ストーリーパラスポーツ

パラスポーツは自由を与えてくれるのかも

2018-03-17 午後 0:00

まもなく閉幕を迎えるピョンチャンパラリンピック。選手たちが見せてくれる熱いドラマに毎日興奮させられましたね。長年パラスポーツを取材してきた作家の浅生鴨さんは、選手たちが果敢に挑戦を続けるのは、そこに“自由”があるからではないだろうかと考えているそうです。浅生さんのコラムをお楽しみください。

 

パラリンピックに出場している選手たちの中には、日常生活に医療のサポートが必要な人も少なくない。尿意を感じることのできない選手は一定時間ごとに自己導尿する必要があるし、体温調節があまりうまくできない選手、特定の薬を欠かせない選手もいる。

 

けれども、競技によっては試合中にそういった医療器具を使うことは難しいし、常用している薬の中にはドーピング検査の対象となるものもあって、大会期間中はその薬の服用をやめてしまう選手さえいる。命がけ、というと大げさな表現に思われるかもしれないけれども、文字通りある意味命がけで大会に臨んでいる選手もいるのだ。

 

 

パラアイスホッケーの選手たちは

ハードにぶつかるから、よく骨折するよね

当たりどころが悪ければ障害がもっと重くなっちゃうよね

なんて本気とも冗談ともつかないことを口にするし、片足で滑っていた立位のアルペンスキー選手が競技中の事故で脊髄を損傷し、下半身不随になったら、こんどはチェアスキーに乗って再び競技の世界に戻ってきた、なんて話もある。

 

 

確かに「失ったものを数えるな、残されたものを最大限活かせ」というのが、パラリンピックの生みの親、ルードヴィヒ・グットマン博士の教えだけれども、みんな残されたものを過激に活かし過ぎじゃないか。彼らを尊敬しつつも、僕はときどき呆れている。

 

それにしても、そこまでしてでも勝ちたいという強い気持ちは、いったいどこから来るのか。リスクを恐れないその精神力はどこから生まれるのか。僕にその答えがわかるわけではないし、もちろん人によっても違っているだろうけれども、何となく僕は、そこに自由があるからじゃないだろうかという気がしている。

 

 

昔に比べれば少しずつバリアフリー化が進んでいるとはいえ、まだまだ日常生活の中では、障害者にとって不便なことがたくさんある。何にでも挑戦し、困難をものともしないように思えるパラアスリートたちにだって、やっぱりできないことはあるのだ。

 

けれども、パラスポーツの舞台は彼らのためにデザインされている。障害の程度によってはそれでも不便はあるだろうけれども、少なくともそのルールの中にいる限り、できないことは圧倒的に少なくなる。グラウンドで、スケートリンクで、ゲレンデで、パラアスリートたちは自由を手に入れるのだ。

 

 

グラウンドにいる間はまわりを気にすることなく、安心して走れます
と、ブラインドサッカーの選手は言う。

車いすで人にぶつかるとたいへんだけど、ここなら思い切り相手にぶつかることができるんだよ
と、パラアイスホッケーの選手が言う。

そこにある開放感は、普段の生活では味わうことのできないものなのだろう。

 

 

より速く、より高く、より強く。戦うことで、勝つことで、より大きな自由を手に入れていく。彼らはできないことをできないままにはしておかない。残されたものを最大限に活かすのではなく、まだ手にしていないものを手に入れようとする。たぶん、それこそがパラアスリートなのだ。何かができないことの寂しさを知っているからこそ、そして、それまでできなかったことができるようになる喜びを知っているからこそ、彼らはリスクを恐れず、勝負の場に向かうのだ。

 

もちろん、一流のパラアスリートになるには、そういうタフな精神だけでなく、恵まれた才能が必要だし、努力だって不可欠だ。それに運もある。だから、誰もが彼らのようになれるとは言わない。いくら望んでも、できないことができるようになるとは限らない。

 

 

でも、だからこそパラスポーツには大きなヒントがあるのだと僕は思う。パラアスリートたちを自由にするルールやデザインが、彼らが戦いの中で手に入れるものが、そして、その戦いを見つめながら僕たちの気づくことが、やがて社会全体に広がれば、障害者だけでなく、誰もが今よりももっと自由になれるのかも知れない。そんな気がするのだ。

 

【浅生鴨(あそう かも)】

1971年、兵庫県生まれ。
作家、広告プランナー。元NHK広報局員。
31歳の時に交通事故に会い、生死の境をさまようも奇跡的に生還。「もう一生歩けない」と医師に宣告されるほどの重症だったが、長いリハビリを経てもう一度歩き方をゼロから覚える。
近著に、視覚障害のあるランナー・スキーヤーのガイドを主人公にした小説『伴走者』がある。

 



※こちらは、2018年3月17日に公開された記事です。内容は公開時のものとなります。

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