特集 新小結 若隆景 目標だった祖父 若葉山の番付に追いつき大相撲名古屋場所へ

若隆景(荒汐部屋)が新三役の小結に昇進して名古屋場所に挑みます。
1メートル82センチ、130キロと幕内力士の中では小柄ともいえる体格ですが、強い足腰と「おっつけ」(手から肘を使って相手の腕やわきの下を絞り上げるように押しつける技)を武器に、3月の春場所に10勝、5月の夏場所に9勝を挙げてともに技能賞を獲得。
祖父の若葉山(昭和20年代から30年代に活躍した)の最高位・小結に並びました。
吉田賢アナウンサー
NHKの大相撲中継でおなじみ、吉田賢アナウンサーが、若隆景と師匠の荒汐親方(元幕内・蒼国来)に躍進の秘密などを聞きました。
元横綱 日馬富士を目標に立ち合いを磨き新三役を手に
ーー新三役おめでとうございます。三役というのはどういうものですか。
祖父の若葉山の番付が小結で、自分の中で1つの目標だったので、それに追いつけたのは、うれしいです。
ーー関取といえば、おっつけですが、いつごろから身につけてきたんですか。
相撲を始めたころから、ずっと、おっつけは練習してきましたね。
夏場所3日目 朝乃山を厳しく攻める若隆景(左)
ーー関取は本当にまわしを取らないですね。
そうですね。学生のときなどは、まわしにこだわる相撲も多かったんですけれども、今はそういう意識はありません。
ーー去年の11月場所は西の前頭筆頭で負け越しました。といっても、7勝8敗だからいい成績なんですけれども、このときは、上位力士に全然勝てませんでしたね。
7番勝ったからといって満足は全然しなかったですし、次は勝ち越そうという意識でいましたね。初めての上位で、もっと頑張ったらある程度取れそうだなという手応えがありましたね。
ーーそのときこういうところを磨かなければという課題はありましたか。
夏場所11日目 若隆景が突き出しで豊昇龍を破る
やはり、立ち合いですね。当たり負けないように、しっかり当たっていくということです。立ち合いで参考にしているのは、元横綱・日馬富士関のような、突き刺さるような立ち合いですけれども、なかなかそうはいかないです。理想としては、ああいう立ち合いですね。
ーー新三役の名古屋場所に向けてはどうですか。
もっと立ち合いを磨いて自分の相撲を取り切って、勝ち越しを目指してやっていきたいですね。
ーー名古屋場所は楽しみですか。
不安はありますけれども、まあ楽しみながらやっていきます。
夏場所13日目 勝ち越しを決め勝ち名乗り
ーー次の目標はどこに置いていますか。
まずは勝ち越して定着したいです。やっと三役の座をつかんだので、すぐに落ちたりはしたくないですね。
若隆景は気に入っているしこ名 祖父のしこ名を継ぐのは難しい
ーーおじいさんのしこ名の若葉山を継いだらどうだという話はよくあるでしょう。三役になって思いはどうですか。
まあ……難しいですね。
若隆元、若隆景、若元春の3兄弟(左から)2019年10月28日撮影
ーー名乗れるものなら名乗りたいのか、若隆景という、このしこ名を大きくしていきたいのか、どちらですか。
やっぱり兄弟3人で、このしこ名があって……。(長男・若隆元(幕下)、二男・若元春(十両)、若隆景が三男。戦国武将の毛利元就が、3本の矢に見立てて息子3人の結束を訴えた話が有名。3人のしこ名は毛利3兄弟からとっている)
ーーなるほど、1人だけ抜けるというわけにはいかないですからね。
もちろんそうですね。若隆景というしこ名が気に入ってもいますし。
ーー若隆景というのは、我々アナウンサーも言いづらいんですけれども(笑)。
私も言いづらいんですけれど(笑)。
ーーところでおじいさんはどういう方でした。
若隆景の祖父 若葉山
私が5歳、小学校に上がる前に亡くなりました。脳梗塞をやっていたので、私が覚えているのは車椅子に乗っている姿です。
ーー5歳で亡くなったということは、関取が相撲を始めたことは知らないんですね。
始める前でしたからね。
ーーこうして活躍しているのを知ったら、ましてや三役は喜ぶでしょうね。
喜んでいると思います。
おっつけが左右どちらでもできて、腰の入れ方がうまい
師匠の荒汐親方(撮影時にマスクをはずしてもらいました)
ーー師匠の荒汐親方に若隆景関についてうかがいます。この1年で急激に力をつけてきましたね。
入門して1年くらいは、大学時代の2倍も3倍も稽古させられて苦しんだのですけれど、慣れてから稽古量が増えました。それが今結果として出始めたのではないかと思います。また、おっつけですが、若隆景は、ただのおっつけでなくて、右からでも左からでもできて、腰の入れ方がとてもうまい。そして番付が上がって自分より大きな力士が相手になったので、ちょうど押しやすくなったんじゃないですかね。
夏場所4日目 若隆景が押し出しで髙安を破る
ーーそれが若隆景関のおっつけの秘訣ですか。
そして研究熱心。稽古が終わったあとに自分の稽古の録画を見たりしているし、昔の相撲取りの動画を見たり、対戦相手についても研究したりしている。土俵では、小さくてもあの体で逃げないというところがすごいと思う。
立ち合いを強化して新三役 負けてもいいという気持ちで前に出ろ
ーーところで、去年の11月場所は西の筆頭で三役力士を1人も倒せませんでしたが、そのあと立ち合いを強化したと関取が話していましたが。
2020年11月場所 すくい投げで照ノ富士に敗れる
上位の人は立ち合いが違ったんですね。体で感じたと思います。そこから全体の稽古が終わったあとでも、さらに若い衆に胸を出させてぶつかり、立ち合いの稽古をやっていた。夏場所は立ち合いが全然違いましたね。体が小さいので立ち合いをもっともっと磨いていってほしい。
ーー改めてどういう力士になってほしいですか。
正直に言って、やることはがっちりやっているので、体には決して恵まれてはいないけれど、今はこの勢いで前に出て相撲を取ってもらいたい。負けてもいいという気持ちで。
ーー今の相撲を磨いてほしいと。
どんどん磨いてほしい。もっともっと強くなりたいという気持ちが稽古場で出ていますね。トレーニングもしてね。名古屋場所は、伸び伸びと取ってもらいたい。あとから結果はついてくるから。
相撲専門雑誌「NHK G-Media大相撲中継」から