ストーリーパラスポーツ

パワーの裏に兼ね備える緻密なショット 〜ボッチャBC2 廣瀨隆喜選手〜

2021-08-16 午前 0:00

こんにちは、NHKパラリンピック放送リポーターの千葉絵里菜です。

今回は、東京パラリンピックに向けて、私がイチオシする競技、

ボッチャについての最新情報をお伝えします。

 

先日、ボッチャ日本代表のエース・廣瀨隆喜選手がトレーニングを重ねている
練習拠点に、お邪魔することができました!

 

廣瀨選手は、前回大会のリオパラリンピック、団体BC1/2で、

初の銀メダルを獲得した代表チームのメンバー。東京大会でも活躍が期待されています。
その強さの秘密を取材してきました!

■エース・廣瀨隆喜選手 強みは『パワーボール』と『1mm単位の精密な投球』

 

7月に行われた日本代表チームの壮行試合(武蔵野総合体育館)

 

廣瀨選手といえば、何といってもパワーボール。ご存知の方も多いと思います。

4年前から廣瀨選手のボールを見てきた私のイメージでは・・・

『魂や思いがこもっているように力強く、相手ボールを弾き飛ばす!』感じです。

 

魂のこもった投球のあとはトレードマークの「雄たけび」

 

 

でも、取材させていただいて、

廣瀨選手の強みは『パワーボール』だけではなく、

『1mm単位、まるで精密機械のような投球』ということが分かったんです!

 

詳しく説明していきますね。

<千葉メモ>

ボッチャは、イタリア語で「ボール」という意味。

私と同じ脳性まひや、難病などで、重い障がいがある人たちが行うスポーツとして、ヨーロッパで生まれました。

2つのチームに分かれ(赤VS青)、的(まと)となる白いボール(ジャックボールといいます)に赤と青のボールをいかに近づけられるかを競い、ジャックボールにより多く近づけた方が勝利します。

カーリングに似た競技とも言われ、高い戦略性が魅力です。

■脳性まひで、手にも障がいがある廣瀨選手

廣瀨選手は脳性まひで、私と同じように電動車いすを使用して生活しています。

ボッチャのときには、左手を使って力強いボールを投げるのですが、

手は拘縮(こうしゅく)、つまり関節が動かしにくい状態なんです。

私も手に障がいがあり、指が反ってしまうため、ペンで字を書くのも簡単ではありません。

「困ることは何ですか」と尋ねたところ、

「買い物のとき、お釣りをつかむのが大変です。最近は電子マネーがあるので助かっています(笑)」

とおっしゃっていました。とても共感しました。

 

そんな廣瀨選手ですが、

ボッチャのクラスの中で、障がいが比較的軽い、BC2というクラスです。

<千葉メモ>

ボッチャは、障がいの種類や程度によって、下記の4つのクラスに分かれています。

BC1 =ボールを渡してもらうなどアシスタントの介助有りで投球(脳性まひ)

BC2 =上肢である程度の車いす操作ができ、アシスタント無しで投球(脳性まひ)

BC3 =自力投球ができず、アシスタントのサポートで、ランプ(勾配具)を使って投球(脳性まひ、脳性まひ以外の障がい)

BC4 =アシスタント無しで投球(脳性まひ以外の障がい)

■“精密機械”の秘密は、ぶれない投球フォーム

アナリストの渋谷暁享(しぶや・としゆき)さん

 

正確無比な投球を、どう生み出しているのか。

その秘密を科学的に分析する人がいます。

 

アナリストの渋谷暁享さん。

アナリストとは、選手の技術面、攻め方などの戦術面、さらには栄養面などを、

さまざまなデータをもとに分析し、選手に助言する人のことだそうです。

そのデータを集める過程で、驚くべき事実が判明しました。

それは、廣瀨選手の投球フォームを、複数のカメラを使って撮影したときのことです。

 

分析によると、廣瀨選手の投球フォームは、

『腕の振りが、ミリ単位で、寸分の狂いもない』ということなんです。

1日に100球を投げたときも、ほとんどずれがありませんでした。

つまり、精密な投球は、何度投げてもぶれないフォームから生まれていたんです。

■カギは「シーティング」と「肉体改造」

ぶれない投球フォームのポイントは、ふたつあります。

一つ目のカギが、「シーティング」です。

シーティングとは、長時間、座る姿勢を続ける人の心身や生活を考慮し、

よりよい座位姿勢を確保できるよう、車いすなどの調整をすることです。

廣瀨選手が使っていた車いすは、前回のリオ大会のとき、折り畳み式の簡易電動タイプ。

日常生活で使うものと同じでした。

しかし、ミリ単位の正確さが必要なボッチャで、折り畳み式を使用すると、

どうしても車いすのゆがみが投球に影響してしまうそうです。

そこで廣瀨選手は、試行錯誤の末、競技のときに固定式の新たな電動車いすを導入。

身体のブレを抑えることができるようになったんです。

 

トレーナーの古尾谷香苗(ふるおや・かなえ)さん

 

ぶれない投球フォーム、もうひとつのカギが、「肉体改造」です。

脳性まひの人は、みなさんが思い浮かべるような筋力トレーニングができないことが少なくありません。

私もそうなのですが、筋力トレーニングをすることによって体全体に力が入り、こわばってしまうことがあるんです。

 

そこで取り組んでいるのが、ボッチャトレーニング、通称「ボチトレ」。

ボッチャの選手たちが筋力アップするための運動です。

選手のボチトレを、一緒に作り上げてきたのが、理学療法士で、トレーナーの古尾谷香苗さんです。

廣瀨選手のボチトレ、いくつかご紹介します。

 

▼寝た状態で、全身を動かすトレーニング

横になった体勢で、腕を上げ、下半身をひねるなど、全身を動かします。

体幹を鍛え、腹筋、背筋をコントロールできるようにするためです。

 

▼立つ、座るを繰り返すトレーニング

つかまり立ちができる廣瀨選手。スクワットのように、立つ、座るを繰り返します。

さらに、立った状態で、足を片方ずつ上げたり下げたりステップを踏みます。

脚に筋肉をつけることで、投球のときに踏ん張ることができます。

 

▼バランスクッショントレーニング

バランスクッションの上に座り、骨盤を回します。

これによって、体幹が鍛えられ、体のバランスが崩れにくくなります。

 

▼チューブトレーニング

チューブを持ち素早く引きます。利き手の左だけでなく、右手も、10回×3セット。

段階的にチューブを硬くしていて、この4年で2段階、強度をあげたそうです。

 

寝た状態で全身を動かすトレーニング

 

立つ、座るを繰り返すトレーニング

 

左:バランスクッショントレーニング、右:チューブトレーニング

 

 

こうしたボチトレを、1日おきのペースで繰り返してきた廣瀨選手。

ぶれない投球フォームが生み出す、正確無比なショットは、

気が遠くなるような努力を積み重ねてきたからこそ、だったんです。

廣瀨選手「前回大会のリオパラリンピックの後、もっと筋力をつけなければと、ボチトレを始めました。以前の体重は60kgほどでしたが、筋肉がつき、最近では70kgに増えています。

服のサイズも、以前はMサイズでしたが、今はLからXLにサイズアップしました。

ボチトレによって、体の動きや疲れ具合など、以前は分かりにくかった自分の身体の状態について、把握できるようになってきたと思います」

■東京大会で目指すのは『全クラスメダル獲得』

ボッチャ日本代表がかかげるスローガンは、『一丸』。

一丸は、日本代表チームだけではありません。

支援する人たち、応援するファンの人たち、私たちメディアなど、全員の思いを結集して、BC1からBC4まで、すべてのクラスでメダルを獲得することが、
東京大会での大きな目標です。

<千葉メモ>

ボッチャの種目は、下記のように分かれています。

▼個人 BC1、BC2、BC3、BC4(クラス別に、1対1で戦う個人戦)

▼ペア BC3、BC4(同じクラスの選手同士がペアを組み、2対2で戦う)

▼団体 BC1/2(3対3で戦う。3人のうちひとりは、より障がいの重いBC1クラスの選手が入る必要がある)

 

団体戦、ペア戦の場合、メンバーの中に必ず女子選手を入れなければいけません。

 

 

もちろん、リオ大会で銀メダルの快挙を成し遂げた団体BC1/2は、金メダルを狙います。

立ちはだかるのが、リオ大会決勝で敗れたタイ。世界ランキング1位の最強チームです。

廣瀨選手は、タイチームについて、次のように話してくれました。

廣瀨選手「コロナ禍で、本当にもう2年ほど、国際大会が開かれていません。

だから、海外チームの最新の情報やデータが分からないのですが、タイの特徴としては、とにかくミスをしない、強いチームです。

これまで蓄積したデータをもとに、相手がどこに攻めてくるかを想定して、実戦形式の練習を行ってきました。

ぜひ応援してもらえたらと思います」

 

ボッチャ日本代表、アシスタント、スタッフのみなさんです!

 

 

◉ボッチャ競技日程

ボッチャの日程はつぎのとおりです。

https://sports.nhk.or.jp/paralympic/schedules/sports/boccia/

 

NHK放送計画(暫定版)はこちら。

https://sports.nhk.or.jp/tokyo2020/nhkinfo/pdf/program-p01.pdf

 

 

団体BC1/2は、

予選が9月2日(木)に始まり、4日(土)に決勝が行われます。

私も『一丸』となって、取材し、みなさんに伝えたいと思います!!

 

(初出、2021年8月9日、NHK 東京2020パラリンピックサイト内の「後藤・千葉・三上のリポーター奮闘日記」に掲載されたものです)

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