特集 前頭筆頭・若隆景 「もっともっと前に出たい」 大相撲夏場所

観客がいないのが、もったいないくらいのすばらしい一番だった。大関・朝乃山を相手にまったく気後れすることなく、攻めに攻めまくった。
大関得意の右四つで胸が合ったときは万事休すかと思われたが、そこからが若隆景の真骨頂。大関の強烈な寄りを土俵際で残す強じんな粘り腰。
「とにかく先にしかけよう」と頭をつけて出し投げで崩し一気に前に出る動きの良さを見せた。
夏場所3日目 若隆景が寄り倒しで朝乃山を破る
「相撲がうまいだけじゃなく力強い」
藤島親方(幕内後半の審判長)が、こう高く評価したように、2日連続での大関からの白星は、決してまぐれではないだろう。
夏場所2日目 若隆景が寄り切りで正代を破る
今場所の若隆景の強さを支えているのは「前に出る相撲」
体重130キロほどながら、自分よりおよそ40キロも重い大関陣に真っ向からぶつかって前に出ていく圧力がある。
夏場所に向け稽古する若隆景
場所前の取材で若隆景が印象的なことばを話していた。
「もっともっと前に出たい。しっかり立ち合いを意識して“前に出る”相撲をしていきたい」
合同稽古で正代に寄り切られ、悔しそうな若隆景
合同稽古で大関・正代をはじめとする関取衆と相撲を重ねる中でも、とにかく“前に出る”相撲にこだわった。
稽古に加えて体を大きくするための筋力トレーニングも重ねてきた。
もう1つ、若隆景が自信を持つのが「下からの攻め」だ。象徴的なのが、相手の肘を下から絞り上げるように跳ね上げる「おっつけ」
相撲を始めた小学1年生のころから磨いてきたこの技が、体格で勝る力士を相手に前に出ていく相撲を支えてきたのだ。
「下から攻めることができれば自分の形にできるというのは昔から思っている」
2日目、大関・正代を相手に強烈な「おっつけ」で何もさせなかった相撲に自信をのぞかせた。
「“楽しんでこい”と師匠に言われています」と話す26歳から重圧は感じられない。
4日目以降、観客が戻ってくる夏場所。“前に出る相撲”を貫く若武者が土俵の主役へ名乗りをあげた。
この記事を書いた人

清水 瑶平 記者
平成20年 NHK入局。熊本局、社会部などを経て、平成28年からスポーツニュース部で格闘技を担当。学生時代はボクシングに打ち込む。