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◆地上デジタル放送用ガードインターバル越えマルチパス等化装置の開発
〜放送波中継用補償器への応用〜
(平成20年5月13日)

○ NHKは、2011年の完全デジタル化に向けて、地上デジタル放送を全国どこでもあまねく受信できるよう、放送網の整備を進めています。そのためには山間部などにも安定な電波を効率的にお届けする放送波中継技術が不可欠です。

○ このたびNHKでは、放送波中継局における、反射波などマルチパス妨害による受信障害を除去する技術を開発しました。

○ 地上デジタル放送では、伝送方式にマルチパス妨害に強いOFDM*1を採用しています。OFDM方式では、マルチパス妨害が存在しても、受信したい電波に対して、妨害波の遅れ時間がガードインターバル*2の時間内であれば正常に受信することができます。しかし、ガードインターバルを越えるような長い時間遅れで混信してくるマルチパス妨害(以下、「GI越えマルチパス」)が存在すると、正しく受信することができなくなる場合があります。

○ GI越えマルチパスは、放送所から送信された電波が、予想もしないような遠方の山岳などで反射され、長い距離を伝わって中継局に到来したり、気象条件などで一時的に電波の異常伝搬が発生して、非常に遠方の放送所の電波が到来したりすることで発生します。また、送電線や大型船舶による電波の反射によって発生する場合があります(図1)。

○ この対策として、デジタル信号処理技術によりGI越えマルチパスによる信号の歪(ひずみ)を等化(補正)し、地上デジタル放送を正しく受信する技術を研究しています。今回、放送波中継局用のGI越えマルチパス等化装置を開発しました(図2)。

○ 本装置は、OFDM信号の受信の処理の際のFFT*3の長さを通常の受信機の4倍としてマルチパスを検出・等化することで、希望波と妨害波の遅延時間差がおよそ-500μs〜+500μs (負の遅延時間差は妨害波が先行する場合) のマルチパスによる歪に対して改善効果が得られます(図3)。

○ 中継局に放送信号を届けるのに、中継局まで専用回線を設けるよりも、放送波そのものを中継する方がコストの点で有利です。本装置を用いることで、上位局からの電波の受信にGI越えマルチパスが存在する中継局でも、安定な放送波中継を実現することが可能になるため、地上デジタル放送を全国展開するための中継局設備のコスト削減と放送用周波数の有効利用を図ることができます。

○ 岐阜県の土岐南中継局でフィールド実験を行い、本装置の良好な改善効果と安定動作を確認しました。中継局用補償器として2008年度内の実用化を目指します。また、この技術の一般家庭用受信機への応用も検討します。

○ この装置は、平成20年5月22日から25日に開催する放送技術研究所の一般公開で展示します。

※1 OFDM (Orthogonal Frequency Division Multiplexing): 直交周波数分割多重。地上デジタル放送や無線LANなどで採用。
※2 ガードインターバル(GI: Guard Interval): マルチパス妨害を軽減するためにOFDM信号に付加されている冗長な信号期間。
※3 FFT (Fast Fourier Transform): 高速フーリエ変換


図1 ガードインターバル越えマルチパスの発生

図2 ガードインターバル越えマルチパス等化装置 外観写真



図3 放送波中継局用ガードインターバル越えマルチパス等化装置の構成
 
 
 
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