ストーリーパラスポーツ

障害の枠を越えて戦う選手たち~東京パラリンピックを目指すアメリカ選手たち~

2019-05-31 午後 0:00

障害の枠を越えて戦う選手たち~東京パラリンピックを目指すアメリカ選手たち~

健常者に交じって活躍する義足選手

 

アメリカの大学の陸上レースで、1人の選手に目を奪われた。男子1600mリレーに健常者に交じって出場していた両足義足の男子選手。スポーツ強豪校のアーカンソー大学のユニフオームに身を包んだその選手は、バトンを受け取ると猛然と前の選手を追いかけ始めた。

 

ハンター・ウッドホール選手

 

 

ハンター・ウッドホール。ユタ州出身で、現在アーカンソー大学2年生の20歳。同大学から奨学金を受ける、学生アスリート(英語ではStudent-Athleteと表現する)。

アメリカではこれまで、パラリンピック・アスリートはパラリンピック・スポーツに力を入れる大学へ進学するケースがほとんどだった。しかし、ウッドホール選手はパラリンピック・アスリートとしてはもちろん、陸上選手として評価され、義足の選手としてNCAA(全米体育協会)で史上初めて健常者と同じ奨学金をもらってアーカンソー大学に進学した。

 

 

ウッドホールは腓骨欠損による半肢症のため、生後11か月のときから義足での生活を送っている。幼い頃は「ありとあらゆるスポーツをしたよ」と話すように、サッカー、野球、バスケット、レスリング、スキー、水上スポーツなども経験。高校時代から陸上に注力し、リオパラリンピック、ロンドンのパラ陸上世界選手権などにも出場している。

現在は400mや1600mリレーで健常者に交じって同大学の主力メンバーとして活躍。5月末に行われた全米学生選手権の地区予選では、400mで準々決勝に進出。惜しくも個人では本戦出場はならなかったが、1600mリレーでは6月の本戦出場に貢献。本戦では入賞を目指している。

 

東京2020で悲願の金メダルを

リオパラリンピック (2016年)

 

 

2016年リオパラリンピックでは200mで銀メダル、400mで銅メダルを獲得。2015年、2017年のパラ陸上世界選手権にも出場し、銀メダル3つ、銅メダル1つを取っている。

期待に胸を膨らませて入学したものの、大学最初の年は山あり谷ありだった。「ユタ州からアーカンソー大学に来た時は、家族はもちろん友人もいなくて孤独だったし、生活に慣れるのがとても大変だった」と振り返る。現在は多くのチームメートや友人に囲まれ、楽しそうに競技、そして学生生活を送っている。勉強と陸上のバランスもうまくとれるようになったことで、タイムも伸びてきた。

 

 

現在の目標は健常者と一緒に走る全米学生選手権での入賞、それに今年11月にドバイで行われるパラ陸上世界選手権での金メダル。

 

 

ハンター・ウッドホール選手

過去の世界大会ではメダルを取れたのははうれしかったけれど、力を出し切れなかった。

室内からシーズンが長くて、夏にはちょっと疲れもあったから。今年も長いシーズンになるけれど、頭をうまく使って対応していきたい。

 

そして来年の東京パラリンピックでの目標はもちろん「金メダル」。

 

ハンター・ウッドホール選手

義足選手として初めてアーカンソー大学陸上部に奨学金をもらって入ったのはすごくうれしいし、誇りに思っている。僕のような選手がもっと増えるように、僕がしっかり頑張らないといけない。

義足でも、障害があっても、スポーツ強豪校で競技ができるというメッセージを送りたい。東京パラリンピックは、そういうメッセージを送ることができるチャンスだと思っている。

 

大学では健常の選手と競い、そこでの経験をパラリンピックでどう生かしていくのか。ウッドホールにぜひ注目だ。

障害の枠を越えて戦う車いすマラソン選手

ジョシュア・ジョージ選手

 

ウッドホールと同様に、障害の枠を越えて戦うのが、車いすマラソンのジョシュア・ジョージ。

パラリンピックスポーツは、選手の障害によってクラス分けがあり、視覚や聴覚はもちろん、身体的にどのような障害があるのかを検査員が判定し、障害の程度でクラス分けを行う。競技によってルールも様々で、例えば、車いすバスケットは選手たちが障害の程度で1.0から4.5に分かれており、出場する5選手の合計得点が14.0に収めなければならない。一方、個人競技の100mなどは障害によって分かれるため、視覚障害と聴覚障害の選手は別々のレースを走る。

 

しかしクラス分けのない例外として「車いすマラソン」がある。42.195キロを走る車椅子マラソンは、障害の程度に関係ないオープンフィールド。当然、障害の程度が軽い選手に有利だ。そんな中、障害クラス『T53』とマラソン選手のなかでも最も重い障害を持ちながら、車椅子マラソンに挑戦しているのがジョージだ。彼の障害は脊髄損傷で腹筋と下部背筋の機能がない。車いすマラソンの選手の多くがT54(体幹を用いることができる)。ジョージは体幹が使えないため、車椅子を漕ぐ際に力を伝えるのが難しく、車いす同士がぶつかったり、凸凹などによる横揺れに対応できないため、この種目では圧倒的に不利だ。

でもジョージは「障害があって、その中でクラス分けがある世界で生きている自分にとって、車いすマラソンはその枠をとっぱらって挑戦できる種目」と話す。

 

"東京パラリンピックでは障害者の可能性を知ってもらいたい"

ジョージは4歳の時に窓から転落し脊髄損傷。その後、車いすでの生活になったが、バスケット、アーチェリー、卓球、水泳など多くのスポーツを経験した。

 

ジョシュア・ジョージ選手

バスケットではポイントが『1』の選手としては、よくやっていたと思う。でも僕はどんなに頑張ってもバスケットでトップ選手にはなれない。だから陸上を選んだ。

 

ロンドンマラソン (2015年)

 

 

パラリンピックスポーツに力を入れるイリノイ大学で練習を積み、20歳で出場したアテネパラリンピックは2種目で銅メダル。「絶対に金メダルを取る」と臨んだ北京パラリンピックでは100mで金メダルを獲得した。その後、本格的にマラソンに転向し、2014年には地元のシカゴマラソン、2015年にはロンドンマラソンで優勝を果たしている。

 

 

ジョシュア・ジョージ選手

クラス分けのないマラソンで勝った時のうれしさは、金メダル以上だった。

T53の僕がマラソンで勝てるのは、僕が完璧なレースをして、皆がミスをした時だけ。そのミスを見逃さず、自分の力を出し切った時は本当にとてもうれしい。

 

 

ラストスパートではT54の選手に遅れをとるジョージは、どうしたら勝てるか何度もイメージトレーニングを重ね、ロンドンやシカゴではその通りにレースを展開した。東京パラリンピックではマラソンでの出場を切望している。ライバル選手も多く、厳しい選考を勝ち抜く必要性があるが、あきらめるつもりはない。ジョージには東京で伝えたいことがある。

 

 

ジョシュア・ジョージ選手

東京では勝利よりも、パラリンピックのムーブメントを作れるような瞬間を作りたい。日本はまだまだ障害者に冷たいという印象がある。

でもスポーツを見ることで、僕たち障害者の価値、存在意義、可能性などを皆に知ってもらいたい。それが僕が走り続ける理由だから。

 

 

ウッドホールとジョージ。障害の枠を越えて、東京2020に向かって努力する2人の今後にぜひ注目していきたい。

 

 

及川 彩子

スポーツライターとしてNY在住10年。陸上、サッカー、ゴルフなどをメインに、オリンピック・パラリンピックスポーツを幅広く取材。

 

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※こちらは、2019年5月31日に公開された記事です。内容は公開時のものとなります。

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