特集 行司なくして大相撲は成り立たない!土俵支える裏方"行司"とは

相撲を支える裏方のなかでも土俵の裁きをはじめさまざまな分野に関わり、本場所の運営に大きな力を発揮しているのが行司です。
行司なくして大相撲は成り立たないと言っても決して過言ではないのです。
「土俵に上がったら神になれ」と教えられた
45人いる行司の頂点に立つのが、立行司の41代式守伊之助です。昭和50年夏場所の入門から44年間、裁きで心がけていることは、「初心を忘れないこと」。若いときには28代木村庄之助師匠の付け人をしていていろいろ教えを受けました。
「土俵に上がったら神になれ」、これが信念です。若い行司には、「真面目であること。分をわきまえ、技術を磨いて、自分をアピールしてほしい」と言います。
階級社会の行司は土俵に立つ服装も階級別に区別
行司は厳密な階級社会です。八段階に分かれ、力士と同じように序ノ口格、序二段格、三段目格、幕下格、十両格、幕内格、三役格となり、最高位は大関格、横綱格と呼ばず、立行司の式守伊之助、木村庄之助の二人です。
現在、木村庄之助は空位です。服装は烏帽子、直垂という室町時代の武士の装束をつけて階級別に装束も区別されます。
立行司41代式守伊之助
立行司は腰に印籠を下げて脇差を差します。脇差は差し違えたら切腹する覚悟を示すという説もあります。木村庄之助の房と装束のひもなどの色は「総紫」。式守伊之助は「紫白」。
三役格・木村玉治郎
三役格は足袋に草履を履いて土俵に立ち、腰には印籠を下げます。房と装束のひもなどの色は「朱」。
幕内格・木村寿之介
幕内格は足袋を履いて袴の裾を下ろします。房と装束のひもなどの色は「紅白」。
十両格・木村朝之助
十両格は足袋を履いて袴の裾を下ろします。房と装束のひもなどの色は「青白」。
幕下格・木村亮輔
幕下格以下は衣装が木綿で袴のすそを上げてはだしで土俵に立ちます。軍配の房と装束のひもなどの色は「黒」か「緑」です。
関取土俵入りのアナウンスは"行司の熟練の妙技"
土俵上の裁き
土俵上の裁きは行司の真価が問われる晴れ舞台となります。幕下以下の行司が裁く番数は階級が下ほど多くなります。十両格から上は2番を裁きます。
立行司の式守伊之助は最後の2番、優勝が懸かった大一番も「神になれ」の教えを守って冷静に裁きます。
横綱土俵入り
横綱土俵入りの先導は立行司の務めです。場内アナウンスとともに十両と幕内の土俵入りで関取の出身地も入れて四股名をアナウンスするのも行司の大切な仕事です。
場内アナウンスを行う
土俵入りで関取名をアナウンス
ちょうど土俵に上がるタイミングでその関取のアナウンスをするときはメモを見ることなく行うが、熟練の妙技を感じる一瞬です。
本場所の土俵の安全を祈る"土俵祭り"も立行司の仕事
土俵祭り・祝詞奏上
本場所初日の前日に、土俵を清め本場所の安全を祈願する土俵祭りが行われます。横綱、大関と三役力士に日本相撲協会の理事長や審判部長以下の審判委員らが出席します。祭主として神事を執り行うのが立行司です。
衣冠束帯姿となって祝詞を奏上し、相撲の神様を作られたばかりの真新しい土俵に迎えます。そして方屋開口【かたやかいこう】と呼ばれる儀式で本場所の土俵開きを行います。
土俵祭り・片屋開口
立行司は、土俵に開けた神様にお供えする米や勝ち栗を収める四角い穴の上で軍配を左右に振りながら口上を述べます。めったに聞けない口上の一部を紹介しましょう。
天地【あめつち】開け始まりてより、陰陽に分かれ、清く明らかなるもの、陽にして上にあり、これを勝ちと名付く。重く濁れるもの、陰にして下にあり、これを負けと名付く。
本場所の一五日間、相撲の神様は土俵上にあって勝負を見守り、千秋楽の表彰式のいちばん最後に行われる神送りの儀式で天上に帰っていきます。
すべての結果を記録!取組相手のチェックも行司の仕事
土俵の裁きと共に大切な仕事が、すべての取組結果を巻紙に記録し、翌日の取組に同じ力士との重複などの間違いがないかチェックして取組表を印刷に回す作業です。
割り場・翌日の対戦相手を記録する
作業を行う所を「割り場【わりば】」といいます。国技館では行司部屋の奥にあって、審判部や印刷所とも近い場所です。午前中の審判部での取組編成会議で決まった翌日の幕内の取組のチェックをするときは緊張感が走ります。
長い巻紙に幕内、十両以下の力士の名前が書いてあります。全力士の四股名が入ったゴム印も用意され、審判部から回された取組表に沿って力士の四股名を読み上げながら確認を行い、間違いがなければ印刷所に回されます。午前の早い時間帯には前の日の十両、幕内の取組結果をぞれぞれの力士の欄にゴム印を押して記録していきます。
巻紙の新大関貴景勝の記録
対戦で勝った力士名が下の欄、負けた力士名が上の欄にゴム印で押され、何日目かは赤い〇印に漢数字が入ったゴム印で記録されます。けがで途中休場した新大関の貴景勝は「五日目病気」と赤いゴム印が押されています。
本場所での大相撲観戦やお茶の間のテレビ観戦の際、改めて行司の裁きや土俵入りのアナウンスに注目してみると、新たな大相撲の魅力を発見できるのではないでしょうか。
この記事を書いた人

北出 幸一
相撲雑誌「NHK G-Media大相撲中継」編集長。元NHK記者。昭和の時代に横綱千代の富士、北勝海、大乃国らを取材し、NHKを定年退職後に相撲雑誌編集長となる。