特集 翠富士 新入幕で技能賞 “必殺技”は肩透かし!

「【肩透かし】相撲の手のひとつ。相手が出て来る所を、差し手で相手の脇の下を抱え込むようにして体を開くと同時に、他方の手を相手の肩にかけ、手前に引き倒すこと」
初場所千秋楽 翠富士が肩透かしで、翔猿を破る
広辞苑にも載っている相撲の技「肩透かし」。翠富士は新入幕の初場所、9勝のうち5勝を肩透かしで挙げて、技能賞を獲得しました。必殺技でさらに上を目指す翠富士にインタビューしました。
小兵は技能を褒められるとうれしい
―― 初場所は新入幕で技能賞、どうでしたか。
ありがとうございます。欲しいなとは思っていたんですけど、2桁勝てなかったんで厳しいかなと考えていました。うれしかったです。小さい力士というのは技能を褒められるのがいちばんうれしいので、三賞の中でいちばんうれしい賞ですね。
初場所で9勝、技能賞を獲得した翠富士(代表撮影)
―― 翠富士関と言うと、肩透かしとなりますが、肩透かしという技はいつごろからやってるんですか。
小学4年生ぐらいからやり始めたんです。
―― きっかけは何ですか。
地元の相撲道場で、先生が最初に教えるのが、肩透かしと出し投げだったんです。私ともう一人習っていた仲間がいて、やってみたら、そいつは出し投げが得意で、私は肩透かしが得意になって、お互いにやっていったんです。
―― 肩透かしが得意になる分岐点がそこだったんですね。
そうですね。出し投げの方は今でもあんまりうまくなくて(笑)。
―― 小学4年生から肩透かしを始めて、ずっと得意技だったのですか。
そうですね。結構肩透かしで勝った相撲が多かったですね。
―― 関取は、左でも右でも肩透かしが両方打てますね。これも昔からですか。
道場では、技の名前をバーっと書き出して張り出し、それぞれに右左と書いてあって、全部一通りやらされたんです。両方やっていたので、最初からできたんじゃないですかね。
初場所12日目 翠富士が肩透かしで碧山を破る
―― なぜあんなに決まるのですか。
自分でも分からないんですけれど、決まってくれてありがたいですね(笑)。部屋の稽古場では全くやりません。押す稽古をずっとやっていますので、肩透かしは本場所だけです。多少の修正はあっても、基本の形は小学生のときにできていたのかなと思います。
―― 肩透かしが、ここ数場所、急に決まるようになったのはなぜでしょうか。
多少自分に力がついたことがあるかなと思いますね。体重も増えていますね。
「横にジャンプして巻き込む」のが翠富士の肩透かし
―― 例えば右を差して肩透かしを引く場合は、左手は肩を添えるというか、引っ張る感じですか。普通は頭を押さえたり首を押さえたりするのですが。
私は、右が入ったらとりあえず、思いっ切りジャンプして、勢いで引っ張り込んで下にたたきつける感じですね。横に思いっ切りジャンプしているんです。
―― 右がのぞいた(=右腕が入った)場合、ジャンプはどっち方向になるのですか。
右がのぞいたら、右にジャンプして、上に上がって落ちてくるときに、相手を巻き込んでいきます。
―― ジャンプの反動というか、ジャンプの力も借りて。
横に振って、引き込んでいますね。
年内三役昇進を目指して頑張りたい
伊勢ケ濱部屋の稽古でトレーニングする翠富士(写真手前)
―― 改めて聞きますと、関取は押し相撲なのですか。
押し相撲ではないですが、押し相撲になりたいという願望があるんですね。もともとは右下手に自信があったんですが、プロに入ってへし折られました(笑)。押してからの流れという相撲になっていますね。
―― 今後はどういう相撲を取っていきたいですか。
立ち合いに当たって一気に持っていければいちばんだと思うんですが、ここからどう成長していくか。とりあえず体を作って今の相撲でいくことでいいかなと思うんです。
―― なるほど。ところで人によっては関取を「肩透かし王子」という人もいるんですが。
なんか語呂が悪いですね。
―― 肩透かしキングの方がいいですかね。
王子よりはちょっといいかな。
―― 春場所は東前頭10枚目となりました。これからどんなところを目標にしていきますか。
目標としては年内三役です。頑張りたいなと思います。
元関脇 安美錦の安治川親方の見方は「押す力がついて肩透かしも決まるようになった」
翠富士の肩透かしについて、伊勢ケ濱部屋で指導している安治川親方は次のように話しています。
安治川親方(元関脇 安美錦)
なかなかの武器だなと見ています。ぐっと押し込める状態が作れるようになったので、攻めながらの肩透かしが打てるようになってきました。立ち合いに当たった瞬間でも肩透かしが打てるのが翠富士の特徴で、反応が人よりいいのかなと思います。私はわざと翠富士の肩透かしを “必殺技” と言っているんです。わざと言うとイメージができて相手が警戒してくれる。相手が警戒したら前に出ていけばいい。そこで押し切れなくてもまた肩透かしにいけばいいわけです。これからは肩透かしどうこうよりも、もっと押していける体を作ることです。それができてくれば自然に肩透かしも決まり、そのうち中に入って前まわしを取ることなども教える。さらに幅が広がっていくと思います。
この記事を書いた人

古橋 明尊
元NHK記者。大阪放送局スポーツ専任部長、報道局スポーツニュース部長等を務める。現在は相撲専門雑誌「NHK G-Media大相撲中継」の編集担当。曙、若貴の横綱時代に大相撲取材。