ストーリー野球

ノムさんの言葉は今も響く

2021-02-24 午後 07:00

元プロ野球監督の野村克也さん。去年2月に亡くなってから1年が経ちました。野村さんがのこした言葉や人生哲学に影響を受けたのは、野球選手だけではありません。

野村さんを取材した記者・ディレクターたちの、それぞれの心に残るノムさんの教え。今、耳を傾けてみませんか。

首から上が元気なら野球はできる

サンケイスポーツ運動部で部長を務めている加藤俊一郎さんのデスクには、野村さんの写真が置かれている。とはいっても、それは評論家時代に着用していた、プロ野球取材用の「取材パス」だ。

 

 

「これがないと球場に入れないので、毎回担当の記者がお預かりしていたんです。本当はもう返却しないといけないのかもしれないんですけど、(仕事を)見ててもらおうかなと思って」

 

加藤さんは記者として20年近く野村さんを取材。監督として、評論家として野球に向き合う野村さんの姿をそばで見てきた。

サンケイスポーツにはもう一つ、野村さんに関する貴重なものがのこされている。

 

「2019年10月23日、日本シリーズ第4戦のスコアブックです」

 

巨人とソフトバンクの戦いとなった、この年の日本シリーズ。ソフトバンクが日本一を決めた第4戦が、野村さんが人生最後につけた野球のスコアとなった。

1球1球、球種やコースを丁寧に記し、さらにファールの方向まで細かく記録。バッターの狙いはどこにあるのか、選手の細かい心理を見逃すまいと、最後まで野球に向き合っていた証だ。

 

 

「最後のスコアブック」を見返しながら、晩年の野村さんが語っていた言葉を、加藤さんは教えてくれた。

「口と頭があれば野球はできる」

 

 

「野村さんの最後の口癖でしたね。首から上が元気なら野球はできるんだ、監督はできるんだ。野村さんはずっとそうおっしゃっていました。その通りの野球人生だったのかもしれませんね」

 

加藤さんが野村さんの担当になったのは、記者として10年がたった時。野村さんへの取材を通して「仕事に向き合う姿勢」を教えられたと、加藤さんは振り返る。

 

 

「“自分はまだまだ野球を知らないんだ”ということを教えてくださったのも、野村さんでしたね。自分のキャリアを捨てて、知ったかぶりをしないで何でも聞いていく。わからないことがあったら、イチからぶつかっていかないといけないと思い知らされた。すごく大きな存在の方です」

人を遺す を上とする

監督として三度の日本一。ベテランの選手を何度も復活させ、「野村再生工場」と呼ばれた野村さんは、人生の目標としていた言葉があった。

「財を遺すは下、仕事を遺すは中、人を遺すは上とする」

 

明治から昭和初期にかけて活躍した政治家、後藤新平の名言。財産を築いたり、仕事で業績をあげたりすること以上に、人を育てることは難しく、それゆえ価値がある。

 

 

組織をまとめる立場になった加藤さん。人を育てていく上で、今こそ響く言葉もある。

「ペナントレースは足し算の戦いだ」

 

「どんな選手にも個性がある。その個性を武器にして、それぞれの長所を生かし、短所を補いながら、“足し算”で戦っていくと、野村さんはおっしゃっていました。それは新聞づくりの仕事でも同じだな、と今思います。取材が得意な記者もいれば、文章を書くのが得意な記者もいる。それぞれの力を合わせて、新聞の紙面を毎日作っていく。ペナントレースは足し算の戦い、という言葉がこの立場になって自分の中にストンと落ちてきました。今では、仲間や同僚、部下と接する時の指針になっています」

若いディレクターへ 夢を語る

加藤さんが持つ、「ノムさん最後のスコアブック」が書かれた同じころ、野村さんはNHKの密着取材を受けていた。その様子は「NHKスペシャル」や「目撃にっぽん」で放送。当時は妻・沙知代さんを亡くして2年がたつころ、悲しみから立ち上がろうとする野村さんの姿を記録していた。取材のVTRには、いつも飾らない姿で、独特のボヤキ口調でディレクターに語り掛ける野村さんの姿が映されている。

 

 

「こんな爺さんに何の用があるんだよ」

「年寄りじみたこと言ってすみません」

「車の中まで取材されるとは、感謝していいのか、迷惑と言っていいのか。…感謝だな」

 

当時、取材したディレクターは30代前半。球界で数々の功績を作った存在でありながら、50歳以上年の離れたディレクターに対しても、真摯に取材に応えてくれた。野村さんにその理由を聞くと、こう返ってきた。

 

 

「取材されるうちが華よ」

 

テスト生で入団しながら、たゆまぬ努力で戦後初の三冠王を獲得した野村さん。

カメラを通して、若い世代にエールを送っているようだった。

「特に若い人には、"夢を持て”、"夢を持って生きろ”、と言う。この一点だけでいいと思うんだよね。明白な夢を持った方が、毎日毎日が楽しいと思うんだけどね」

「人間とは、人の間と書く。人と人の間で生きてるんだな。ついつい忘れがちだよな。でもそこに感謝という言葉が生まれてくる」

今響く、ノムさんの言葉

サンケイスポーツの加藤さんは、取材の最後にある野村さんの写真を見せてくれた。サイン色紙を持つ野村さん。そこに書かれている、大切にしている言葉を教えてくれた。

 

「希望に起き、努力に生き、感謝に眠る」

 

「今みたいに思い通りにならない生活を強いられる状況は、時にあると思うんです。常に希望を持って朝起きて、1日頑張って、最後にありがとうと思って眠る。そういった積み重ねができれば、人生が豊かになると思うし、今は悪くても好転していくんじゃないか。そういった気持ちに人を前向きにさせてくれる言葉ですよね。私たちだけでなく、野村さん自身も支えになっていた言葉なんじゃないかなと思います」

 

 

2月14日。

野村さんが現役時代にプレーした南海ホークス。その本拠地・大阪球場の跡地に作られた商業施設で、メモリアルギャラリーがリニューアルされた。野村さんの功績をたたえる現役時代のユニフォームやバット、三冠王を獲得した年に送られた表彰の盾。そして野村さんがのこした多くの言葉。展示を見ようと多くのファンが詰めかけた。

野村克也さんが亡くなって1年。野村さんがのこした言葉の数々は、今も多くの人々の心の中に響いている。

 

 

サタデースポーツ/サンデースポーツ

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