特集 幕内復帰の宇良 “くせ者”が磨いてきた正攻法 大相撲名古屋場所

野球でスローカーブのあとに速球を投げると、バッターは実際のスピード以上に速く感じる。およそ4年ぶりに幕内に復帰した宇良の相撲を見て、そんな話を思い出した。
10日目は激しい突っ張りを得意とする千代の国との一番。ところが千代の国は立ち合いで踏み込めず、まっすぐに当たった宇良が逆に突き押しで押し切ってしまった。
「(Qここまでの手応えは?)わからないです。自分の体がもつか心配なんで。自分でもよく頑張っていると思います」
いつも通り謙虚な答えだったが、ここまで6勝4敗、堂々と幕内の土俵を務めている。
宇良と言えば、機敏な動きと多彩な技。「居反り」「たすき反り」「足取り」・・・・「業師」と呼ばれて土俵を盛り上げてきた。
ただ今場所は10日目のような正攻法の相撲が目立つ。あるときは突き押しで、あるときは四つ身で、前に出て勝負をつけてきた。
要因の1つが、対戦相手が思い切り踏み込めていないことだ。
3日目に敗れた千代丸が「ちょっとやりづらい。何してくるかわからない」と話していたように、多彩な技のイメージがあるため宇良の動きを見ながらの立ち合いになってしまう。
そこにまっすぐ当たることで、まるで野球の「緩急」のように正攻法の相撲が効いてくるのだ。
「昔のように逃げ回って勝機をつかむのではなくて、しっかり力で対抗できるようにしたい」
宇良自身も場所前にこう話し、「前に出る力」を意識して磨いてきたと明かした。稽古だけでなく食事にも気を遣い、ことし5月には、入門した6年前よりもおよそ40キロ重い143キロにまで体重を増やした。けがで陥落した間に体を大きくして帰ってきた業師。
9日目には宝富士の腕を抱え、「とったり」で鮮やかに勝負を決め、「技」も健在であるところを見せた。
「僕は強いと思ったことがない。僕より強い幕下なんて、ごろごろいますよ」
場所前の言葉は心の底から出た本音だろう。
謙虚な心で「技」と「力」を磨いてきた小さな力士。どこまで星を伸ばせるか、終盤戦に向けて楽しみが増えた。
この記事を書いた人

清水 瑶平 記者
平成20年 NHK入局。熊本局、社会部などを経て、平成28年からスポーツニュース部で格闘技を担当。学生時代はボクシングに打ち込む。