特集 白鵬 中日勝ち越し ~横綱が伝えていくもの~ 大相撲名古屋場所

「中日勝ち越し、おめでとうございます」「・・・おめでとう、ですね」
初日からの8連勝を決めたあとの取材で、記者の言葉に反応するまでに少し、間があった。横綱にとっては8勝はあくまで通過点という意識が返答を遅らせたのかもしれない。
6場所連続の休場から進退をかける意向を示して臨んだ場所で51回目の「中日勝ち越し」。横綱としての役割を、ここまで十分に果たしている。
「6月はじめからしてみれば想像できなかったけど、場所が始まってからはいけそうな感じがした。ひとつクリアしたのかな」
そんな偉大な横綱に今場所は力士たちも、さまざまな思いを持って挑んでいる。中日に対戦したのは初顔合わせの琴恵光だ。
得意の左四つに組みながら、巻き替えに出た隙をつかれ一気に寄り切られた。
初土俵から14年で初めて横綱に挑んだ琴恵光は敗れたあと感慨深い表情を見せた。
琴恵光
今まで味わったことがない空間でした。横綱と対戦できたことは、すごく今後に生きると思うのでいい勉強になりました。
白鵬との対戦を自信に変えたのが三役経験のある実力者、隆の勝。今場所初日から3連敗を喫して挑んだ4日目の一番。
張って捕まえようとする横綱相手に引かず、土俵際、あと一歩のところまで追い詰めた。
その翌日から打って変わって4連勝、完全にリズムをつかみ、中日で星を五分に戻した。
隆の勝
横綱戦で善戦できたのが自信になった。あの一戦でだいぶつかめてきたと思います。
7日目に対戦した翔猿は「前日からずっと考えていた」という作戦に出た。
仕切り線から思い切って離れて立ち、横綱に近づかずに勝機を探るというほとんど見たことのない展開になった。
結局、まったく動じなかった横綱にまわしを許し、上手投げで敗れたが「どきどきして楽しかったです」と悔いの無いような表情だった。
白鵬自身は相手の力士について必要以上に多くを語らない。「自分のことで精いっぱい。1日一番です」とみずからの相撲に集中している。
それでも横綱に挑戦する力士にとっては、あるときは思いっきりぶつかり、あるときは必死で考えて工夫することで得られるものは、とてつもなく大きいはずだ。本場所の一番は横綱として14年に渡って築き上げてきたものの一端を肌で感じられる瞬間なのだ。
白鵬が残り7日間で次の世代の力士たちに何を伝えていくのか、優勝争いの行方とともに見つめていきたい。
この記事を書いた人

清水 瑶平 記者
平成20年 NHK入局。熊本局、社会部などを経て、平成28年からスポーツニュース部で格闘技を担当。学生時代はボクシングに打ち込む。