特集 炎鵬は諦めない 体が動く以上は土俵に上がりたい 大相撲夏場所

「思うようにいかない中で自分に何ができるか、毎日考えながら土俵に上がっています」
その言葉どおり、9日目の土俵は考え抜いた末の立ち合いだったのだろう。
突き押しの大翔丸を相手に、まともに当たるのは分が悪いと、右に跳ぶように動いて、さっと上手をつかんだ。
相手の力を利用して投げを決めたタイミングの良さは、さすがだった。
ようやく2勝目、負け越しを前に、ギリギリで踏みとどまる白星に、ひときわ大きな拍手が送られた。
「1日1日、できる限りの力を出したいと思います」
今場所の炎鵬は、本来の動きとは、ほど遠い。
師匠の宮城野親方によると場所前の稽古で足首を痛め、関取どうしの合同稽古には参加できなかった。
状態がよくない中で臨んだ場所、2日目の宇良との取組では「きめ出し」で敗れた際に表情をゆがめながら右ひじを押さえた。
満身創いの体で右ひじにサポーターをつけて土俵に上がり続けているが、いつもの華麗な技は、なかなか見られず、すでに7敗と苦しんでいる。
それでも、泣き言を言わないのが炎鵬だ。
土俵に上がれない方がつらいですからね。土俵に上がれるということを喜びとして感じて、1日1日、力の限り、やっています。
土俵に上がれないつらさを、初めて経験した、ことしの初場所。けがによる休場は一度もなく、どんなに体が痛くても土俵に上がり続けてきたが、兄弟子の横綱・白鵬が新型コロナウイルスに感染したことで、休場せざるを得なくなったのだ。
その経験があるからこそ、強い思いがある。
体が動く以上は土俵に上がりたい。毎日応援してくれる人たちのためにも、土俵に上がって、土俵で伝わるものがあればいいのかなと思います。
万全の状態でなくても、考えて、工夫して、全力で相撲を取れば、必ず勝機は見つかるはず。
体重100キロに満たない、小さな力士が、諦めず懸命に土俵と向き合う思いは、きっとファンの心に届いている。
この記事を書いた人

清水 瑶平 記者
平成20年 NHK入局。熊本局、社会部などを経て、平成28年からスポーツニュース部で格闘技を担当。学生時代はボクシングに打ち込む。