ストーリーラグビー

ラグビーの気になる話(16)「小さな司令塔の大きな覚悟」

2019-02-01 午後 0:00

1月3日、群馬県みなかみ町。日本代表のスクラムハーフ、田中史朗選手は、雪景色のなか、滝に打たれていました。

この日は、34歳の誕生日。ラグビーワールドカップで決勝トーナメント進出を目指す日本代表では最年長となり、強い決意で大会に向かおうとしています。

嫌われ役になってでも…

 

田中選手は、試合の流れを読む戦術眼と巧みなパスさばきが持ち味です。スクラムハーフとして2大会連続でワールドカップに出場するなど、日本代表の中心選手として活躍してきました。

 

 

ただ、それ以上に魅力なのが、負けん気の強さです。身長1メートル66センチとラグビー選手としては小柄ですが、大きな相手にも果敢にタックルし、ボールを奪いに行きます。

さらに、練習や試合の中で、チームにわずかな心の隙や勝つ事への執着心が薄れていることを感じれば、躊躇なく雷を落とします。よく口にするのが「負けるくらいなら嫌われる」という言葉です。

 

 

必要だと感じたときは、仲間に対しても厳しくあたり、嫌われ役を買って出るなど、精神面でも日本代表で重要な役割を担っています。

 

五郎丸歩選手

 

前回のワールドカップで、ともに戦った五郎丸歩選手も、田中選手について「思ったことを内に秘めるのではなく、すべて外に出してくれる。組織として強くなっていくために、嫌われ役を買って出てくれたことはチームのプラスになった」と日本の躍進に大きな貢献があったと話しています。

最も大切なのは『精神力』

そんな田中選手がラガーマンの集大成として挑む今年のワールドカップ。技術や戦術に加えて、日本代表にとって最も大切なものとして考えているのは、精神力だと言います。

 

田中史朗選手

国と国が誇りをかけて戦う厳しいワールドカップの舞台で、勝つために最後に必要なのは精神力です。

試合中のしんどい場面で一人一人がどこまで諦めずに自分のプレーを続けられるか、また、精神的に負けてしまいそうな仲間をどうやって、引っ張り上げるかが鍵になると思います。

 

ワールドカップを経験しているベテランが若い選手たちに背中を見せなければならない。

滝修行は「苦しいことを経験しておけば、大会で厳しい局面が訪れた時も、周囲をリードできるのではないか」という思いで行ったものでした。

滝修行で得たもの

 

滝修行をおこなった当日、みなかみ町は気温4度。

 

 

しんしんと雪が降るなか、田中選手は寺の住職に案内をされ、山道を20分ほど歩いて滝にたどり着きました。

 

 

流れ落ちる水の轟音は耳を突き破りそうなほど。

「元々寒さには弱い」という田中選手でしたが、「行くぞ」「よーし」と、轟音に負けないくらいの大きな声をはりあげていました。

 

 

田中選手の表情は、徐々に緊張感に満ちた険しいものに変わっていました。

強い水圧がかかり、寒さも加わるなか、住職に見守られながら、10秒ほど滝の中に入る修行を2回行いました。

 

田中史朗選手

落ちてくる水は冷たくて痛かったです。ただ、日本のラグビーのためにやるしかないと考えて滝に入りました。

滝の中にいるときは、何も考えられなかったですが、自然と、日本のラグビーのためにという気持ちがわき上がってきました。すごくいい経験になったと思います。

 

滝修行を終えた田中選手は、温浴施設で体を温め、地元・太田市に戻りました。

 

 

妻の智美さんと2人の子どもの家族4人で誕生日を祝い、9月に開幕するワールドカップへの思いを新たにしていました。

 

田中史朗選手

アイルランドやスコットランドなど『ティア1』と呼ばれる伝統国との戦いでは、精神面で最後まで自分たちを信じられるかが鍵になってくる。

体が大きかったり、小さかったり、外国出身だったりと1人1人が異なる日本代表の15人が、最後まで気持ちを1つにつなげて戦うことが必要で、そのためのコミュニケーションを先頭に立って図っていきたい。

 

ベテランが滝修行でスタートさせたワールドカップイヤー。初めての決勝トーナメント進出を目指して、小さな司令塔が大きな覚悟で臨もうとしています。

鈴木俊太郎

スポーツ番組部ディレクター
2007年入局。札幌局を経て、12年からスポーツ番組部。ラグビーは前回のワールドカップも現地取材。

関連キーワード

関連トピックス

最新トピックス

RANKING人気のトピックス

アクセス数の多いコンテンツをランキング形式でお届け!