ストーリー相撲

荒磯親方 "一人一人に合った指導を 現代力士を勉強中"~荒磯親方&吉田アナウンサー対談~

2019-11-20 午後 0:00

元横綱稀勢の里の荒磯親方はことしの初場所4日目に現役を引退、8か月後の9月29日に国技館で「稀勢の里引退、荒磯襲名披露大相撲」を行った。新たなスタートを切った荒磯親方に、現役時代の稀勢の里を知り尽くした吉田賢アナウンサーが思いを聞いた。(10月5日 両国で対談)

昔のスタイルの断髪式で思い出を振り返った

笑顔で話す荒磯親方

 

──まげがなくなりましたが、どうでしょうか。

 

自分ではあまり分からないです。あまりつけている感覚は変わらないですが、あおむけに寝ていてちょんまげが当たらないのが、すごいなと思っています。

 

巧みに本音を引き出す吉田アナウンサー

 

──断髪式が終わりましたが、こういう引退相撲にしようと考えていたのですか。

 

そうですね。スタイル的には昔のスタイルにしましたね。いまは四方を向いたり最後にあいさつをしたりしますが、もう一度、昔やっていたようなスタイルに戻そうと思ってシンプルにしました。時間の余裕もできたので、いろんな方と顔を会わせることもできました。1人1人名前を呼ばれたときに、いろいろ思い出を振り返っていましたが、はさみを入れると時間はあっという間でした。

──あえて昔のスタイルにこだわったのはどんな思いからですか。

 

やはり横綱昇進のときの口上もそうでしたが、シンプルに、シンプルにやろうというのが自分のポリシーのようなものです。いろいろ皆さん工夫してやっていますが、ここはもう一度原点に戻ってという感じですね。私が稀勢の里らしいという風にしましたが、周りはどう思っているかは分かりませんね。

国技館の土俵入りは格別、最後の土俵入りは集大成

弟弟子の髙安を太刀持ちに従えた最後の土俵入り(9月29日)

 

──引退相撲の最後の土俵入り、いま思い出してみて改めてどうでしたか。

 

国技館での土俵入りは別格ですね。巡業先も、地方場所もいろいろな所で土俵入りをやりましたが、東京の国技館というのは違います。私も小学校4年生で国技館の土俵で初めて相撲を取りましたが、そのときのすばらしさはいまだに忘れられないです。最後の土俵入りは集大成だという思いもありました。横綱になった人しか土俵入りはできないですから。最後にもう1回やらせていただけるのは、本当に責任のあることだと思います。

断髪で声はかけられなかった、父親らしいと思った

断髪を終えた父親萩原貞彦氏(9月29日)

 

──お父さんの萩原貞彦さんがはさみを入れたときには少し涙がこぼれましたね。

 

その前からいろいろ考えていましたので、お世話になった方のことを思って危なく(泣きそう)なっていました。

──お父さんにはさみを入れてもらって、こらえられなくなったのではないですか。

 

父親には厳しく育ててもらって、やはり父親がいなかったら、この道もなかったと思います。当時は厳しくて不幸せだと思っていました(笑)。いま振り返るとありがたいことだと思います。断髪式では厳しい父親がいたから、いまがあると思いましたね。

──お父さんは何と声をかけてくれたのですか。

 

何も声はかけられなかったですね。手も置いていなかったです。父親らしいと思いましたね、最後まで。

西岩親方に強くしてもらった、感謝の思いしかない

ねぎらいの言葉をかける西岩親方(元関脇若の里)(9月29日)

 

──元日馬富士さんも含めてモンゴル出身の3人の横綱がはさみを入れましたね。

 

朝青龍さんは飛行機のトラブルで来られなかったのですが、朝青龍さんも含めてモンゴルの4人の横綱に強くしてもらったと思っています。稽古場もそうですが、本場所でも、彼らに勝つために考えて稽古をしてきました。彼ら4人の横綱がいなかったら私はここまで強くなれなかったと思います。白鵬関の連勝を止めて注目されることもなかったですしね。本当に感謝しています。

──兄弟子でもある西岩親方もハサミを入れてくれましたね。

 

西岩親方には一から十まで教えていただきました。幕下のときに初めて付け人になって、関取衆の見本だと思っています。いまは若い力士といろいろ問題もありますが、あの人はそういう人ではなくて、勝っても負けても変わらず、本当にいい人です。かっこいいなと思いながら、関取になってからの自分のルーティーンがあるのですが、西岩親方の現役のときのルーティーンをまねていることがありました。強くしてもらいましたし、感謝の思いしかないです。最後の最後ではさみを入れてもらうことをお願いしました。

先代師匠に厳しく育てられ、力士の美学を教えてもらった

指導する先代師匠の故鳴戸親方(元横綱隆の里)(平成23年9月)

 

──断髪式は先代師匠(元横綱隆の里の故鳴戸親方)の誕生日だったのですね。

 

何か縁がありますね。たまたまそうなったのですが、先代に厳しく育てられていなかったら、いまの自分はなかったと思っています。本当に相撲界のイロハをしっかりと教えていただきました。力士の美学というか、横綱の心得をほんの少し分かったような気がしていました。徹底的に指導されましたから、稀勢の里の美学は先代の美学です。一度口に出して言ったことには責任を持つという言葉の重みを教えていただきましたね。その教えで17年間やってきました。

独身を貫くのも楽しいかも、部屋を持つにはタイミングがある

力士の指導法を勉強中という荒磯親方

 

──そろそろ身を固めた方がいいと周りの人が言うと思うのですが、どうですか。

 

まあぼちぼちやりますよ。

──そのへんは、口が重かった現役時代の稀勢の里に戻りましたね(笑)。多くを語りませんね。でも考えてはいるのでしょう。いつまでとかいつごろとか。

 

そんなに考えていませんよ。独身を貫くのも楽しいかもしれませんね。1人が好きかもしれませんね。爆弾発表はないです。もう親方だからあったとしても発表はしませんよ。

──将来的に部屋を持つという思いはありますか。

 

どうでしょう。タイミングもありますから。それだけは分かりませんね。師匠に向いているか、向いていないかもありますね。

──親方の解説を聞いていても、非常に分かりやすいです。

 

マニアックなのです。現役のときは相撲のことばかり考えていましたね。いわゆるセオリーどおりということは考えていませんでした。何をしたら勝つか、そればっかり考えていました。私の相撲は左のおっつけが強いのに、左を差していくと言うのはセオリーではないです。相撲にはセオリーはないと思います。みんな性格も違うし、生きている環境も違うし、体つきも違います。それを一緒にして型にはめることは考えていないです。

楽して勝つと、余裕で相撲に幅が出る

テレビで解説する荒磯親方(夏場所2日目)

 

──親方に解説をしていただくと、話が面白いですね。基本は基本であって、その上にセオリーに納まらない、その人、その人に合った話をされます。

 

相撲界では楽して勝つというのは、悪い言葉です。でも楽して勝たないと強くなれないです。楽して勝つということは余裕が出るということです。余裕があると相撲は幅が出るのです。楽して勝とうと思うと、いちばん理想的な動きになるのです。100パーセント力を出したときにはケガは起きやすいです。自分の力以上に出たときが危ないのです。一生懸命頑張るというのは日本人が好きな言葉です。しかし言葉は悪いですが、楽して勝つことのほうが大切だと思います。

──いちばん小さい力で、最大の結果が出ればいちばんいいのですね。いまの子どもに合った指導ですね。

 

合っているかどうかは分かりません。しかしいまは、叩いてばかりの力士があまりに多いので、何かあるのかなと考えてしまいます。私は稽古をしなければ強くならない人間でしたが、彼らは稽古をしなくても強くなれるのかもしれませんね。稽古をしない方が、力が出るのかもしれません。これからいろいろ勉強しないといけないと思います。いま現代力士を勉強中です。

吉田賢(よしだまさる)アナウンサー

昭和58年NHKに入局。昭和62年の大相撲秋場所から大相撲中継を担当して、千代の富士、大乃国、北勝海、双羽黒の4横綱時代から朝青龍、白鵬まで32年間に渡って大相撲を見続けた。現在、NHKグローバルメディアサービス所属。

 

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