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大相撲初場所 大関 貴景勝が優勝 3年前の11月場所以来3回目

相撲 2023年1月22日(日) 午後11:08

大相撲初場所は千秋楽、大関 貴景勝が結びの一番で平幕の琴勝峰に勝って、3年前の11月場所以来3回目の優勝を果たしました。


初場所の優勝争いは、14日目を終えて大関 貴景勝と平幕の琴勝峰が3敗で並び、おととし名古屋場所以来となる千秋楽の相星決戦となりました。

注目の結びの一番は、貴景勝が琴勝峰にすくい投げで勝ち、12勝3敗の成績で、3年前の11月場所以来、13場所ぶり3回目の優勝を果たしました。

番付上125年ぶりに一横綱一大関となった今場所、横綱 照ノ富士が初日からけがで休場し、貴景勝はただ一人の大関として土俵に上がり続けました。

2日目に早くも初黒星を喫しましたが、その後は気迫あふれる突き押し相撲を中心に、3日目から8連勝して優勝争いを引っ張りました。

終盤戦に入ると、11日目から2連敗して3敗となり一歩後退しましたが、13日目、単独トップに立っていた同い年の阿武咲との激しい相撲を制して、再び優勝争いのトップに並びました。

そして、横綱不在の中、最後まで優勝を争って土俵を締め、千秋楽の結びの一番で直接対決に勝って優勝を果たしました。

先場所まで3場所連続で平幕力士の優勝が続きましたが、大関が優勝するのはおととし夏場所の照ノ富士以来10場所ぶりです。


貴景勝「結婚してから初めての優勝ですごくうれしい」


3回目の優勝を果たした大関 貴景勝は、「結婚してから初めての優勝なので、すごくうれしい」と率直な心境を話しました。

3年前の11月場所以来の優勝となったことについて、「調整を失敗したりとか、星の差が1つ足りない場面が多く、悔しいことがあったので、今回の優勝で少し報われた」と話しました。

埼玉栄高校の後輩で平幕の琴勝峰との相星決戦となり、「いろんな人に支えてもらって、その後押しで土俵に上がった。気合い入れて最後の一番集中しようと思った」と話しました。

横綱 照ノ富士が休場し、出場した力士の中では番付最上位だったことを問われ、「みんなに期待してもらっていることは、ありがたいことなので、感謝して土俵に上がった。大関という地位は勝たないといけない地位なので、つらい時や頑張らないといけない時もあったが、誰でもこの地位になれるわけではないので、重圧を感謝に変えてこの2年間取り組んできた」と振り返りました。

そして、終盤戦の連敗から立て直した今場所を振り返り、「相撲は1日の勝負ではなく15日間の勝負なので、いかに気持ちを切らさず1日1日の力を出しきれるかだ。その精神が強い人が成績を残せると思うので、気持ちだけ切らさないでやった」と話していました。

そして、子どものころからの夢である横綱昇進については、「あしたから私生活や体のケアのしかた、それにもっと相撲に謙虚になって頑張っていきたい」と話していました。


11日目 けい椎痛める 母校監督「弱み見せず治療しながら土俵へ」


貴景勝と琴勝峰の母校である埼玉栄高校相撲部の山田道紀監督は22日の結びの一番を高校で見守りました。山田監督は対戦の前「こんなに幸せなことはない。どっちを応援していいか分からないが、2人とも応援してくれる人のために頑張ってほしい」とエールを送りました。

そして、貴景勝が琴勝峰に勝って優勝を決めたあとは「お互い最高の相撲を取ってくれた」と2人をたたえたうえで、貴景勝について「大関1人の中で本当に強かった。大関としての役目を果たして本当によく頑張った」とほめていました。

また、山田監督は、貴景勝が11日目の小結・琴ノ若との一番でけい椎を痛め、痛みをこらえて治療をしながら千秋楽まで土俵に上がっていたことを明かしました。

山田監督は「体がしびれて大変だったけど誰にも見せないようにしてここまでよく頑張ったと思う。毎日連絡をとっていたが、終わるまで誰にも言えないということでプロとしての意地を感じた。自分の弱みは見せない。彼はそういう大関だと思う」と話しました。

これについて、22日夜、NHKの番組に生出演した貴景勝は「相手に弱点を見せるのは相撲をやっている以上見せたくない。みんなどこかしらけがをしているので痛い格好はしたくない。今場所は気合いで乗り切ろうと思った」と話し、終盤戦は、けがと向き合いながら土俵に立ち続けていたことを明らかにしました。


母校の小学校でも卒業生や児童らが応援


貴景勝が通っていた兵庫県西宮市の小学校では、卒業生や児童などがテレビ中継を見ながら応援しました。

貴景勝が実家のある芦屋市から6年間通った西宮市の仁川学院小学校には、初場所千秋楽の23日、卒業生や児童、それに保護者などおよそ120人が講堂に集まりスクリーンで映し出されたテレビ中継で優勝がかかる一番を見守りました。

そして、貴景勝が琴勝峰との一番に勝って13場所ぶり3回目の優勝を決めると歓声と拍手が沸き起こり、くす玉を割って優勝を祝いました。

貴景勝が小学生だったときも校長を務めていた仁川学院小中高校の永尾稔校長は、「本当にうれしく、小学生時代から大きな子どもだったことを思い出します。今後も優勝して横綱に昇進するよう学校で一緒に応援しています」と話していました。

学校に通う2人の子どもと訪れた30代の母親は、「すごく感動しました。諦めずに前に進む貴景勝の姿を見て、子どもたちもどんなことにも諦めないでほしいと思いました」と話していました。


八角理事長「いちばん価値ある優勝」


日本相撲協会の八角理事長は3回目の優勝を果たした大関・貴景勝について「最高の評価でしょう。協会の看板を背負ってよくやってくれた。大関1人で相当なプレッシャーな中で優勝しているから本当にいちばん価値のある優勝だと思う」とたたえました。

また、来場所は横綱を目指す場所となるかと聞かれ「それはなんともいえない」と述べるにとどまりました。そして「千秋楽を迎えられてほっとしている。お客さんがたくさん来てくれて感謝だ」と話していました。


佐渡ヶ嶽審判長「本来の立ち合い」


佐渡ヶ嶽審判長は大関・貴景勝の22日の取組について「貴景勝本来の立ち合いのぶちかましがよかった。落ち着いていた」と評価しました。そのうえで「きわどい相撲で勝っている相撲も何番かあった。前に出る相撲で勝ち星を挙げてほしい」とさらなる奮起を促しました。

そして貴景勝の横綱昇進に向けた動きはないかと問われ「そうですね、ハイレベルな優勝ということなので」と述べて今場所後の昇進について否定しました。そのうえで来場所は横綱昇進をかけた場所になるかという問いに対しては「私たちもなんとも言えないところだ」と述べるにとどめました。

また、最後まで優勝を争った弟子の琴勝峰については「だいぶ芯がしっかりしてきたかな。体幹トレーニングを取り入れた結果が出てきた」と健闘をたたえました。


貴景勝 3回目の優勝までの歩み


3回目の優勝を果たした大関 貴景勝は兵庫県芦屋市出身の26歳。

身長1メートル75センチ、体重165キロの体から繰り出す強烈な突き押しが持ち味で、勝っても負けても表情を変えず淡々と土俵に向かう精神力が強みです。

小学生で相撲を始め、中学時代には全国大会の決勝で、今場所優勝争いをした平幕の阿武咲を破り、中学生横綱となりました。

高校は多くの関取を輩出している埼玉栄に進み、卒業後に貴乃花部屋に入門して、平成26年秋場所に初土俵を踏みました。

平成30年の秋場所後には貴乃花親方が日本相撲協会を退職して貴乃花部屋がなくなったため、千賀ノ浦部屋に移籍しました。

その直後、小結で迎えた九州場所で13勝2敗の好成績で初優勝し、ここから3場所連続で2桁勝利を挙げて、4年前の春場所後に大関に昇進しました。

しかし、新大関として大きな期待を集めた夏場所で右ひざを痛めて途中休場し、続く名古屋場所も休場して、僅か2場所で関脇に陥落しました。

続く秋場所には12勝3敗で1場所での大関復帰を決めましたが、千秋楽の優勝決定戦で左胸に大けがをしました。

さらに3年前の7月場所でも左ひざを痛めるなど、けがに苦しんだものの、その年の11月場所では、看板力士が次々休場する中、強じんな精神力でただ一人の大関として土俵を締め続け、2年ぶりの優勝を果たしました。

所属する部屋の名称が常盤山部屋に変わって迎えたおととしの初場所、「綱とり」が懸かりましたが、左足首のけがで途中休場を余儀なくされました。

その後もけがが相次ぎ、おととし7月の名古屋場所では首を痛めて途中休場。

去年の初場所も右足のじん帯を損傷して途中休場しました。

それでも貴景勝は精力的に稽古に励み、持ち味の強烈な突き押しにさらに磨きをかけて、去年の名古屋場所から3場所連続で2桁の勝ち星を挙げました。

中でも12勝を挙げた先場所は最後まで優勝争いに絡みましたが、千秋楽で3人による優勝決定戦で敗れ、優勝にあと一歩届きませんでした。

この結果を受けて日本相撲協会は場所後の横綱審議委員会で「今場所相当の成績で優勝すれば横綱昇進を諮問する可能性がある」と説明していました。


横綱不在の場所でただ一人の大関の責任果たす


「やるべきことをやる」。貴景勝は場所前、出場力士の中で番付最上位としての責任をこう表現しました。

今場所はハイレベルな成績での優勝を条件に「綱とり」の可能性も示唆されていました。

貴景勝は「横綱になりたいというのが小さいころからの夢。相撲人生の中でそう何回もチャンスがあるわけではないので、気合いで相撲を取っていく」と意欲を示しました。

その夢を実現させるために取り組んだのは、取り口の幅を広げることでした。

たび重なるけがの影響で、頭から激しく低く当たる本来の相撲は影を潜めていました。

稽古場では立ち合いの当たりを工夫しながら、持ち味の突き押しに磨きをかけました。

一気に押し込めなかった場合を想定して、二の矢、三の矢と突いて出る攻め方を研究。

四つに組んでの稽古も重ねました。

迎えた今場所。

貴景勝は看板力士としての責任を背負い、土俵に立ちました。

しかし、2日目で翔猿に敗れ、「綱とり」への挑戦は早くも暗雲が立ちこめました。

それでも、その後は8連勝。

気迫あふれる突き押しや勝負どころでのタイミングのいいいなし、さらに冷静に小手投げを決めるなど、ただ一人の大関として優勝争いを引っ張りました。

しかし終盤戦に入ると、11日目と12日目に痛い連敗。

12日目に3敗目を喫したあと、佐渡ヶ嶽審判部長は貴景勝の横綱昇進について「きのう、きょうの負け方を見ていると厳しい」という見解を示しました。

それでも「もともと気が強い力士。立て直して大関の責任を果たしてもらいたい」と奮起を促しました。

そして13日目は、単独トップに立つ阿武咲との直接対決に臨みました。

同い年で少年時代からしのぎを削ってきた相手との対戦は、立ち合い、頭で低く当たった貴景勝が左からのいなしで相手の体勢を崩し、強烈な張り手で出足を止めて、最後は体をぶつけるようにして土俵下に押し出しました。

負ければ優勝が遠のく大一番で見せた大関の意地でした。

この取組を土俵下で見ていた元大関 武双山の藤島審判副部長は「気持ちの入ったいい相撲だった。きょうの相撲を見ると期待できる」と、大関の巻き返しに期待を寄せました。

その期待どおり、目の前の一番への集中を途切れさせることなく、最後まで優勝争いに踏みとどまり3回目の賜杯を手にした貴景勝。

今場所後の横綱昇進は難しくなったものの、横綱不在の場所でただ一人の大関としての責任を果たしました。


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