ストーリーその他のスポーツ

新型コロナで奪われる青春 大学スポーツの現場で何が起きているのか

2021-05-31 午後 08:20

夏場、アメリカンフットボールの防具は日光にあたるとやけどするほど熱くなる。特にヘルメットの中は蒸し風呂状態、汗水を垂らしながら練習に食らいつく。

 

それでも試合では否応なく気持ちが高まる。タックルで相手を倒したときの爽快感は例えようがない。勝っても負けても試合後に語り合う仲間との時間は、何よりも大切なものだったと感じる。

 

大学時代の今野記者(前列右から3人目)

 

いまでも時折、あの頃に戻りたくなる。同じような思いを持つ人も多いのではないだろうか。

 

しかし、今、新型コロナによってその青春の機会が奪われている。大学スポーツの現場で何が起きているのか知ってほしい。

取材先からの1通のメール

ことし1月、大学アメリカンフットボールの強豪・立命館大出身の取材先からあるメールが届いた。

 

「各大学のアメフト部がコロナでまともな勧誘が出来ず、かなり困っている。大学スポーツがピンチという切り口で取り上げられないか」

 

私にとってアメフトの取材は何よりも大事なもの。理由は単純。大学で縁もゆかりもないアメフト同好会に入り、4年間を過ごしたからだ。

 

“先輩が食事をおごってくれるよ!”その甘いひと言にだまされ入部したものの、過ごした時間は濃密であり、今となってはつらい思い出も楽しい思い出もすべてがかけがえのないもの。

 

スポーツ担当の記者となって以来、マイナー競技と呼ばれるアメフトにいつか光があたってほしいと思い、機会を見つけては取材を続けてきた。

部員が激減 原因は新型コロナウイルス

 

その愛するアメフトがピンチ…。詳しく聞いたところ、各地の大学で部員数が激減しているという。コロナで大幅に活動が制限されたため、新入生の勧誘が満足にできなかったらしい。

 

インターネットで各大学のホームページを見てみると、確かに1年生のメンバーが少ない。特にリーグの2部や3部のチームが。

 

1月下旬、実際にいくつかの大学チームに連絡を取って勧誘担当者に話を聞いた。

 

一橋大アメフト部の直江さん

 

「いまが一番大きな転換点、本当に廃部の危機にあるのかな」

 

そう語ったのは関東リーグ2部の一橋大アメフト部の4年生、直江綾太郎さん。一橋大は創部50年以上の伝統校で多い年は新入部員およそ30人が入部するが、去年はわずか6人にとどまった。勧誘時期に緊急事態宣言が重なり、満足な活動ができなかったのだ。

 

 

部員数は41人と最盛期の半分近くにまで落ち込んだ。半数が4年生であるため、ことし新入部員を確保しないと来年以降、試合ができるかどうかぎりぎりの状態になる。

 

アメフトには多くの選手が必要とされる。攻撃や守備、キックなど役割ごとに選手のポジションは細分化され、接触プレーで体力の消耗が激しいため、頻繁に選手交代が行われる。

 

さらにチーム運営や分析担当、選手のコンディションを管理するトレーナーも必要だ。総合力が問われる競技であって、人数の多さはチーム力に直結する。

オンラインでの勧誘の難しさ

 

勧誘の難しさは去年から続くオンライン対応にあるという。

 

「オンラインでは新入生の心のうちが読めない」

「部の雰囲気を伝えきれない」

「オンラインイベントを開いてもなかなか人が集まらない」

 

キャンパスを歩く新入生を食事に誘っていつの間にか仲間にするという、アメフト部得意の手法が使えなくなったのだ。

 

 

それでも一橋大は去年の轍を踏まぬよう、ことしの新勧に向けて対策を講じた。オンラインの模擬説明会を繰り返し行うことで部員の対話力を上げようと試みた。

 

 

少人数での説明会を増やして、部員の人となりを知ってもらおうと趣味や経験してきたスポーツなどを紹介するシートも作った。

 

しかし現実は厳しい。

 

3月下旬に行った新入生へのオンライン説明会。準備万端で臨んだが、予定された時間帯に新入生は1人も現れなかった。

 

 

「もどかしさというか無力感がすごいあります」

 

「来ないんかい!」

 

頭を抱える直江さんの声が寂しく部屋に響いた。

6割超の団体で選手減

こうした状況はアメフトに限られるのか。私は大学スポーツ全体を対象に取材を広げることにした。思いついたのは大学スポーツ団体の多くが加盟するUNIVAS=大学スポーツ協会を頼ることだ。

 

担当者にアポをとって取材の趣旨を話したところ、「そういえばアーチェリーの団体から新入生が獲得できずに困っているという話があった」

 

「やはり」

 

UNIVASに加盟32団体の選手やスタッフの数の推移を調べてもらうよう依頼したところ、快く引き受けてくれた。

 

 

4月、調査結果が出た。2019年度から昨年度(2020年度)にかけて加盟「32」団体中「21」団体で選手やスタッフの数が減っていた。

 

▽減少の割合が最も大きかったのは射撃で5割近く。

▽次いでホッケーが3割あまり。

▽ハンドボールとアメリカンフットボールで2割あまりとなった。

▽加盟団体の中で登録者が最も多かった野球でも6%減少していた。

 

さらに新入部員に絞った数の推移を独自に調査したアーチェリーではおよそ8割、アメリカンフットボールではおよそ5割と、ともに前の年度から激減したことも明らかになった。

動き出したアメフト界

「大学スポーツの苦境は競技自体の衰退危機でもある」

 

そう考えて動き出したのがアメフト界のOBたちだ。

 

田中 慎太郎 さん

 

都内のイベント会社に勤務する田中慎太郎さん(35)。田中さん自身、関西の大学でアメフトに出会ってのめり込み、今でも社会人のXリーグで現役を続けている。

 

 

「社会人になっていつまで部活のことひきずってんねんとよく言われたりするけど(笑)本当におもしろいスポーツです。1人でも多くの人に出会いを与えたい」

アメフト題材のドラマ!?

 

田中さんが考えたのがアメフトを題材にした短編ドラマの制作。高校時代は野球部の学生が大学でアメフトと出会って成長していく過程を描く。未経験者にアピールする狙いだ。

 

Xリーグと連携し制作費をクラウドファンディングで募ったところ、388人が協力して目標を上回る684万円が集まった。ちなみに私も寄付した。

 

タレントでアメフト選手のコージ・トクダさん

 

撮影にはアメフト界の著名人も参加した。主人公のコーチ役で出演したのは、タレントでアメフト選手のコージ・トクダさんだ。

 

関西学院大 前監督 鳥内 秀晃 さん

 

大御所も登場した。関西学院大の前監督の鳥内秀晃さん(62)は大学の理事長役。甲子園ボウルを12回制した名将も惜しみなく力を貸した。

 

「現役の学生自体がなかなか登校できていない。すばらしい企画と思って協力しました」

 

 

主人公にアメフトの魅力を伝えるシーンでは、長いセリフを言い切って見事な俳優デビューを果たした。

 

「棒読みやったなぁ~、あれはあかんかったわ」と鳥内さん。恥ずかしそうに話すも味のある演技でアピールした。

勧誘活動にも活用される

4月下旬に完成したドラマ「KICKOFF~青春の晴れ舞台~」はXリーグのYouTubeチャンネルで公開され、各地の大学アメフト部などがSNS上で反応した。なかには実際の勧誘に活用されたという報告も寄せられた。

 

 

「これが正解かどうかは正直分からないですけど、1人でも多くの新入生にアメリカンフットボールというスポーツが伝わってくれればいい。フットボール界にとって前進するきっかけになれば」

 

今後、田中さんは未経験者をアメフトに導くためのセレクションを開催するなど、第二弾の取り組みを考えている。

 

勧誘に苦しんでいた一橋大は5月に入ってから徐々に成果が出始めて新入部員が17人まで増えた。ことしは年間を通して勧誘活動をするという。

学生に、挑戦の機会を

新型コロナの猛威はいまだ止まらない。来年、再来年と続くようであれば、大学スポーツの裾野が小さくなるかもしれない。また学生は新たな挑戦の機会が奪われるかもしれない。

 

それでもアメフトのように前を向いて動き出した競技もある。私も大学スポーツに恩を感じている1人として、なんとかしたいという思いを抱きながら取材を続けていきたい。

この記事を書いた人

画像alt入ります

今野 朋寿 記者

平成23年 NHK入局
岡山局、大阪局を経てスポーツニュース部でフィギュアスケートやゴルフを担当。一児の父として、子育てにも奮闘中

関連キーワード

関連トピックス

最新トピックス

RANKING人気のトピックス

アクセス数の多いコンテンツをランキング形式でお届け!