【滞在記・下川町】生活の知恵 森の新聞記者と編み物の達人

地域にディープな人脈を持つ「ローカルフレンズ」のもとにディレクターが1か月滞在し地域の宝を探す「ローカルフレンズ滞在記」。

2月の舞台は、自然を全身で感じられる町、道北の下川町。
ローカルフレンズは、アロマテラピーの提供とカフェの運営を行う塚本あずささんと、サウナ事業を手がける谷山嘉奈美さん。NHK札幌局の小林美月ディレクターがお邪魔しています。

滞在も終盤にさしかかると、小林ディレクターは、地元の新聞にも取材されるほどまちに溶け込んだ存在になっていました。その記事を書いてくれたのが、名寄新聞社下川支社の記者・小峰博之
さん。実はとってもユニークな暮らしを送っているそうなんです。小峰さんの下を訪ねると、まず出迎えてくれたのは、どさんこの「ハナちゃん」。暮らしに欠かせないパートナーなんだそうです。ハナちゃんとは、言葉ではなく気持ちを通わせコミュニケーションをとっているという小峰さん。「馬は気持ちを理解して動いている。とても偉大です」と語り、ハナちゃんから日々たくさんのことを学んでいるといいます。

小峰さんの家族は、ハナちゃんと妻の小峰早智さん。驚いたことに小峰さん一家はお金をほとんど使わずに生活できているそうです。食材など生活に必要なものは、物々交換で手に入るんだとか。どんな物々交換をしているのかというと、民家の軒先の草をハナちゃんに食べてもらい、そのお礼に食材をいただくスタイル。そんな暮らしが成り立つ下川町に、他の土地にはない豊かさを感じました。

他にも小峰さんは、必要な野菜は自家菜園で育て、雪の中に埋めて保存しています。こうすると芽が出にくくなる上に甘くなるという、昔から伝わる生活の知恵。さらに庭先のたんぽぽを煎って「たんぽぽコーヒー」を楽しんだりと、小峰さんは下川町で自給自足の暮らしを満喫していました。

そしてもうひとり。地元の案内役であるローカルフレンズの紹介で訪ねたのは、伊藤律さん。先月のワールドカップ女子スキージャンプで優勝した伊藤有希選手の祖母です。律さんは大の編み物好き。靴下やお茶碗ふきを編んでは町の人に配っているんだそうです。ローカルフレンズの谷山さんと塚本さんは、そんな律さんから編み物を教わっている”生徒”。谷山さんは、まだ赤ちゃんの姪っ子のためにセーターを編みプレゼントしたそうです。律さんは「毛糸に惚れているの。息子たちの服や、家のものはこうしてみんな編み直した」と語り、そのぬくもりの輪は律さんを慕う人たちの間にも広がっています。

下川町での1か月の滞在を終える小林ディレクターに、律さんからサプライズが。ふだん自然番組を担当し登山する機会が多いと伝えたところ、なんと無事を祈願して小さなわらじをかたどったお守りをプレゼントしてくれたのです。

下川町でたくさんのあたたかい人たちに出会った1か月。それぞれが思い思いの暮らしを送りながらも、周りの人たちのことを優しく思いやる。そんな寛容さと穏やかな時の流れを感じる、思い出深い滞在となりました。