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“弱虫ペダル サイクリングチーム” 漫画家・渡辺航「全力で挑めば扉は開く」

2021-06-26 午後 05:00

コミック発行部数2500万部を誇る、とびきり熱いスポーツマンガ『弱虫ペダル』。自転車競技に魅せられた気弱な高校生・小野田坂道が、仲間と共に成長し、ついには高校チャンピオンの座をつかむ物語です。

作者は、渡辺航(わたる)さん、50歳。実は、『弱虫ペダル』の主人公に負けないくらい、“激アツ”な人です。

 

 

渡辺先生の熱い思いはマンガを飛び出して、自ら自転車競技のチームを立ち上げました。その名も ”弱虫ペダル サイクリングチーム”。メンバーは、決して順風満帆ではない競技人生を送る若い選手たちです。「一度や二度の挫折で夢をあきらめないでほしい」、そんな思いで、渡辺先生はメンバーを応援します。

渡辺先生

一番伝えたいのは、恥ずかしがらずに本当に全力を出してほしいっていう気持ち。みんな、どんどんやっていいんだよとか、やりなよっていうことをすごい伝えたくて。

 

(この記事は2021年1月に放送した番組「スポーツ×ヒューマン」を再構成したものです)

最も過酷な自転車競技「シクロクロス」に挑む

 

「弱虫ペダル サイクリングチーム」が挑む競技は「シクロクロス」です。100年以上もの歴史があり、ヨーロッパでは絶大な人気を誇ります。世界選手権やワールドカップの盛り上がりは他の種目にひけをとりません。

 

 

特徴は起伏の激しい過酷なコース!

技術が問われる土がむき出しの急勾配や、視界が狭くなる林の中の急カーブ、自転車を担いで渡る階段など、選手の落車や転倒は日常茶飯事です。

 

 

自転車競技の「ロード」や「マウンテンバイク」など様々な種目で求められる能力が組み合わされた“最も過酷な競技”シクロクロス。そこで必要とされるのは、どんな状況でも泥臭く全力で進むことです。

アシスタントすら務まらなかった 渡辺先生の挫折

2本の連載を抱え、多忙な日々を送る人気漫画家の渡辺先生。貴重な時間を割いてチームを作ったのは、自転車が大好きだからという理由だけではありません。

実は渡辺先生も、若手の頃、夢をあきらめそうになったことがあるのです。

 

大学卒業後、一度は地元で就職した渡辺先生。漫画家になるという幼い頃からの夢をあきらめきれず上京し、漫画家のアシスタントとなりましたが、そこで厳しい現実にぶつかります。

 

渡辺先生

半年くらいで、(漫画家から)「ちょっと渡辺くん、話があるんだけど」って。「ちょっと今の実力だとなかなか難しいんで、よその作家さん紹介するから、うちは辞めてもらうってことで覚悟してもらっていいかな」っていうようなことを言われて…。うおーマジかー!厳しいなー!って…。

 

自分の才能ではアシスタントすら務まらないのか――。

 

それでも必死で描き続けていると、ある日、先輩から思いがけない言葉をかけられました。

渡辺先生

「背景がうまいね」とか言われて。いやいやいや、必死ですよ、みたいな。僕そんなうまくない。もう先生に近づくために必死で修行中です、みたいな感覚だったんですけど。その先輩は、「いや、いいよ、この背景。すごくいいね」って言ってくれて。(先輩に背景の描き方を聞かれたので)いや、こんなふうに描いてますって言うと、「ああ、その描き方すごいね」とか言ってもらえたんですね。

 

自分では気付かない可能性を見つけてくれた先輩の言葉。それを励みに描き続け、たどり着いたのが、あの「弱虫ペダル」でした。

渡辺先生には、作品に込めたひとつのメッセージがありました。

渡辺先生

人間にはいろんな可能性があって、それを沢山の人と触れ合うことで見つけていってほしいな。一番伝えたいのは、やっぱ全力を出すこと、恥ずかしがらずに全力を出してほしいっていう気持ち。それってみんなどんどんやっていいんだよとか、やりなよっていうことをすごく伝えたくて。

「立て直せ」 渡辺先生が奮起を促す若手選手

 

そんな渡辺先生が、サイクリングチームの中で特に気にかけている選手がいます。5年前に入団した織田聖(ひじり)選手、22歳です。

4歳でBMXを始め、幼いころからセンスはピカイチ。小学生の時には国内大会で優勝し、国際大会にも出場しました。しかし、センスに頼って厳しい練習を避けるようになり、次第に勝てなくなります。いつしか、世界で戦う夢はついえていました。

 

織田選手(一番右)

 

そんな時、シクロクロスのレースで出会ったのが渡辺先生でした。

 

「シクロクロスでもう一度やり直してみないか」

その言葉が、織田さんを動かしました。2016年2月、渡辺先生のチームに入団したのです。

織田聖選手

(渡辺先生が)「うちのチームからぜひ羽ばたいてほしい」と。「うちのチームに留まるんじゃなくて、うちのチームからぜひ世界とか日本のプロとかに羽ばたいていって欲しい」という話だったので。そんな監督いないじゃないですか。僕はそんな監督、初めてだったので。

 

渡辺先生

立て直せよって、立て直せば絶対新しい扉が開くから。そこをとにかくやんないと。本気でやんないと。一番大事なのは何?これしかない、じゃあやるしかないっていう覚悟を決めなきゃいけないと思うんですよね。

 

 

練習は1日4時間、休みは週1日。目標は、全日本選手権で優勝し世界への足がかりをつかむことでした。

地獄の特訓で見せた、渡辺先生の”全力”

 

大会までおよそ1か月に迫った去年10月。弱虫ペダルサイクリングチームは筑波山へ向かいました。

 

峠のアップダウンを5時間かけて繰り返す合計100kmの地獄の特訓!

織田選手が入団以来苦手としてきたスタミナ練習です。

49歳の渡辺先生も特訓に参加します。

 

練習の冒頭、さっそく勾配10%の急な坂道が延々と続きます。

織田選手は2番手に。他の選手を風よけにして体力を温存します。一方、渡辺先生は遅れ始めます。

 

最初の中間ポイント、織田選手たちが次々に到着し休憩をとりますが、渡辺先生は大幅に遅れて合流します。

 

5分と休まず、すぐに出発。ここでも織田選手は3番手をキープ。またしても遅れる渡辺先生…。

 

地獄の特訓に参加する渡辺先生

 

スタートして2時間後。

何度遅れをとっても、どれだけ離されても、渡辺先生は坂道に挑むことを決してあきらめません。

その姿を、織田選手は見つめていました。

 

織田選手

ただきついだけじゃないですか、正直。僕もきついですし。いや、すごいなと。本当にすごいですよね。

 

すると、練習の最終盤、疲労がピークに達していた時。ついに織田選手が先頭に出ます!

織田選手を指導してきたゼネラルマネージャーが思わす声をあげます。

 

「行った!」

 

 

 

あえて先頭に立ち、風の抵抗を受けて走る織田選手。追い上げる選手にも先頭を譲りません。そしてそのままゴール!

10分遅れて、渡辺先生も登り切りました。

渡辺先生

積み上げてくと、急に世界がバッて広がって見えるみたいなことってすごくあるんで。(織田選手は)成長していくっていうか、上に上がっていくきっかけをつかめるんじゃないかなって思ってるから。

君の坂道を登れ! 全力で!

 

去年11月、勝負の全日本選手権の日がやってきました。67人が出場し、国内最強を決める戦い。渡辺先生は、仕事場からネットでレースを見つめます。

この日、降り続いた雨でコースは最悪の状態でした。織田選手の最も苦手とするシチュエーションです。

 

 

「負けてもしかたない――。」

 

織田選手は、弱気に襲われていました。

 

 

この大会、織田選手には、強力なライバルがいました。長年、日本のシクロクロス界をリードしてきた沢田時(とき)選手です。過去に全日本選手権を制し、数々の世界の舞台で戦ってきた強者です。

 

 

全日本選手権、スタート。

 

序盤、織田選手は出遅れたものの、少しずつ順位を上げていきます。

2周目で2位に。3周目で沢田選手をとらえ、トップに立ちます!

 

しかし、ここで恐れていた事態が…。

 

 

斜面に足を取られ転倒!

 

仕事場の渡辺先生も思わず声が出ます。

 

「おいーっ!織田聖、転んだ!」「立て直せ!」

 

階段昇りのタイミングで勝負を仕掛けトップに出る織田選手

 

沢田選手に逆転され、すぐに後を追う織田選手。

ぬかるんで滑りやすいカーブでも、恐れずペダルを踏み続けます。

 

残り1周。最もきつい階段セクションで勝負を仕掛け、再びトップに。

 

念願の優勝へ。逃げ切りをはかる織田選手はピットに入り、泥だらけの自転車を交換。

ここで、沢田選手が勝負への執念を見せます。ピットに入らず、織田選手を抜き去ったのです。

 

必死に食らいつく織田選手。沢田選手ともつれあうようにゴールへ。

 

(渡辺先生)

「行け、聖、聖!行け、行け、行け!あーーっ!!」

 

織田選手は、惜しくも2位。

しかし、全力を出し切りました。

 

織田選手

限界だった。本当にもういっぱいいっぱいでした。

 

渡辺先生

本気の走りって実は見てる人に伝わるんで。本気の走りをみんなに見せることができる練習をしないとダメなんですよね。練習して、本気の走りを見せて、それを見た時にどんな人でも心震えると思うんですよ。僕もすごいなって思って、心震えたんで。 

全力で頑張れば道は開ける! それは漫画だけではない

 

全日本選手権から1か月。練習を続ける織田選手のもとにうれしい知らせが届きました。

日本での活躍が認められ、スイスのチームから契約のオファーが来たのです。

渡辺先生はもちろん快く織田選手を送り出しました。

織田選手

これからさらに厳しい世界に入っていくので、そのためにしっかり準備して、織田聖が弱虫ペダルっていうチームで走っていたと結び付けてくれるようになれば嬉しい。

 

 

「全力で頑張れば、道は開ける」。「不可能は可能になる」。渡辺先生の熱いメッセージです。

渡辺先生

先入観みたいなやつって実は必ず壊れていったりするんですよね。自分には無理だよ(という先入観)とか、やっぱりどんどん打ち砕かれていく。僕は人間にはたくさん可能性があるんだろうなって思っていて。実は年齢なんて関係なくて、突破口は開けていくんじゃないかと思うし、いろんなチャンスがあるし、才能があると思っているんです。

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