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特集 照ノ富士と貴景勝 新たな時代を 大相撲夏場所

相撲 2021年5月24日(月) 午前8:45

「この2人が今、引っ張っている感じがする。お客さんが喜んでくれるのが1番だ。2人ともよくやりました」

 

 

千秋楽の打ち出し後、日本相撲協会の八角理事長が残した、この言葉に夏場所すべてが集約されている。

 

 

照ノ富士と貴景勝、夏場所は12勝3敗で並んだ大関どうしの優勝決定戦にもつれ込み、最後は復帰1場所目の照ノ富士が2場所連続4回目の優勝を果たした。

 

序盤から土俵上の話題の中心は、今場所大関に復帰した照ノ富士だった。

 

 

ひざの大けがから復帰を目指す過程で身につけてきた前に出ながら自分の形を作る相撲は安定感抜群。中盤までは負ける姿を想像できないほどだった。

 

 

一方の貴景勝。2日目に初黒星を喫し、13日目には平幕・遠藤に敗れて3敗に後退。照ノ富士との星の差は2つに開いた。しかし、ここから優勝争いは思わぬ展開となっていった。14日目、遠藤が行司軍配差し違えで照ノ富士に土をつける。

 

千秋楽、結びの一番は、星の差1つで追う貴景勝と、照ノ富士の大関どうしの対戦。

 

実は、この2人が千秋楽まで優勝を争うのは、この1年で何度もあった。去年11月場所は優勝決定戦で貴景勝、先場所は「本割」で照ノ富士が勝って優勝した。

 

3度目となった今場所。本割では貴景勝が持ち味の低く当たってからの突き落としで意地を見せ、ついに照ノ富士に12勝3敗で並んだ。

 

 

2人による優勝決定戦は、去年11月以来(当時、照ノ富士は小結)。決着のつく一番に臨む気持ちを問われた照ノ富士は、こう述べた。

 

 

「いつも通り、やってきたものを信じて土俵に上がった」

 

決定戦では、立ち合いで当たり合った2人が互いの出方を見ながら突き押しの応酬。今度は照ノ富士が勝った。

 

 

横綱不在の場所は、千秋楽の最後の最後に今場所一番と言える沸きようだった。大関としての優勝に師匠でもある伊勢ヶ濱審判部長は、来場所が「綱とり」になると名言。

 

 

照ノ富士は優勝インタビューで横綱への思いを口にした。

 

 

「なりたいから、なれることでもないし、だからこそ経験したい。今まで通りやってもだめ。これまで以上に努力していきたい」

 

「今は過渡期」こう八角理事長が、口にするようになったのは、横綱の休場が目立ち始めた頃だ。もう2年になろうとしている。そろそろ次の主役の誕生を期待するファンが多くいるのも現状だ。

 

照ノ富士が横綱昇進に挑む次の名古屋場所。久しぶりの地方場所での盛り上がりには、今の大相撲を引っ張る2人の争いが欠かせないだろう。

 

照ノ富士と貴景勝は、ともに「自分自身との戦い」を信条とし、ライバル心を口にすることがほとんどない。

 

ただ、この2人が土俵の上でだけ、闘志むき出しで戦う姿は角界の新時代の到来を予感させる。

この記事を書いた人

鎌田 崇央 記者

鎌田 崇央 記者

平成14年NHK入局

さいたま局を経て、スポーツ部に。プロ野球、水泳などを担当し、格闘技担当は通算5年目

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