ストーリー相撲

相撲茶屋のすべて

2019-09-11 午前 0:00

東京両国の国技館で大相撲を観戦するお客さんのうち、1階の升席などを利用する人の多くが相撲茶屋のお世話になっています。相撲茶屋は正式には相撲案内所と言われて国技館には20軒あります。

相撲茶屋は大相撲と共に長い歴史を歩み続け、今日の大相撲ブームを支えて大きな役割を果たしています。

ずらりと並んだ相撲茶屋、「茶屋通り」の江戸情緒

相撲茶屋の歴史は江戸時代後期から始まり、当時は桟敷方(さじきかた)と呼ばれ、相撲見物の客から飲み物や弁当の注文を受けて営業していました。

明治42(1909)年の両国国技館の開設時には、20軒が相撲協会から「相撲茶屋」の名称で認められました。昭和32(1957)年に相撲サービス会社となり、昔なじみの「屋号」が廃止されて1番から20番の「案内所」となりましたが、平成19(2007)年から番号に加えて「屋号」が復活されて、今に至っています。

 

相撲茶屋の案内板は遠藤のパネルの隣

 

さて相撲観戦の皆様、東京両国の国技館の正門から入場して、建物に向かい左手に向かうと人気力士遠藤のパネルが目につきます。その隣に相撲茶屋の案内板が立っています。パネルから顔を出して遠藤に抱っこされた気分になったら、目的の相撲茶屋を確認しましょう。

案内板には入り口の右側に1番の「高砂家(たかさごや)から10番の「三河屋(みかわや)」が並び、左側には逆並びで20番の「林家(はやしや)」から11番の「上庄(じょうしょう)」が示されています。

 

「茶屋通り」5月は藤の花の飾りつけ

 

さあ、お目当ての相撲茶屋の場所を確認して国技館の中に入りましょう。ずらりと並んだ20軒の相撲茶屋。ここは通称「茶屋通り」と呼ばれています。日本相撲協会の八角理事長(元横綱北勝海)が日ごろ口にしている「国技館に入ればそこは江戸時代」というのは、力士や行司、呼出しのことだけでなく、こうした相撲茶屋の江戸情緒も含まれていると思われます。

浅草寺の仲見世を思わせる風情がある相撲茶屋は、それぞれの「屋号」を染め抜いたのれんを下げて、相撲観戦のお客さんを待っているのです。季節に合わせた飾り物で年に3回、1月、5月、9月に国技館で本場所が開かれる45日間だけ営業しています。本場所中は、十両や幕内の取組が始まる前の午後の時間帯にお客さんが集中して忙しくなります。

親しみを込めなじみのお客さんから「お茶屋さん」とも言われていますが、20軒すべての相撲茶屋は親方や力士の子孫だったりして相撲界とさまざまな縁を持ちながら、今日の大相撲人気を支える裏方として活動しているのです。

相撲茶屋の花形、出方さん

初めてのお客さんも丁寧な案内で安心

 

相撲茶屋の店先で待機、お客さんが来るとチケットの座席を確認して一階の升席などに案内するのが出方さんです。

粋な裁着袴(たっつけばかま)姿で国技館の升席の通路をさっそうと歩く姿は、まさに歩く江戸情緒、相撲茶屋の花形です。

 

大きなおみやげ袋もすべて席まで運んでくれる

 

初めて大相撲を観戦する人には丁寧に国技館の中を説明しながら指定の席まで案内。大きな袋に入ったおみやげを運び、館内の売店まで行かなくても注文を聞きに来て、追加の飲み物を席まで持ってきてくれる頼もしい存在です。年齢はさまざまで、年3回の国技館での本場所中は相撲茶屋と契約して専属で働きますが、相撲がないときは農業や自営業などの仕事を持っている人が多いということです。

午後6時、ラッシュアワーの「茶屋通り」

相撲が終わるとお客さんが一斉に出てきて大混雑

 

中入後の取組と弓取り式が終わる午後6時を過ぎると、「茶屋通り」には一斉に帰りを急ぐお客さんが出てきて、ラッシュアワーのような感じになります。お客さんの出方を見て、てきぱきとおみやげを渡すのも出方さんの役割です。

 

 

横綱稀勢の里が引退するまでは、取組が終わるまで、誰一人お客が出てこなかったのに、今は結びの一番が終わる前に混雑を避けようとお客さんがぱらぱらと出てくるようになって様変わりしたとお茶屋の番頭さんが話していました。

 

お客さんが帰ったあと、升席の清掃

 

お客さんが帰ったあとも出方さんはゆっくりできません。升席をきれいに清掃して翌日のお客さんを迎える準備をするのも、出方さんの大切な仕事となります。

若い人に大相撲の迫力を体験してほしい

19番の「竪川(たてかわ)」の若おかみとして活躍する平松由美子さんに相撲茶屋の在り方などについて、相撲雑誌の編集長北出幸一がうかがいました。

竪川の若おかみ平松由美子さん

 

──お茶屋を経営するうえで心がけていることは何ですか?
いいときだけ来るお客さんじゃなくて、戦後困っているときとか、不祥事で技能審査場所になったときも支えてくれたお客さんをこれからも大事にしていきたいと思っています。

──お客さんにはどんなサービスを提供したいですか。
おみやげだけでなく、その席で楽しめるものを提供したいです。例えばイス席でセット販売のおみやげがあるのですが、イス席で飲んだり食べたりするのは楽なのでお客さんに提案してみたりとか、お客さんが面倒でないようにして大相撲を楽しめるようにできたらいいと思っています。

──升席の魅力はどこにあると考えていますか。
正直言って狭くて大変なんですが、雰囲気、臨場感だと思います。昔の芝居小屋とか寄席もあったのですが、今は升席で見られるのはお相撲くらいですね。それにお茶屋も相撲と京都の花街くらいしか残っていません。江戸時代から続いているような雰囲気を楽しむことを知ってほしいと思っています。

──お茶屋も江戸時代からの伝統文化を担う立場だと思いますね。
どの世界でも同じだと思いますが、伝統を大事にする部分と、今の時代に合う部分で折り合いをつけないといけないと思います。お茶屋でも昔はおみやげを風呂敷で包んでいたそうですが、今は手提げ袋に変わりました。時代に合わせながらも伝統を感じる折り合いを大切にしないといけないと思います。

──初めて升席で見る若い人に大相撲をどうアピールしますか。
何でもそうですが、ライブ、生のものとテレビで見るものは全然違います。特に相撲は雰囲気がまるで違うので、若い人に是非来ていただき、大相撲の迫力を体験していただきたいです。

──お客さんと接するときにいちばん心がけることは何ですか。
升席は狭くて身動きが取りづらいので、お客さんの荷物はなるべく預かるようにしています。お茶屋が私たちの世代になったら、もう少し変えたほうがいいことを言っていきたいです。例えばコインロッカーもないですし、フリーのWi-Fiをつけたらどうかとか提案したいです。ほかの観光地や歌舞伎の会場などで整備されているものが、まだまだ国技館にはないと思います。提案した方がいいのかなと思います。




ぜひ、平松さんの自由な発想で新しい相撲茶屋を目指していただきたいと思います。

北出幸一

相撲雑誌「NHKG-Media大相撲中継」編集長。元NHK記者。昭和の時代に横綱千代の富士、北勝海、大乃国らを取材しNHKを定年退職後に相撲雑誌の編集長となる。

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