特集 北勝富士 “心の成長”を見せられるか 大相撲夏場所

北勝富士は本当に不思議な力士だ。
リズムを崩して、連敗を続けることもあるし、一度立ち直れば、人が変わったような強さを発揮する。
今場所もそうだ。11日目の相手は小結・御嶽海。
北勝富士と同学年で学生時代から対戦を重ね、「星は関係なく気合いが入る」と意識しているライバルだ。
立ち合いから攻め込まれたものの、土俵際、ぎりぎりで残って回り込み、相手が巻き替えに来た隙を逃さず、おっつけながら前に出て寄り切った。
今場所、初日から6連敗を喫したとは思えない動きの良さに、本人も手応えを口にした。
前半、元気がなかったけど、後半は、しっかり持ち前の相撲を取れている感じがします。
そもそも、北勝富士は、平幕にいるべき力士ではないだろう。
当たりの強さ、突き押しの馬力、左右のおっつけの技術など、相撲ぶりは高く評価されている。
好調のときは、横綱や大関にひけをとらない力を見せ、獲得した金星は、現役で2番目に多い7個に上る。
ただ、課題は「心」の部分。今場所の前半戦も勝てないことで、より重圧を感じるという、精神面の悪循環に陥っていた。
体調は悪くないのに、どこか、かみ合わなかった。連敗したことで、気持ちが落ち込んでしまっていたし、肩に力が入ってしまっていたんですよね。
こう考え込んでしまうのは、真面目な性格の裏返し。
トンネルから抜け出したのは、7日目の関脇・髙安との一番だった。
突っ張りにおっつけながら耐え、うまくいなして送り出す、我慢の相撲で、白星をつかんだ。
気持ちが楽になった。
この日をきっかけに、見違えるような相撲に変わり、その後は、4勝1敗と完全に調子を取り戻した。
大事なのはメンタルですよね。落ち込むのではなく、気持ちの整理整頓をしなければいけない。
その“心の整理整頓”のための強い味方がいる。
ことし3月に誕生した長男だ。風呂に入れたり、おむつを変えたりと、土俵の外では、愛妻とともに、初めての育児にも取り組むようになった。
子どもに会うと、穏やかな気持ちになるし、頑張ろうっていう活力にもなる。責任感も、また増したし、頑張らないといけないな、という気持ちになる。
若いころから大関を期待されてきた北勝富士も、ことし7月で29歳。三役に復帰し、さらに上を目指すためには、重圧をはねのける心の強さが求められる。
夏場所は残り4日となり、優勝争いが最大の焦点だ。その一方で、一家の大黒柱となった北勝富士が、成長を見せられるかどうかにも、注目してほしい。
この記事を書いた人

清水 瑶平 記者
平成20年 NHK入局。熊本局、社会部などを経て、平成28年からスポーツニュース部で格闘技を担当。学生時代はボクシングに打ち込む。