特集 羽生結弦 外国特派員協会での会見まとめ

まさに”世界王者”。英語を交えながら、これまでの道のり、フェルナンデス選手との友情、新たな挑戦について語りました。
けがを乗り越えることができた理由
ーーケガなどの困難を乗り越えて世界の頂点に立ちました。どうしてここまで継続できたのでしょうか?
僕は、けがや病気が多いほうの選手だと思っていて。けがで練習や試合に出られなかったりということが、特にソチオリンピックからの4年間続きました。
ただ、小さい頃からずっとオリンピックで金メダルを取ることが夢でしたし、具体的に2連覇という事は考えてなかったんですが、やはりこの年齢でオリンピックで金メダルを取りたいという気持ちがずっとあったので、その気持ちにずっと押してもらいながらスケートを頑張ってきたと思います。
ーー練習ができなかった間、けがについて自分で調べたということですが、具体的に何を?どうやって回復を加速させましたか?
スケートができない間だからこそ、机に向かって、パソコンに向かっていろんなことを学ぶことができたと思っています。
もちろん自分の足のけがが治りが遅くて、すごく焦ることもあったんですけども、自らそのけがについていろいろ調べたり、また、痛みと向き合いながらどのようにすればそのけがを早く治すことができるかを勉強してきました。
勉強している間に、再びけがをしないためのトレーニング方法やピークの作り方、また試合に臨む時のメンタル、そういったものを勉強したと思います。
実際に、足は20%から30%ほどしか痛みは落ちていないんですけども、最終的にこうやって痛み止めと一緒にではありましたけれども金メダルを取ることができたので、やはりその20%、30%痛みを落としてくださったサポートメンバーに感謝しながらこれからも滑らなければと思っています。
4回転アクセルへの挑戦
アクセルジャンプを身振り手振りで説明
ーー4回転アクセルに挑戦するということを聞きましたが、実際に練習を始めているのでしょうか?また、どういうところが難しいのでしょうか?
(立ち上がって身振り手振りを加えながら、英語で)ジャンプには6種類あるのを皆さんご存知でしょうか?そのうち5つは後ろ向きから空中に跳びます。アクセルジャンプだけが唯一前向きに跳ぶジャンプです。ここで半回転ジャンプが追加されるわけです。
(ここから日本語で)アクセルジャンプは1回転だけだと前向きに降りてしまいます。前向きで降りる事はフィギアスケートのルール上、ステップだとかスピンとか、そういうこと以外ありえないので、絶対に後ろ向きで降りなくてはいけません。
なので、アクセルジャンプは前側から跳んで半回転多いということになってしまうんですね。だから一概にクワドルプル、4回転といっても4回転「半」回らなくてはいけないので、普通のジャンプよりも難しいんです。
もっと具体的に技術的な説明をすると、後ろ向きで跳ぶジャンプというのは、手を横に回しながらジャンプできるので、回転をすごくかけやすいんですね。
アクセルジャンプというのは、手を後ろにもっていってそのまま前に出さなくてはいけないので、遠心力をすごくかけづらいんです。その上で4回転「半」回らなければいけないので難しいんです。
まだ誰も試合で成功させたことはないですし、実際に4回転半の練習をしている人も少ないと思います。その中でなんとか、初めの人にはなれなくても、自分の夢である4回転半のアクセルをなんとか成功させたいなという気持ちでいます。
(会場から拍手)
トリプルアクセルを跳ぶ瞬間 腕を後ろから前に振る
ーー将来的に5回転の可能性はありますか?
ジャンプの種類にもよりますけれども、実際に今まで科学的な根拠に基づいて研究した結果、5回転までは人間の能力でできるのではないかという結果が出ているそうです。
なので、挑戦できるんだったら挑戦してみたいなという気もしますし。5回転「半」はちょっと無理かもしれないですけど。
でも、小さい頃から自分のコーチに「お前は5回転もやれ」と言われてはいたので、ちょっと挑戦したいなっていう気持ちもあります。
技術に裏付けられた芸術を目指す
今大会フリーでの演技
ーー現在のスケートは「新4回転時代」とも言われていますが、フィギュアスケートにはジャンプの技術と芸術性のバランスがあると思います。ISU(国際スケート連盟)はそのルールの見直しを検討しているとも言われている事に関して、どう思いますか?
もしかしたら来シーズンから大きなルール変更があるかもしれない、ということは聞いています。芸術性がものすごく必要な競技であるがゆえに、技術的なものが発達しすぎると、どうしても「技術にふさわしい芸術が足りない」という事がよく言われます。
例えばバレエとかミュージカルもそうですが、芸術というのは「正しい技術」、「徹底された基礎」によって裏付けされた表現力・芸術であって、それが足りないと芸術にはならない、と僕は思っています。
だからこそ、僕はジャンプやステップ、スピンをやる際、全てにおいて「正しい技術」を使い、そしてそれを芸術として見せることがいちばん大切なことだと思っています。
もちろん選手によっては、すごくジャンプが大事っていう選手もいるし、それで勝ってきている人もいます。ただ僕は、難しいジャンプを跳びつつ、「それがあるからこそ芸術が成り立ってるんだな」というジャンプをこれからもしていきたいと思います。
試合前にはご飯
ーー羽生選手の試合前の”勝負メシ”は何でしょうか?
日本人としては、ここで寿司と言いたいですけど、競技前に生モノを食べるのは危険なので、僕はいつも絶対にごはんは食べるようにしています。
日本人らしいのかな?パンやシリアル、パスタでは自分はあまり力が出ないので、絶対にご飯をどの会場、どの国でも食べて、そのパワーが演技につながるようにと思って食べています。
ーー食事について、どなたが管理されているのでしょうか?スケートがなかったらお腹いっぱい食べたい・飲みたいものってありせんか?
実は、僕は食に対してそんなに興味がなくて。食事の管理は自分のサポートをしてくださる方がいて、栄養管理の目標値みたいなものを与えてくださっています。
ただ、僕はどちらかというと食べても太らないタイプなので、普通のアスリートとは違う生活をしているのかなと思います。
だからファストフード店も行きますし、炭酸ジュースもすごく好きだし、それと一緒にポテトチップスを食べることもよくあります。
験は担がないけれど・・・
ーー選手によっては、必ず左足から靴をはくなどの験を担ぐ行為をしますが、羽生選手はそういったことをされますか?
以前はスケート靴を右足から履くと決めていて。ある時、左足から履いてしまって、すごく試合で緊張してしまって、そしたら結果的にうまくいったという経験がありました。
それからは左足から履いてもいいと思っているので、今は特にどっちから履くということもなく。「これをしなきゃいけない」っていうふうにも思っていないです。
ただ絶対に気をつけていることは、これは日本人だからかもしれませんけれども、(遠征先などのホテルで)掃除をされる前からベッドのシーツであったり、枕であったり、そういったものはきれいにしてから出る、また荷物の整理だとか、そういったものもしっかりきれいにして心残りがない状態で試合に行くようにしています。
ーーピョンチャンの競技場で北朝鮮の選手と会う機会はあったでしょうか?その印象は?また例えば日本に招待して一緒に滑ることは考えられますか?
北朝鮮のペアの選手とはエクシビジョンの練習で会うことができました。彼らは一生懸命練習していましたし、技術力も持っているなというふうに感じています。
うーん難しい質問ですね。僕は政府の人間ではないのでコメントは難しいんですけど、ただ、一緒にスケートをやっていて、スケートの仲間であることは絶対に確かなことだと思うので、彼らがオリンピックに出られてよかったと思いますし、実際に結果もとれてよかったと思っています。
フェルナンデス選手との友情
ーー(スペインの記者からの質問)フェルナンデス選手と一緒に練習されたりしていますが、羽生選手にとって、フェルナンデス選手との友情はどういう意味を持っているのか、また彼が銅メダルを獲得したことについてどう思われますか?
彼が日本のメディアに僕のことを語ってくれているのを知ってますが、実はスペインのメディアの方にハビエル選手のことを言う機会を待ってました。
彼は本当に優しい人で、優しすぎてちょっと競技には向いてないんじゃないかな、というほど優しいです。
それでも自分と一緒に練習する時は「絶対に勝ってやる」と2人とも思いながら練習していますし、彼がいたからこそ僕はカナダに行ってトレーニングをするという選択をしました。
実は僕は金メダルを取った時に泣いてしまったんですけれども、その泣いてしまうスイッチが入ったのは、彼のメダルが決定したからでもありました。
彼はソチオリンピックの時にメダルを取れなかったんですけれども、その事をすごく悔しがっていたのを知っていますし。
また一緒に練習してきて、オリンピックの時だけすごく無口になっていたので、やっぱりオリンピックでメダルを取りたいっていう気持ちがすごく強いんだろうな、と思っていたからこそ、彼のメダルというものが本当に僕も誇らしかったですし、すごく嬉しかったです。
これから一緒に試合ができるかどうかわかりませんけれども、彼が(今後)スケートをやるかわからないんですけれども。
ただ、6年間僕が彼と練習をしてきて、お互いに高め合いながら一緒に試合に出ることができて本当に幸せだったし、彼がいなければ僕はこのメダルを持ってこられなかったなと思っています。
言うのを忘れました。特に今回のオリンピックはたくさんの素晴らしい選手がいて、僕の上の世代、下の世代、両方とも本当にトップスケーターがたくさんいる中での試合でした。
どの選手も素晴らしい演技をしていましたし、その中で自分もいい演技をしてみんなから刺激を受けられたことが本当に幸せです。
もっと組織的で科学的なフィギュアスケート研究を
ーー最近、トレーニングとして違うスポーツをやってみるということがありますが、羽生選手もそういったことをしますか?
ハビエル選手なんかは、ずっとサッカーをしています。それがスケートのためになるかはわからないですけど、海外の選手はよくサッカーをやりながらウォーミングアップするのをよくおぼえています。
僕以外の話で恐縮ですが、スピードスケートやショートトラックといったほかのスケート競技では、自転車を使った練習方法というのも確立されています。
自転車で飛んだり跳ねたり、また後ろに滑ったりということはできないので、フィギュアスケートに向いているかどうかはわからないんですけども、僕はけがをして氷上に立てなかった期間、自転車で心肺機能や体力をつけるトレーニングをしていました。
ただ、フィギュアスケートは科学的に研究されているものが少ないですし、研究していたとしても個人であったり、僕も研究している一人かもしれないですけども、自分のためだけであったりといったことがすごく多いので、これからは、僕が2連覇したことも含めて、国として、また研究機関としてフィギュアスケートがより研究されることを願っています。