ちょっと待って!そのストレッチ、本当に正しいですか?

新型コロナウイルスの影響が長引き、不要不急の外出自粛中の運動不足解消は、今やひとつのテーマ。最近は、自宅などで、ストレッチをする人は多いのではないでしょうか。(※2021年6月21日スポーツウェブ掲載)

 

最近は動画サイトで、手軽にストレッチを学ぶこともできますが、間違った方法によるストレッチだと、じん帯を損傷してしまったり、老後の体に支障が出たりする可能性も・・。

そこで、今回は、正しいストレッチ方法を、運動生理学が専門で、フィジカルトレーナーの中野ジェームズ修一先生に教えてもらいました!

中野ジェームズ修一

フィジカルトレーナー。米国スポーツ医学会認定運動生理学士(ACSM/EP-C)。日本では数少ないメンタルとフィジカルの両面を指導できるトレーナー。「理論的かつ結果を出すトレーナー」として、卓球の福原愛選手やバドミントンの藤井瑞希選手など、多くのアスリートから絶大な支持を得てきた。2014年からは、青山学院大学駅伝チームのフィジカル強化指導も担当。ストレッチや筋肉に関する著書多数。

ストレッチの基礎知識


ストレッチの狙いは、姿勢悪化の防止!

 

中野ジェームズ修一さん(以下、中野さん):

人間の体には、前後左右にバランスよく筋肉がついていますが、何らかの原因によって、それぞれの筋肉の硬さに違いが出てくると、姿勢が悪くなります。

例えば、身体の前の筋肉が硬くなると、前傾姿勢になるし、後ろの筋肉が硬くなると、背中が反ってしまいます。

筋肉は、加齢に伴い、硬くなっていく傾向があるので、新型コロナウイルスの影響によって長期間、外出を控えるようになり、体を動かさなくなると、だんだん、前に屈んだような姿勢になっていきます。それを防ぐための1つの手段として、ストレッチは有効です。


硬くなっていく筋肉を、ストレッチによって、柔らかくすることで、体のバランスをとるようにするわけです。

 

ストレッチのベストな伸びは「いたキモチイイ」

筋肉には「筋紡錘(きんぼうすい)」というセンサーのようなものが備わっています。筋肉を無理に伸ばそうとすると、このセンサーが働くので、筋肉は収縮します。例えば、グッとふくらはぎを伸ばした際、その筋肉が震え始めたら、センサー稼働の合図です。

その震え始めたポイントから、少し震えが収まったところに戻して、ゆっくり伸ばしていくことが重要です。いわゆる「いたキモチイイ」を見極めるポイントです。

反動をつけるようなストレッチは、よくありません。センサーが働く前に、筋肉を引っ張ってしまうので、筋肉や関節への負担が強くなりがちです。

 

股関節が柔らかいほど良い!……わけではない!

ストレッチというと「180度開脚」が話題になることがありますが、この行為、実は、かなり危険です。本来の股関節は90度ぐらいまでしか開かない構造になっているので、180度に足を開くという行為は、じん帯を伸ばしてしまっている可能性があるからです。

じん帯は筋肉ではなく、骨と骨とをつなぐセロハンテープみたいなもので、伸ばしすぎると切れるという限界値があります。筋肉のように伸張性があまりありません。じん帯がゆるんだ状態というのは、いわゆる、ねんざです。しかも、じん帯は一度ゆるんでしまうと元に戻りません。最悪の場合、高齢者になって歩行困難になってしまう場合もあります。

体操選手やバレリーナなどのアスリートは別として、一般人が180度開脚できる必要はまったくありませんし、むしろ危険です。 

ちなみに、小さな子どもが、楽に180度開脚できるのは、じん帯がまだ未発達の状態で、90度まで開かないようにする構造ができていないから。体が発達した大人が「体が硬くなった」と思い込み、無理に伸ばすことはNGです。

 

ストレッチとヨガはまったく別物!

ストレッチとヨガを混同されている方もいますが、この2つは、主な目的が違います。

・ストレッチ=身体の筋肉のバランスを整えるため
・ヨガ=精神修行のため 

ヨガは、精神修行の上では、大切な動作であっても、マイペースに行わず、無理な動作を続けると体にとっては、負荷がかかり過ぎる場合が結構あるんですよ。健康のために、ということで、ヨガをやっている方も多いですが、「ヨガ=体に良い」とは、ひとくくりに言えません。YouTubeなどを見て、自己流でヨガ風のストレッチをされている方も多いと思いますが、知らず知らずに、体にダメージを与えている可能性もあるので、注意が必要です。

絶対にやってはいけないストレッチ①首編


ここからは、特に多いNGストレッチを取り上げます。まずは、首のストレッチ。デスクワークなどと一緒に、このNGストレッチをやってしまっている人も多いのでは?

NG:頭をいきなり過剰に伸ばすストレッチ

脊髄は、下の画像のように後ろにゴツゴツとした出っ張りがある形になっています。

首をいきなり後ろに倒すと、この出っ張りを潰すことになります。つまり、この骨の構造上、人間の首は後ろへの可動域が前より狭く、曲げるのに適していないのです。ここを無理に急激に倒すと痛めてしまう可能性があります。

 

NG:首への負担が大きいポーズ

 ヨガなどでよく見かけるポーズです。寝転がった状態から、両足を頭の後方へ持っていくこちらのポーズですが、首への負担が大きすぎるため、一般人はものすごく注意が必要なストレッチ方法です。

 

OKなのは頭を下に向けて伸ばすストレッチ

 首周辺のストレッチは、首を軽く前に倒すのが正解。「いたキモチイイ」まで伸ばしましょう。

絶対にやってはいけないストレッチ②脚編


NG:股関節を無理に伸ばすストレッチ

部活動などでよく見かける下半身のストレッチです。「いたキモチイイ」ポイントで止めることができれば、問題はありませんので、完全に間違った方法とは言えませんが、グッグッと反動をつけて痛みが起きるほど股関節を伸ばすのはやめましょう!

「180度開脚」がNGな理由と同じで、じん帯の伸びる限界値を超えてしまう可能性が高いからです。私のような専門家なら問題ないですが、友人や家族など素人による介助だと「いたキモチイイ」ポイントを超えてしまう危険性が高まるので、あまりオススメできません。

 

NG:ハードラーストレッチ

股関節や脚の筋肉を伸ばす時に、よく見るストレッチですが、本来は、陸上競技のハードル選手などが行うストレッチで、一般人がやると過剰に筋肉を伸ばしたり、股関節のじん帯をゆるめてしまうリスクが非常に高いです。プロのアスリートではない限り、やめましょう。

 

OKなのは股関節を広げすぎないストレッチ

股関節を広げる必要はありません。例えば、太ももの前を伸ばしたい場合は、上の写真のように座った状態で伸ばしたい方の太ももを後ろに曲げて伸ばす。太ももの後ろを伸ばしたい場合は、片脚を前に出し、反対の脚は前の脚の下に折り曲げるようにして上体を前傾させ伸ばす。無理のないポーズで、その部位のみ、伸ばしていきましょう。

絶対にやってはいけないストレッチ③膝編


NG:正座の状態から体を後ろに倒すストレッチ

このストレッチもよくいろんなところで見かけますがNGの典型例。ヒザの半月板を損傷するリスクに加え、腰を痛める可能性もあります。子どもから大人まで、絶対にやってはいけないストレッチのひとつです。太ももを伸ばしたいのであれば、上で紹介した「股関節を広げすぎずにストレッチ」で十分です。ちなみに下の写真のように、片脚だけでやるのも控えましょう!

絶対にやってはいけないストレッチ④アキレス腱編


NG:かかとを上下させるアキレス腱ストレッチ

アキレス腱を伸ばす際、かかとを上下に動かす方が、非常に多くいますが、運動不足だと、アキレス腱を痛めてしまうリスクが高まります。ストレッチにおいて反動をつける動きは筋肉への負荷がかかりすぎるので良くありません。

 OKなのはアキレス腱をゆっくり伸ばすストレッチ

アキレス腱を伸ばす際には、上体を前に倒して、「いたキモチイイ」ポイントで20~30秒止めてください。

ほかにも注意したいストレッチのあれこれ


ストレッチは朝よりお風呂上がりがベター

寝起きにストレッチを行う方がいますが、ストレッチは筋肉が温まっているときがベスト。運動後やお風呂上がりなどが最適なタイミングです。そのため、筋トレも一緒にやっている人は「筋トレ→ストレッチ」のほうが正しい順番です。

「肩甲骨はがし」は無理にしないほうがいい

こちらも180度開脚と同じく体に良いと誤解しがちな認識です。「肩甲骨はがし」とは、こり固まり埋もれてしまっている肩甲骨まわりの筋肉をほぐし、肩甲骨の動きを良くさせるストレッチ。腕を後ろに曲げるなどして自力でもできますが、エステサロンなどでは下の写真のように、その名の通り、肩甲骨の内側を体からはがすように指を入れ込み、肩甲骨を浮き上がらせます。

 しかし、「肩甲骨は、はがせれば、はがせるほどいい」というのは間違いです。「はがれすぎる」のであれば、筋肉に何らかの異常が生じている可能性もあります。

ひとつの運動は「だいたい20~30秒、2~3セット」が基本

 

筋肉の柔軟性というのは個人差が非常に大きいので、一概に決めることはできませんが、ストレッチをする際には、ひとつの部位に対して「だいたい20~30秒、2~3セット」を目安にしましょう。トレーナーの間で、平均的に効果が出やすいと言われている秒数とセット数です。効果だけではなく、一般人が負担なくできる範囲だから、という理由もありますね。 

ストレッチを行う場所が固いか柔らかいかは関係ない

「床でやったほうがいい」とか「柔らかい布団の上がいい」など、いろいろな情報が、錯綜していますが、そこまで意識する必要はありません。 

柔軟性のある筋肉は、人生を長く楽しむために大切なポイント。でも、世の中にはさまざまな情報があふれていて、間違ったストレッチも多いです。これまでやっていたストレッチをもう一度見直して、今からでも正しいストレッチを実践しましょう!