ストーリー陸上

102歳の現役スプリンター!~ あなたは100歳になっても走れますか?~

2019-06-24 午後 0:00

広島県三次市に住む102歳の冨久正二さん。陸上競技の100歳以上104歳以下の60メートル走での日本記録保持者です。

まずは102歳が走る100m動画をご覧ください!

 

 

こんなにいきいきと走り続ける102歳の現役スプリンターに密着しました!

はるか年下の私に「暑いから倒れないでね」

冨久正二さん (102歳)

 

「暑いから倒れないようにしてくださいね」。

カメラを持って撮影していた私(小島カメラマン)に、80歳近く年上の冨久さんは優しく声をかけてくれました。5月下旬、気温が31度を超える真夏日だったこの日、私は冨久さんが週1回、競技場で行う練習を取材していました。私も学生時代に陸上競技を続け、体力には自信があったのですが、はるかに年下の私が冨久さんにかけるべき言葉を、102歳の冨久さんからかけられ、予想外の展開に驚きました。

この言葉通り、その後の取材で見えてきたのは、常に周囲の人たちを気遣う冨久さんの優しい姿でした。冨久さんの周りには、いつも人が集まり、笑顔の輪ができていました。

100歳で日本記録保持者に!

中国マスターズ陸上競技選手権大会 (2017年)

 

冨久さんは、これまで陸上競技の短距離や投てき種目で数々の記録を残しています。その中でも輝かしいのが、100歳で樹立した日本記録です。

2年前(2017年)、冨久さんは中国マスターズ陸上競技選手権大会の100歳以上104歳以下の60メートル走に出場し、16秒98の日本記録をマークしました。

 

冨久正二さん

せめて日本記録の更新ということが1つの目標になりますので、1つ達成できたなあとこの競技をやってよかったという気持ちがありました。

97歳で陸上競技に初挑戦!

100歳で日本記録保持者になった冨久さんですが、陸上競技を始めたのは97歳でした。それまでは陸上競技の経験がありませんでした。

 

貞末啓視さん

 

冨久さんの才能を見いだしたのは、地元の整体師の貞末啓視さんです。

一緒に行った鳥取への旅行中に、冨久さんが年齢を感じさせない足運びで走っているのを見て、陸上競技を勧めました。

 

貞末啓視さん

鳥取砂丘の中で走られたことがある。砂丘の中だったら転んでも大丈夫かなと思って走ってみたら、走れたって言って。

『マスターズ陸上というのをやってみませんか』と言ったら、二つ返事で『やってみましょうか』と。

 

冨久正二さん

それこそ本当に人生が全く変わるんだからね。

もうやったこともないことを高齢になってからやれるということは、自分でも不思議な思いをしたんですよ。

元気の秘訣

100歳を超えても走ることができる冨久さん、どうしていつまでも元気でいられるのでしょうか?

 

 

そのヒントは、毎日の生活に隠されています。冨久さんの1日は、午前3時45分に起き、ストレッチで体をほぐすことから始まります。午後9時に寝るまで分刻みのスケジュールで進んでいきます。

一人暮らしの冨久さんは、料理や掃除、洗濯など家事のほとんどを自分でこなします。規則正しく、自立した生活を送っていることが、冨久さんの元気の秘訣なのだと感じました。

目標はタイムよりも完走!

冨久さんの体は、1年ほど前から右に傾くようになり、以前のような速さで走ることが難しくなってきました。このため冨久さんは今、タイムではなく、100メートルの完走を目標にしています。

 

 

週1回の練習会に加え、毎日、自宅でのトレーニングもこなしています。体への負担を考慮しながら、エアロバイクなど数種類のトレーニングマシンを使い分け、筋力の維持を心がけています。

 

小島陽子カメラマン

どんなことを考えてトレーニングされているんですか?。

冨久正二さん

まあ、そうですね。無、無我の境。外の景色を見たりね。

 

冨久正二さん

目標はね、100メートルを完走する。タイムはもう第2。

とにかく102歳のじいさんが、100メートル走ると『すご~い』、それでいいんです。

冨久さんの背中を追いかけて

挑戦を続ける冨久さんの姿に影響を受け、地元の高齢者たちも練習に参加するようになりました。5年前、冨久さんと貞末さんの2人だけで始めた陸上の練習に、今では15人ほどの仲間が加わりました。

 

 

大会を2週間後に控えたこの日、冨久さんは100メートル走の練習を始めました。私はゴール付近で冨久さんの姿を撮影していました。

仲間たちに見守られながらスタートした冨久さんは、ゴール手前10メートル付近で、突然私のカメラのファインダーから姿を消しました。

 

 

一瞬の出来事に驚きレンズを向けると、地面に足をとられ、転んでいました。

 

 

近くにいた仲間がすぐにかけよります。「まだいける。まだいける」と冨久さんは立ち上がり、再びゴールをめざしました。

 

 

転んでも諦めない冨久さん。その姿は、仲間たちに元気を与えています。

 

練習仲間の女性

もうほんとにアイドルですね。もうみんなが冨久さん、冨久さんって。みんな元気をもらってる。

 

松島哲夫さん (右)

 

冨久さんに影響を受け陸上競技を再開した人もいます。86歳の松島哲夫さんです。松島さんは30代まで走り高跳びの選手として活躍していました。

その後50年あまり競技から離れていましたが、年上の冨久さんが挑戦を続ける姿を間近で見て、自分の可能性を試したいと、おととしから競技を再開しました。

 

 

そして去年、松島さんは85歳以上89歳以下の立五段跳で8メートル64の日本記録タイをマークし、この練習会から2人目の日本記録保持者が誕生したのです。

いよいよ大会当日、目標達成なるか

6月2日、広島マスターズ陸上競技選手権大会が尾道市で開かれました。最高齢選手として参加した冨久さんは、晴れ舞台で100メートル完走を目指します。

 

冨久正二さん

とにかく最後まで自分の力のあるだけを発揮してみたい。

 

 

会場中の注目を一身に集め、スタートの号砲とともに、冨久さんは走り始めました。

 

 

必死に腕を振り、一歩ずつゴールに向かう冨久さん。会場の拍手と歓声も次第に大きくなり、冨久さんを後押しします。1分08秒05。100メートルを全力で走り抜いた102歳の記録です。

冨久正二さん

倒れなかっただけでもね、よかったと思います。拍手が聞こえた。ありがたかった、ほんとね。

いつまでも走り続けたい!

レース後のインタビュー取材では、冨久さんは穏やかな表情で話してくれました。

 

冨久正二さん

ゴールインの時に、ちょっとスピードが出せたっていう満足感がありました。

年齢には関係なし。そういう気持ちで、しっかりやるべきことはしっかりやって、来年を目標にして頑張ります。

 

 

冨久さんは、ことしはこの後大会に出場する予定はなく、来年(2020)の大会に向けてトレーニングを積むということです。2020年に向け挑戦を続ける102歳のスプリンター。私もカメラマンとして冨久さんの挑戦を取材し応援していきたいと思います。

小島陽子

広島局放送部。報道カメラマン。平成30年入局。学生時代は陸上競技部で中距離選手。趣味は水彩画とジョギング。

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