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特集 友風勇太関インタビュー「一番一番かみしめて楽しんでいきたい」

相撲 2019年9月3日(火) 午前0:00

名古屋場所、横綱鶴竜に勝って初金星を挙げ11勝4敗の好成績で初の三賞、殊勲賞を受賞した友風勇太関。

序ノ口から幕内まで、13場所連続の勝ち越しという快挙を成し遂げた心情を、沢田石和樹アナウンサーが聞いた。

横綱に勝ったことより 結びで取ったことが心に残る

──名古屋場所大活躍でしたが、改めて振り返ってみてどう思っていますか。
いろいろ形になりましたが、大活躍とまで言いません。まあ形として残すことができました。

──初の結び、初の金星、そして初の三賞と初めてのことがいろいろあったと思うのです。
横綱に勝ったことよりも、結びで取ったことがいちばん心に残っています。あの大歓声と懸賞の数、雰囲気、横綱が土俵に上がってきたときのオーラが脳裏に焼き付いていますね。勝ったときとか、勝ち名乗りを受けたときの記憶はあまり残っていないんですが、取る前の記憶が残っているんです。

鶴竜関戦押したら"何かあるかも"と嘉風関にアドバイスされた

──名古屋場所は、休場していた嘉風関と電話でいろいろ相談されていましたが、鶴竜関との対戦を知ってどんな話をされましたか。
何よりめちゃくちゃ強いぞと電話で言われました。横綱の強さを体感してこいとも言われました。やれるだけやろうと思いました。せっかく対戦するのだから後悔だけはしないようにと言われました。

──嘉風関とは鶴竜関戦の具体的な作戦は話したのですか。
押し相撲は強い。四つになっても強い。体の反応がいいと言われました。超一流だ。とりあえず組んだら勝てない。押したらもしかしたら何かがあるかもしれないと言われました。それくらいで、あとはただやってこいですね。

横綱からはオーラを感じ大きく見えた

──土俵下に控えたときにはどんな感じでしたか。
会場の雰囲気が違いましたし、そこからすごいなと思いました。自分のなかでは少しうろたえていましたね。それでも鶴竜関は私の方に視線を合わせているように見えて、横綱は落ち着いていました。土俵に上がって対面したとき、横綱からはオーラを感じたというか、こんな雰囲気を出せるんだと思いました。

──仕切りを重ねていくなかで、どうやって気持ちを集中させていきましたか。
この結びの一番で取るということは爽快なことだと、そして幕内の相撲、プロに入って2年少しでいちばん楽しい仕切りをしていると感じていました。

──仕切っているうちに感じ方が変わってきたのですね。
周りの声援がすごいし、こんな体験ができることがすごく楽しいと思っていました。せっかく横綱と対戦できたのに何も得るものがなかったという後悔は、絶対しないというような腹のくくり方をしていました。

座布団が飛んできて「あ!勝ったんだ」

鶴竜に叩き込みで勝ち初金星(名古屋場所13日目)

 

──それで立ちました。当たりました。どうでしたか。
いまは勝った相撲の動画を何回も見ていて分かっていますが、あのときは頭が真っ白でした。立ち合いがものすごく強かったです。お相撲さんの立ち合いは、車が当たってきたみたいに衝撃があると言いますね。本当にそんな感じでした。起こされたのですが、とっさの反応で、はたき込むことができました。

──横綱に勝って大歓声でしたね。
横綱が下に落ちたんですが、横綱が落ちたときに私の左足も土俵を割りました。そのときは「あ!負けたな」と思いました。「とっさに引いてしまったな」と思いましたが、伊之助さんがこちらに軍配を上げてくれたので、思わずキョロキョロしてしまいました。「物言いがつくだろう」と思っていました。そうしたら見たこともない光景でした。座布団が飛んできて、当たりました。そこで「あ!勝ったんだ」と実感したのです。

知らないから負け越したときが怖い

初の三賞の殊勲賞を受賞(名古屋場所千秋楽)

 

──序ノ口から幕内まで1度も負け越さずに、13場所連続の勝ち越しです。年6場所制以降では琴欧洲、栃煌山と並んで史上2位です。これはものすごい記録です。
ちゃんとやってこられたからできたのだなと思っています。負け越しを知らないから、負け越したときが怖いですね。どういう気持ちになるかとか。でもいつもピンチになったときも負け越してもいいと、負ける覚悟をして相撲を取って、いい相撲が取れています。実力を出しきれているのかなと思っています。

前に出る相撲、泥臭い相撲がいい

──このあと、どういうところを磨いていきたいですか。
やはり相撲自体が不器用なので、華のある器用な相撲を取ろうとは思わないです。不器用ながらもいい相撲を取って、しっかり押し相撲でいきたいです。引いて崩してもいいから思いっ切りやりたいです。力を出せずに後悔した相撲もあるので、15日間力を出しきれるようにやっていきたいです。

趣味のピアノ演奏

 

──もう関取が趣味としている〝ピアノ力士〟ではないですね。
そうですね。〝ピアノ力士〟と言われるには恥ずかしいくらいピアノが下手なので(笑)、相撲だけで覚えてもらえればいちばんうれしいですね。あの相撲だったら友風というようになれば、力士冥利(みょうり)に尽きますね。

 

夏巡業の朝稽古で胸を出す(8月3日・埼玉県所沢市)

 

──「あの相撲だったら友風」という相撲はどんな相撲ですか。
やっぱり押し相撲、四つ相撲でもいいですけど、前に出る相撲、精いっぱいやっている相撲です。炎鵬関のようなことはできないので、泥臭い相撲だったらいいのかなと思います。

みなさんが楽しむ相撲で 何よりも自分が楽しみたい

ファンの求めに応じて記念撮影(8月3日・埼玉県所沢市)

 

──秋場所は初めて、上位総当たりの番付に間違いなく上がります。
勝ちたいというより楽しみたいです。上位総当たりのステージに立てたことが何よりうれしいことです。悔いなく相撲を取りたいです。こうすれば良かったというよりも、勝っても負けても思いっ切りやれたと思いたいです。秋場所はみなさんが楽しんでくれる相撲を取りながら、何よりも自分がいちばん楽しみたいです。

 

母校の日本体育大学から贈られた化粧まわしで土俵入り(8月6日・東京都立川市)

沢田石和樹アナウンサー

北海道美深町出身、東京アナウンス室所属、平成13年入局。好きな食べ物:ジンギスカン、趣味:フットサル、アイスホッケー、下の句百人一首、リフレッシュ術:温泉、モットー:前向き、自慢したいこと:わが家の犬(トイプードル)

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