特集 大関 貴景勝 逆転優勝へ ただ淡々と 大相撲夏場所

一度逃したはずのチャンスが再び巡ってきた。
14日目、結び前の一番。大関・貴景勝の目の前で、単独トップを走っていた照ノ富士が行司軍配差し違えで平幕の遠藤に敗れた。
鳴りやまない拍手、会場の異様な熱気の中、貴景勝の表情は険しさを増していく。
冷静でいたのか、高まる重圧を感じていたのか、それは推し量れない。
ただ、熱戦の余韻の中で行われた結びの一番は、貴景勝が正代をいなして突き落とし、意外なほどあっさりと終わった。
貴景勝は、いつもどおり淡々と答えた。
「普通に、きょうの一番、勝ちたい。それだけです」
(Q:照ノ富士の取組は気にならなかったか?)
「まあそうですね」
今場所、土俵の主役であり続けた照ノ富士と対照的に、貴景勝は今ひとつだった。
2日目には難敵・御嶽海を相手に早くも敗れ、9日目には、大栄翔に2敗目を喫する。13日目、遠藤に敗れて、照ノ富士に星の差2つとなったときには、もはや優勝の可能性は、ほぼついえたかに思えた。
「自分に原因があるんで、しっかり考えて、また、あしたやっていきたい」
ふだんから決して言い訳をしない大関は、負けたことを悔やむわけでもなく、照ノ富士と差がついたことに焦るわけでもなかった。
本調子でないならば、その原因を考え、ただ自分の相撲に集中する、それだけを貫いてきた。その姿勢が、今、逆転優勝の可能性をつなぎ止めている。
「一生懸命やるしかない。しっかり準備だけして、あとは結果はなるようにしかならない」
もちろん、現時点でリードしている照ノ富士が有利なことには変わりはない。
しかし、貴景勝という力士にとって、そんな有利・不利は、きっと関係ない。
勝つために今、できることをするだけだろう。24歳の大関は、いつもどおり淡々と主役の座を奪い取る準備をしている。
この記事を書いた人

清水 瑶平 記者
平成20年 NHK入局。熊本局、社会部などを経て、平成28年からスポーツニュース部で格闘技を担当。学生時代はボクシングに打ち込む。