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“有観客で” 2度の延期経て「世界パラ陸上」来年開催へ 神戸

“有観客で” 2度の延期経て「世界パラ陸上」来年開催へ 神戸

あるスポーツ大会開催までのカウントダウンボードの除幕式が、5月、行われました。
その大会は「神戸2024世界パラ陸上競技選手権大会」。
当初は東京パラリンピックの翌年の予定でしたが、2度の延期を経て、ようやく来年、2024年5月に開催されます。
2度の延期の背景には、組織委員会の“有観客での開催”への強い思いがありました。

(大阪放送局 アナウンス 後藤佑季)

東京パラリンピック “無観客開催”が遺した課題


2021年夏、コロナ禍で行われた東京パラリンピックは、新型コロナウイルスの影響で、史上初の原則無観客に。

会場周辺で準備されていたイベントを実施することもほとんどできませんでした。

パラアスリートや関係者たちは「生で選手のパフォーマンスを見てもらえば、“社会が変わる”はず」と信じていました。

しかし、直接体験してもらったり目にしてもらったりすることで期待された、パラスポーツの認知度や多様性への理解は、関係者たちが思っていたほどには進まなかったのです。



パラリンピックに4大会連続出場し、東京大会で4位に入賞した、パラ陸上の第一人者、山本篤選手は、神戸の大会への思いをこう語りました。
「東京パラリンピックは(原則)無観客という状態だったので、結構異様なスタジアムでした。大きな舞台で見てもらうことは、選手にとっても大きなモチベーションになりますし、パラリンピックの時にはなかった歓声というのを神戸では期待したいです」


神戸世界パラ陸上が目指す「有観客」


東アジアで初めて開催されるパラ陸上の世界選手権には、世界中から障害のあるパラアスリートや関係者、およそ1300人が、神戸、関西を訪れます。

開催が決まったのは2019年の春。
当初は東京パラリンピック翌年の2021年の開催で、その熱を神戸につなげる予定でした。

しかし、東京パラリンピックの延期により、2022年開催に。さらに新型コロナによって2度目の延期が決まりました。

組織委員会が3年延期しても開催にこだわった理由のひとつに、東京パラリンピックで実現しきれなかった“有観客での開催”をしたかったことがあります。



組織委員会 事務局広報 伊藤友美さん
「1アスリートとして皆さんすごくかっこいいですし、もちろんその背景には努力もされていてっていうのを見ると、応援したくなるんですよね。それを一人でも多くの方に知っていただいて、応援してほしいなと思っています」


開催まで1年 どう観客を呼び込むか


「神戸世界パラ陸上」の運営のチェックをするテスト大会として、4月29日から2日間、世界選手権と同じ会場の神戸市のユニバー記念競技場で、パラ陸上の日本選手権が開かれました。



しかし…。

本番を見据えて有観客で実施しましたが、スタンドは空席が目立ちました。



スタンドを見た伊藤さんは…
「やっぱりまだ少ないかなぁっていう状況ですよね。ここに来て初めて知ったという人が多かったので、まだ知られていないのが課題かなと思います。知るだけでなく、興味をもって大会に来てもらう必要があるかなと思っています」


子どもから広げるパラスポーツの輪


多くの人に大会を知ってもらうため、組織委員会は日本選手権で「子ども記者体験」を企画しました。



小学生にパラアスリートのプレーを間近で見てもらいます。

「すご~い!」 
「一人一人跳び方がちがうんや」
「みんな個性が出てた!」



義足のクラスの走り幅跳びの選手、兎澤朋美選手にインタビュー。

自分と同じ年齢の時に足を切断したことを聞いた、子ども記者は…。



子ども記者
「今5年生で、いまとても楽しいから、切るなんてつらかったんだろうなって思いました」
兎澤選手
「そうだよ、だから友達と遊べるのは幸せなことなんだっていうのを思ってもらえたらうれしいな」

同じく義足のクラスの走り幅跳び、前川楓選手へのインタビューでは、貴重な体験も。



前川選手
「持ってみる?足」
子ども記者
「わ、すご~い!重たい。走りにくくないんですか?」
前川選手
「でもこれは3キロくらいしかないから、たぶん自分の足より軽いよ」
子ども記者
「初めて近くで見た!」



取材を終えた子ども記者
「生で見てほしいって、伝えたい。みんなすごいんだよって伝えたいです」

取材した記事は、親子向けの子育てサイトで公開されています。

伊藤さん
「2012年のロンドンパラリンピックの時、子どもたちにまず知ってもらって、家族みんなで見に来てもらえる、家族に広がっていくというのが、成功事例としてありました。子どもたちの貴重な経験に絶対になるので、ぜひ生で見てほしいなって思います」


神戸で続々と発信!


組織委員会は、大会開催まで1年を切ったことから、PRを加速させています。



神戸市中心部の公園では5月、パラアスリートの写真展とトークセッションが開かれました。

写真家の蜷川実花さんが、選手たちを色鮮やかに表現した写真が並びました。



トークセッションでは、パラアスリート2人が、パラスポーツとの出会いのほか、トレーニングや食事はどうしているのかなど、さまざまな角度から話しました。



5月28日には、「神戸まつり」のパレードに4人のパラアスリートや障害のあるダンサーたちが参加。開催をPRしました。

組織委員会では、こうしたパラアスリートを実際に目にする機会を増やすことで、来年の大会で観客を増やすことにつなげたいとしています。



組織委員会の伊藤さんは、共生社会への一歩を踏み出すきっかけを、大会でつくっていきたいという思いをもっています。
「この大会をきっかけに、みんなが輝いて笑顔になれるようなまちになってほしいなと思っています。そのためにも、会場をお客さんでいっぱいにしたい」



組織委員会の増田明美会長は。
「触れ合うことを大事にしたいのが神戸の世界パラ(陸上)です。やっぱり、リアルな迫力が、生で見ると違うんです。“みんなちがってみんないい”ということを肌で感じて、それが市民のみなさんや子どもたちに伝わって、未来の日本を引っ張っていってもらいたいなって思うんです。まだ全国的に知られていないので、多くの人に知ってもらいたいと思います」


東京パラの、その先へ


増田会長は、インタビューで、「東京は生で見られなかった。神戸ではぜひ生で見てもらいたいです」と話しました。



私(後藤)は、生まれた時から聴覚障害があり、ふだんは人工内耳を装用して生活しています。

東京パラリンピックではリポーターを務めていました。

東京パラリンピックの開催期間は、選手はもちろん、解説者やゲストも、障害のある人たちがテレビに多く出演していました。

そうすると、周りの人や街の中での人々の反応も、いままではどこか「別の世界の人」として扱われていたのが、「同じ世界にいるんだよね」という認識に変わったように感じたのです。

これが、パラアスリートや関係者たちが言っていた「生でパフォーマンスを見てもらえば、“社会が変わる”はず」ということかと思いました。

残念ながら、東京パラリンピックは、原則無観客になったことで、その“変化”はすぐに薄れてしまったように感じます。



東京パラリンピックでできなかった有観客での開催。

神戸市をはじめとする「神戸2024世界パラ陸上競技選手権大会」の組織委員会にとって、まだ課題は残っています。

1年後の大会で多くの歓声があふれるスタンドが実現できるか、今後も取材を続けていきます。


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