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うつや不安障害など "メンタルの問題"を共有する選手たち

2019-03-27 午後 0:00

みなさんはスポーツ選手にどんなイメージを持っているだろう。

行動的。
生き生きとしている。
元気や勇気を届けてくれる。
感動的なプレーをみせてくれる。

 

 

そんなポジティブなイメージを持たれる方が多いのではないだろうか。しかし、彼らも1人の人間。我々と同じように様々な悩みを抱えている。競技に関わること、人間関係、将来への不安など。しかしそういった悩みや苦しみを口にする選手は多くなかった。世間が持つ自分のイメージを壊すことを恐れたり、また周囲に受け入れてもらえるかどうかの不安などもあったのではないだろうか。

だがその流れも少しずつ変わってきている。オリンピックのメダリスト、メジャーリーグ、サッカー、バスケット、ゴルフなどトップ選手たちが自らが抱える問題を公表し始めている。

アルコール依存症 うつを克服した水の怪物

ニューヨークの地下鉄の車内広告でここ最近、頻繁にマイケル・フェルプスを見かける。

「Ready for therapy? (セラピーを受けてみませんか?)」。

オンラインセラピーを勧める広告だ。

 

 

五輪で23個の金メダルを獲得した、競泳の王者フェルプスもうつや不安障害を経験し、それを克服したことを発表している1人だ。北京五輪で前人未到の五輪史上8冠を達成。

「もう目標を達成したから、ほかのことに挑戦したい。自分探しをしたいんだ」とキャリア頂点で引退を発表。だがその後、燃え尽き症候群に悩まされた。

 

ロンドン五輪

 

再び水に戻り、ロンドン五輪では7種目に出場し、金4個、銀2個を獲得。素晴らしい結果だが、フェルプスは「どうして自分はもっと努力をしなかったんだろう」と後悔の念、自身への失望が大きく、五輪後に深刻なうつ状態に陥った。

 

 

アルコール依存症になり、ついに飲酒運転で逮捕された際には自殺も考えた。しかし自らの心の問題、弱さを受け入れ、セラピーを受けたフェルプス。

大きな目標を達成した後に自らを導いてくれたり、アドバイスしてくれたりする人の存在がなかったこと、それを父親に求めていたこと、フェルプスの名声やお金目当てで近寄ってくる人たちの存在。セラピストに話すことで、自分の悩みがクリアになった。両親の離婚により、幼い頃に別れた父親との確執なども、自身の精神をむしばんでいる理由と知り、父親とも再会を果たした。

家族、恋人、友人関係など、これまで苦しんでいた関係性を清算、もしくは和解することでフェルプスは大きな一歩を踏み出し、リオデジャネイロオリンピックでは最高の精神状態で臨んだ。産まれたばかりの息子の前で5個の金メダルを獲得。表彰式でフェルプスの目に涙が浮かんでいた。全てを出し切った、満足と充実感による涙だった。

"環境の変化"や"プレッシャー"で 不安障害になった陸上選手

 

「スポーツ選手が鬱や不安障害について話すのはすごく勇気がいる。だって私たちはいつも明るくハツラツとしたイメージを保たなきゃいけないから」。

そう語るのはリオデジャネイロオリンピック金メダリスト、米国のイングリッシュ・ガードナー。彼女は2013年前後からうつや不安障害を経験。当初は周囲に相談することもできず、1人で苦しんだ。

「大学を卒業してプロになって、オレゴンからロスに引っ越したけれど、友達も家族もいなくて孤独だった。一緒に練習するチームメートはライバルでもあるから、悩みを相談できるような間柄じゃなかったし」。

 

世界陸上 モスクワ大会 女子100m 決勝 ガードナー選手(右端)

 

プロアスリートとして結果を出さなければならない。その覚悟でつらい練習、そして孤独に耐え、モスクワ世界陸上の代表権を獲得した。しかしメダルを狙っていた100mでは3位に0秒03で4位に終わる。3番に入ったのはチームメートだった。

気持ちを切り替えて臨んだ400mリレー。アンカーを任されたガードナーは緊張のあまり予定よりも早く飛び出してしまい、振り返ってバトンを受け取る痛恨のミスを犯し、米国チームは2位に甘んじた。

「自分のせいでチームが金メダルを逃した。みんなに申し訳なくてたまらなかった」。

悔しさ、後悔の念、また自分のキャリアへの不安が押し寄せた。しかし誰にも相談できなかった。

「世界陸上や五輪が近づくと、『代表になれなかったらどうしよう』、『結果を残さなきゃ』と不安でたまらなかった」。限界だった。「もう耐えられなかった。泣きながら両親に電話ですべてを打ち明けたらすぐに母がロスまで来てくれた。泣きじゃくる私を母は優しくハグしてくれた。自分は一人じゃないと感じられた」。

リオ五輪で金も... 翌年 ケガで契約打ち切りに

心の安定を取り戻し、リオデジャネイロオリンピックの代表切符を勝ち取ったが、100mは7位。またもメダルには届かなかった。だが400mリレーではアクシデントを乗り越えて金メダルを獲得。競技生活は波に乗ったかのように見えた。

 

リオ五輪 陸上 女子400mリレー 決勝 ガードナー選手(左から2番目)

 

しかし、「個人でもメダルが取りたい」とリベンジを狙った2017年。ロンドン世界陸上直前、リレーのレース中に大ケガを負い、世界陸上は欠場。その影響でスポンサーから契約を打ち切られた。

「世界陸上で結果を出して、契約延長してもらおうと思っていたんだけど。悔しくて情けなくてたまらなかった。プロ選手として、最悪の状況をすべて経験したと思う。個人種目でメダルなし。バトンミス。ケガで2回も手術。おまけにスポンサー契約も切られたし。でも、ここまで来たらはい上がるしかないと思っている。今は家族のそばで充実した生活、練習ができているから、それを結果に結びつけたい」と話す。

不安になったり、落ち込むこともある。望んでいる結果を出していない焦燥感、リベンジしたい気持ちが抑えられないこともある。

 

 

「私が話したことで、同じ症状や悩みを持つ人たちの助けになればいいと思う。(自分が)うつや不安障害を克服したかと聞かれたら、『No』だと思う。競技で抱えた悔しさや失望、焦りは、競技でしか返せないと思っているから。だから頑張るしかない」とガードナー。

フェルプスやガードナーだけではない。心の悩み、不安、孤独を感じている選手は少なくない。心身ともに自分に向き合い、必死に戦い、最高のパフォーマンスをみせる。だから、スポーツは我々をドキドキさせるのだと思う。

及川 彩子

スポーツライターとしてNY在住10年。陸上、サッカー、ゴルフなどをメインに、オリンピック・パラリンピックスポーツを幅広く取材。

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