特集 大関・照ノ富士は焦らない ~冷静さの裏に~ 大相撲名古屋場所

なぜ、ここまで落ち着いていられるのだろう。
そんな疑問を抱くくらいに、綱とりに挑む照ノ富士は冷静だ。6日目は今場所一番の相撲。
体重200キロの逸ノ城を相手にがっぷりと右四つで組み合い、何もさせずに寄り切った。
相手は同じ高校の後輩でもあったが照ノ富士はそっけない。
土俵に上がったら一緒なんでやるべきことをやるだけですね
顔色をまったく変えなかった。
「横綱」という最高の地位を目の前にした場所、はかりしれない重圧がかかっていてもおかしくはない。ただ、照ノ富士の表情は初日から厳しさはあるものの「穏やか」と表現してもいいくらいにいつも通りだ。
精神面の充実は土俵にも表れている。万全の相撲ばかりではなく、相手もあの手この手で工夫してくるが、焦る様子がまったく見られない。
我慢して自分の形を作り、前に出ていく・・・。その繰り返しで白星を重ねてきた。横綱経験者たちもその落ち着いた相撲を手放しで褒めている。
元横綱北勝海・日本相撲協会 八角理事長
落ち着いている。やることをやれば勝ちがついてくるんだと焦らなくなった
元横綱大乃国・芝田山親方
我慢強さがある。見ているかぎり、綱とりの重圧は見えない
なぜ、重圧をはねのけて平常心でいられるのか。
最近の照ノ富士が何度も繰り返している言葉に、そのヒントがある。
稽古でやったことしか場所では出ない。準備が一番大事なので
2021年6月9日 稽古する照ノ富士
大関から序二段まで陥落し、そして再びはい上がってきた照ノ富士は「人の3倍くらいやるつもりでやっている」というくらいに稽古を重ねてきた。
稽古だけでなくトレーニングや細かい技術の確認などまさに「相撲漬け」の日々で、「24時間では足りない」と話していたほどだ。その積み重ねで、「準備をしてきた」という自信が本場所で決して焦らない強い「心」の原動力となっている。
注目を集める綱とりについては場所前、こんな風にも話していた。
できたらできたでいいし、できなかったら、できなかったでいい。最後まで力を振り絞る、それだけです
横綱という地位に届かなければ、稽古が足りなかったというだけ。届かなければ、また稽古をすればいい。淡々とした言葉の裏には強い覚悟がかいま見えた。
名古屋場所は6日目を終え、勝ちっぱなしは早くも照ノ富士と横綱・白鵬だけとなり優勝争いも2人に絞られようとしている。大関を“焦らせる”のは誰なのか。
どん底を経験した男に重圧を感じさせるには生半可な覚悟では届かない。
この記事を書いた人

清水 瑶平 記者
平成20年 NHK入局。熊本局、社会部などを経て、平成28年からスポーツニュース部で格闘技を担当。学生時代はボクシングに打ち込む。