(報道資料)
平成18年6月20日
日本放送協会
改革提案に関するNHK見解

 公共放送NHKは、多様で良質な番組と社会生活に不可欠な情報を広く国民全体に届けることで、日々、民主主義社会の基礎を提供し、放送文化の発展に寄与しています。私たちは、NHK改革のあり方を検討するとき、こうしたNHKが現に果たしている役割や実態、そしてジャーナリズムや文化の視点は欠かせないと考えます。
 私たちは、“視聴者第一主義”を掲げ、ことし1月にまとめた「平成18年度〜20年度 NHK経営計画」の中で、「信頼される公共放送のための経営の改革を進めること」や「デジタル時代にふさわしいNHKのあり方を追求すること」などを視聴者の皆さまにお約束しました。視聴者の信頼回復に向けて、不祥事根絶のより実効性のある対策に、今、全力をあげて取り組んでいるところです。
 一方、NHK改革のあり方については、不祥事をきっかけに今日まで、総務大臣の私的な諮問機関である「通信・放送の在り方に関する懇談会」(以後、「大臣懇談会」といいます。)や各政党の機関などさまざまな場で議論され、また考え方が示されています。
 こうした制度の見直しにつながるNHK改革のご意見・ご提案について、NHKは、放送が文化であるとの視点を踏まえ、現時点での見解を次のとおりまとめました。
   
(1) 経営委員会のあり方について
   経営委員会の執行部に対する監督機能をより強化する必要があるという観点から、現在はすべて非常勤の経営委員の一部を常勤化したり、経営委員会事務局の機能を強化したりすべきであるといった提案がなされています。
 私たちも、近年の複雑な社会経済情勢のもと、自らの責任の重さに見合った形で、ガバナンスの徹底の観点から、経営委員会の監督機能をより強化することに基本的に賛成です。その検討にあたっては、公正な報道と創造的な表現活動を担う公共放送機関にふさわしい監督・執行体制のあり方が追求されるべきだと考えます。具体的には、監督と執行の分離を明確にして、監督機能をさらに強化し、執行に適切な緊張感を持たせることなどが必要と考えています。
   
(2) 保有チャンネル数について
   NHKには、テレビ・ラジオ合わせて8つのチャンネルがありますが、各チャンネルには、公共放送にふさわしいそれぞれの役割が決められています。
 衛星放送については、現在3系統のチャンネルが、ハイビジョン普及、衛星放送普及、難視聴解消の役割をそれぞれ担い、その中で、たとえば海外のニュースやドキュメンタリー、米大リーグ中継などのスポーツ、内外のすぐれた芸術や文化を紹介する番組など、地上波とは異なる独自の編成で、視聴者の期待に応えています。これらの番組を視聴するため、受信機の普及数は1800万を超えています。こうした実態を考えると、数が先にありきで単純にチャンネルを削減し、放送サービスの低下を招くような施策には、反対です。
 平成23年(2011年)には、国の方針により、放送は完全デジタル化します。その時期に向けて、衛星放送では、アナログ終了後の周波数の利用や未使用の4チャンネル分の周波数の利用のあり方をどうするか、NHKの難視聴解消の役割がさらに必要かどうかなど、課題が数多くあります。これらの課題を踏まえ、周波数の利用について総合的かつ慎重な検討が必要です。
 NHKのFM放送にはクラシック音楽などに固定的なファンがいますし、中波放送の夜間混信対策という補完的な役割も果たして、災害時には安否放送を担っています。ラジオ第2放送では、語学を学ぶ方が数多くいますし、通信高校講座も放送しています。
 このように現行の放送サービスの停止は、受信者に多大の影響を及ぼす一方、チャンネル削減によるコスト圧縮の効果はそれほど大きなものではなく、サービス停止を検討する場合には、視聴者の要望や意見を十分に踏まえ注意深く検討することが不可欠です。私たちも、保有チャンネルのあり方については、視聴者の皆さまのご意見・ご要望がどのようなものか調査等を実施し、その結果を参考にしつつ、総合的に検討する方針です。
   
(3) 受信料の支払い義務化等について
   受信料制度は、視聴者全体で公共放送を支えていく仕組みで、そのためには受信料の公平負担が守られなければなりません。しかし、不祥事をきっかけに、支払い拒否・保留の件数が急増し、受信料をお支払いいただいている方がおよそ7割にとどまっていることを、私たちはたいへん深刻に受け止めています。
 NHKは、コンプライアンスの徹底によって何より視聴者の皆さまの信頼回復に努めるとともに、受信料の公平負担の徹底に、今後とも全力をあげて取り組んでいきます。視聴者の皆さまからご理解が得られるように、受信料の徴収についても合理的な業務体制の構築に取り組み、コストの抑制にいっそう努めます。その上で、受信料の支払い義務を明文化する「支払い義務化」を行うとしても、必要な法律の改正に向けて、国民的な議論を尽くし、視聴者の理解を得ていくことが大前提です。また、受信機購入情報などの活用ができれば、徴収コストの削減や公平負担の徹底に資するものと考えます。
 現在の受信料の仕組みは、受信機を設置した人に法律で契約を義務づけたうえで、総務大臣の認可を受けた放送受信規約で支払い義務を定めるという二段構えになっています。「支払い義務化」によって、受信料の性格自体は何も変わりませんが、この二段構えの仕組みが一本化されることになり、受信料支払いの根拠が視聴者の皆さまから見てわかりやすくなるものと考えます。
 支払い義務化等によっても十分な効果がなければ、将来、罰則の導入を検討すべきだという意見がありますが、罰則の導入については、よりいっそう慎重に検討すべき課題と考えます。 
   
(4) NHKのアーカイブス番組のインターネット配信について
   NHKは今の経営計画の中で、NHKが保有するアーカイブス番組について、「あらゆる活用方法を多角的に検討し、IT社会の発展に映像文化の側面から貢献していきたい」という考え方を示しました。この観点から、アーカイブス番組をインターネットを通じ直接視聴者に提供することができるよう、今ある制限を見直すという方向性については賛成です。
 こうしたサービスの実施には設備整備などに一定の経費がかかりますので、サービスの利用を希望される受益者の方に経費の負担をしていただく仕組みとすることが必要になると考えます。また、こうした有料の事業を円滑に進めるには、公正競争の確保に十分配慮した仕組みを作り、社会的な合意を得ることが大切だと認識しています。NHKにおいても、本体で実施すべきか子会社で実施すべきかといった点を含め、実施上のさまざまな課題について、総合的な検討を行っていく考えです。
   
(5) 国際放送のあり方について
   NHKの国際放送は、放送法に基づき、海外在住の日本人向けと海外での日本への理解促進の二つの目的で実施しており、テレビ国際放送については、今の経営計画に「平成20年度までに英語化率100%を目指す」方針を盛り込むなど、外国人向けの役割をいっそう強化する方向で、その充実に積極的に取り組んでいます。
 ただ、国際放送を海外の多くの人々に実際に視聴してもらうためには、受信環境の整備のために多額の経費が必要となります。その財源をどう確保し、世界に安定的に情報を発信する体制を築くかという点は、目下の大きな課題です。
 一方で、NHKのテレビ国際放送とは別に、外国人向けの国際放送チャンネルの創設を検討すべきだとの考えもあります。民間の出資を受け入れるべきだとの意見もあります。NHKとしては、こうした場合にも、実施主体の編集権の独立が保障され、財源の確保という直面する課題が解決されるのであれば、これに応分の協力をしていくことは可能だと考えています。
   
(6) 娯楽・スポーツ制作部門の子会社化について
   大臣懇談会の報告書では、「娯楽・スポーツ等の制作部門については、公共性が必ずしも高いとは言えないことから、本体から分離して関連会社と一体化した新たな子会社とし、民間との競争に晒されるようにすべきである。」としています。
 まず、NHKとしては、公共放送の基本的な役割は、多様で良質な番組や生活を支える基本的な情報を視聴者の皆さまにあまねく分け隔てなく届けることにあり、娯楽番組やスポーツ中継であっても、公共放送にふさわしい内容を責任をもって放送することだと考えます。番組の分野によって、公共性が高い、低いが決まるというものではありません。
 現在でも、個々の番組制作にあたっては、できるだけスリムで効率的な実施という観点から、分野を問わず、その一部を子会社や外部のプロダクションに委託しています。ただ、本体で制作するか委託して制作するかは、個々の番組の特性や事情に応じて柔軟に決める必要があり、行政の規制で縛るのではなく、NHKとして業務の効率性などを確保しつつ、自主的に判断したいと考えます。
 これに関連して、大臣懇談会報告書では、「番組制作の一定割合以上をNHKの子会社以外の外部から調達すべきである。」との見解も示されています。NHKでは番組の一部を外部調達していますが、これには質の確保が当然の前提となりますので、その点を十分に考慮する必要があると考えます。
 また、NHK改革論議のテーマのひとつとして、公共放送の子会社等のあり方が問われていると認識しています。今の経営計画では、子会社等の統合を進め、スリムで効率的な体制を構築する方針を確認しました。この方針に沿って、本体と子会社等との関係を問い直しながら、改革を進めたいと考えます。
   
(7) 技術研究のあり方について
   放送を充実・発展させていくためには、番組を制作・放送するNHK自身が技術研究を行うことが欠かせないと考えています。今の放送法では、「放送及びその受信の進歩発達に必要な業務を行うこと」がNHKの目的として定められており、その目的を達成するために必要な技術研究を行うことがNHKに義務付けられています。こうした枠組みは、公共放送機関であるNHKにふさわしいものですので、引き続き維持されるべきだと考えています。
   
 デジタル技術の急速な進歩やインターネットの高速・大容量化が進み、放送をめぐる環境は、大きく変化しつつあります。平成23年に向けて、放送と通信の融合はさらに加速していくと思われます。
 以上のような現時点の見解も、固定的なものではなく、今後の情勢の変化によって、見直していく必要が出てくるかもしれません。NHKとしては、視聴者の要望や意見、その利益を、最大限反映させるように努めながら、それらを踏まえて、さらに改革に向けた取り組みを具体化させていく考えです。
 
以上


 
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