2006年6月19日
「デジタル時代のNHK懇談会」報告書 概要

 「デジタル時代のNHK懇談会」は、NHKの再生をはかり、次代への展望を切り拓くため、以下で述べる基本的立場(1.)に立脚しつつ、7項目にわたる提言(2.)を行った。
   
1. 基本的立場――公共放送はどうあるべきか
(1)
 特定の組織や企業スポンサーに依存することのない公共放送は、健全で多彩な活力ある民主主義の発展と成熟に不可欠である。NHKには、視聴者第一主義の視点に立って、自主・自律の公共放送として再生し、政治的中立性や金銭上の不明朗さを疑われないよう、つねに点検を怠らない努力が必要である。
(2)
 主財源を異にするNHKと民放の二元体制は、日本社会における言論と表現の幅を広げ、活気ある文化的多様性を作りだしてきた。公共放送NHKは、日本の歴史と文化に根ざした二元体制のもとで、質の高い番組の提供と放送技術の革新や開発、さらには公正で効率的な組織運営を通じて、放送界全体に寄与すべきである。
(3)
 公共的性格を備える放送を産業振興策や政争の具に使ってはならない。近年の放送と通信の接近を、公共性を旨とする放送の本質や使命の変化と見誤ってはならない。誰もが安価に参加しうる番組の制作と送出は、情報と文化の質的低下を招きかねず、視聴者ニーズを個別に把握する双方向技術は、商業主義の過剰な浸透につながりかねない。NHKは、技術的物珍しさや短期的収益性に惑わされることなく、民主主義社会のインフラとしての役割を果たすとともに、より確かな放送技術や番組・放送サービスの開発と普及を使命とすべきである。
(4)
 NHKの民営化や番組のスクランブル化はすべきでない。NHKは、視聴率や話題性を優先して画一化に陥る競争に与することなく、人々の暮らしと社会参加に必要な有意義で多彩な情報を、社会全体に公平に伝える役割を担う。こうした放送の公共性は、報道番組に限らず、娯楽・教育・教養等、他のジャンルにおいても同様に求められ、NHKはこの社会的要請に真摯に応えなければならない。地域や社会の一体感を醸成し、多様な価値観や文化の涵養に寄与するNHKの役割は、経済的・地理的・文化的格差が深刻な社会問題となる現在、ますます重要となっている。
(5)
 NHKの財源である受信料は、個々の番組やサービスの「対価」ではない。視聴者が受信料を支払うのは、NHKが、質の高く信頼できる放送を通じて、多様な意見や価値観の行き交う公共空間の形成と育成に寄与し、それが社会や文化の成熟をもたらすと期待するからである。受信料は、民主主義と文化の成熟とを支えていくために、すべての視聴者が公平に負担すべきコストである。NHKには、受信料の体系を、社会の実情に即した公平感のあるものに組み換えるとともに、受信料の効率的な収受に努力することが求められる。罰則の導入はすべきではなく、支払い義務制への転換もNHKへの信頼回復が前提となる。
(6)
 NHKが視聴者のニーズに応じて公共放送としての役割を十分に果たすためには、それにふさわしい規模と範囲が必要となる。チャンネル数の問題については、単なる経費計算や印象論からではなく、NHKに期待される役割にのっとった冷静な検討が求められる。
   
2. 7つの提言――すぐに取り組むべきこと
(1)
 視聴者第一主義の具体的実践――NHKは、自主・自律、中立性・公平性の原則にのっとった多様で多彩な番組作りを、広範な視聴者の声を不断に汲み上げつつ実践すべきである。
(2)
 制作現場の創造性確保と教育研修システムの確立――公共放送の理念を職員一人ひとりが自覚した上で、活力あふれる制作現場を実現するため、職員に対する教育研修システムを一層充実させるべきである。
(3)
 組織統治の明確化――視聴者にとって分かりやすい形で全体としての組織統治の実効性を確保するため各機関の権限の明確化と専門的な経営・管理能力の育成をすすめるべきである。
(4)
 地域放送の充実――地域社会の現実から生ずる問題を掘り下げ、地域の視聴者から信頼される公共放送となる努力をさらに続けるべきである。
(5)
 国際放送の発想転換――日本のメディアの国際化を実現し、受信料を支払う視聴者がそのメリットを享受できるよう、国際放送の充実・強化を、NHKが主体的に行うべきである。政府の主張を国際的に宣伝する放送へのNHKの関与はふさわしくない。
(6)
 インターネットの積極的活用――NHKが保有する番組アーカイブスの公開等、インターネットの積極的活用を進めるため、経費負担や著作権処理のあり方やNHKの業務範囲についての再検討が求められる。視聴者の声を汲み上げるためのブログ等の活用やそれとの交流も押し進めるべきである。
(7)
 技術開発の基盤整備――NHKには、長期的視野に立った継続性のある放送技術の研究・開発が強く求められる。研究機関の別組織化は避けるべきである。
  
   公共放送NHKは、何よりもまず「視聴者第一主義」に立つべきであり、その自主・自律、政治的中立性を支える財源としては、視聴者から負託される受信料が相応しい。ただし、受信料を財源とすることに伴う視聴者へのアカウンタビリティ確保の仕組みについては、番組の自主・自律の観点から見て再検討を加える余地がある。新たな制度へと組み換えていくには、相互に関連するさまざまな問題に答える必要があるが、その解決は公共放送に対する視聴者の信頼を確立するための必須の課題である。
 
以上




 
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