を試すチャンスが訪れます。72キロ級日本代表(リオ大会66キロ級5位)の実力者、井上智裕選手とスパーリングの機会を得ました。

 

 

67キロ級よりもさらに一階級重い相手に対し、この日の太田選手は得意の「がぶり返し」にこだわりませんでした。60キロ級で培ってきたスピードと技術で、パワーに勝る相手に対抗。素早く巧みに技を繰り出して、ポイントを奪います。今の自分の力で勝てる戦い方を、模索し続けていました。

 

スパーリング後、相対した井上選手は、太田選手に感じた可能性を語りました。

井上智裕選手

「67キロ級の他の選手に比べて、パワーの差はまだあるのかなと思います。でも技術としては太田選手の方があるので、そこでカバーできるのかなと。本当にレベルは上がっていると思います。」

 

 

ただ一つ、自分自身が納得するために。

 

太田選手は強い決意を胸に、全日本選手権に挑みます。

 

太田選手

「やるしかないって感じじゃないですか。勝つしかない。自分を全部出す。今までのレスリング人生をかけるくらいの試合ができればいいと思います。」

 

 



12月19日木曜から始まった全日本選手権。太田選手は21日土曜日に登場、勝ち進めば22日に決勝を戦います。

 

 

関連キーワード

関連トピックス

最新トピックス

RANKING人気のトピックス

アクセス数の多いコンテンツをランキング形式でお届け!