第2回「デジタル時代のNHK懇談会」議事録

4.公共放送の使命と役割について(意見交換)

吉岡委員  そういうふうに現実的に考えるのは大事だと思います。しかし懇談会ができて、我々がこのように集まっていること自体、さまざまに噴き出した不祥事が背景にあって、それが理由になっているわけです。受信料問題にしても、前回にお配りいただいた資料をみますと、受信料不払いが拡大している理由を不公平感の増大にある、と捉えられているような記述がありました。これは非常に気になりました。確かに、最近の不払いの直接的な理由はそうかもしれないと思いますが、その背景にあった問題というのは、NHKが作っている番組、とくにニュースや報道番組に対する長年の不満が鬱積していたのではないか、と思います。
 それは、はっきり言えば政府や与党、とくに自民党などの政治家への距離感がきちんと取れていないのではないか、という不信です。画面から伝わってくる問題追究の甘さ、一つの番組中に首相や官房長官が入れ替わり立ち替わり出てくるといった、まるで政府公報のような作り方。こういうものが繰り返されると、いかにも政府与党に遠慮して、政治的に配慮している様子が露骨に見えてきて、それが不満や不信として蓄積されると、視聴者は「どうせNHKだからね」という突き放した気持ちになる。私は、それが一連の不祥事をきっかけに一気に吹き出したというのが現実だと思います。それはいまだに引きずっているのだろうと思います。 不公平感ではなくて、それが不払いの増大につながっている。つまりNHKの政治的な信頼性が問われているのではないでしょうか。これは公共放送のあるいはNHKの政治的信頼性が失われている、ということです。
 ETV特集の番組改変問題が起きたとき、NHKの幹部が自民党の有力議員に番組内容について説明するのは業務の一環である、という説明がされました。いまだに業務の一環として考えられているのかどうかは、もう一回改めて伺っておきたいことの一つです。 もしそうだとすれば、その政治的な信頼性は、損なわれたままではないかという気がするのです。私はまず、与野党を問わず、政治家との距離感をしっかりとることが大事だと思いますし、そのことを視聴者にきちんと説明というか、あえて言えば宣言をするべきだと思います。このように我々は距離をとりますということを、きちんと言う。そのことによって、番組のクォリティーを上げる制作現場の基盤を作り上げると同時に、あらためて視聴者の信頼を取りもどし、味方になってもらうことはこれからのNHKにとって大事ではないかと思います。

辻井座長  政治的中立性の問題が一つあります。その前におっしゃった不払いの原因はそこにあるのだというお話しですが、それ以外にもあるとお感じの方もありますから。

吉岡委員  いずれにしても我々はこれからこう変わります、ということを視聴者にきちんと説明することが大事です。しかし、もっと大事なことは、その覚悟を制度的にどう保障していくのかです。梶原委員がおっしゃっているように、受信料制度の問題がありますし、もっと先を言えば、NHK予算の国会承認を定めた放送法それ自体を変えなくてはいけないのではないか。そういうことまで視野に入れた議論をし、実現していかなければ、損なわれた信頼感はやはり回復できないだろうと感じるのです。それはNHKにとって不幸なことですし、日本社会にとっても不幸なことだと思います。

辻井座長  その点、政治的な中立性は制度を変えないと、というお話については長谷部委員も論文で、今の制度である程度説明するのはやむをえないのではないかということも書いておられた。

橋本会長  言い訳ではなくて事実で申し上げますと、毎年度の予算を立てる。この予算についてはご承知のとおり国会承認が必要である。予算の根源というのは、どんな番組を作ってどういうふうに放送していくか。あるいは番組に関わる周知活動をどうするか。あるいはこの番組に連動するイベントをどうするか。それぞれの放送を作りお届けする技術的な設備はどうするか。そういう諸々の予算の根幹は番組制作であります。番組をどう作るかということを、予算書、事業計画に作り上げて承認を得るという作業です。
 したがって事業計画の中には、個別の番組名も当然入ったものもありますし、こういうジャンルの番組を作ります、このくらい作りますと。これは骨格になっています。ですからNHKが予算を説明することは、ひとえにほとんどはどんな番組を幾らの予算で作ると説明することになります。
 したがって、これは当然ながら、実は自民党だけに説明しているわけではなくて、すべての政党に説明をしております。限られた時間の総務委員会の中で、細かい質問までやりませんから、この予算書がどういう骨格でどういうふうになっていますという事前の説明を各政党に、政党の部会等も含めて説明しておきます。
 こういうこと自体が、ある特定の政党に事前に個別番組を説明するというふうに受け取られているわけです。そこは大変、私どもとして残念なところです。そういうふうに、あるところだけやっていることではないということは、まずお分かりいただきたい。
 それから考え方として、おっしゃるように自民党だけには説明するな、この自民党議員には距離を置けとか、いわば排除する理屈はなかなか成り立たない。もっと広く言えば国会議員とは触れ合うなということも、実際に番組の「日曜討論」などで、国会議員同士で話し合ってもらうための、そういう番組もあるわけだから、こんなのはやめてしまうわけにはいかないだろうと思います。
 そういうふうにある特定のところだけ距離を置けというのはなかなかむずかしい。我々は、政治家であろうとマスコミであろうと市民であろうと、どういう人たちにでも番組紹介はしていきます。しかもそれは番組広報としては2週間前にこういう趣旨の番組だという説明等もやっている。そういう状況にあるということを簡単にご説明します。

江川委員  今、聞きたいのは、そういう建前的な話ではないのです。たとえば、『NHKの真相』というような本が出てかなり売れているようです。NHKの職員に聞いたら中身はかなり当たっていると言っていました。たとえば、社会現象では政治が絡むことがたくさんありますが、それを社会部が追及しようとしても、やはり政治部がブロックしてだめだとか、そういう情報が出ているのです。そういう記載がかなり当たっているとすれば、そういうことが問題で、国民、視聴者は「日曜討論」に出すな、議員への説明をやるなということを言っているわけではないのです。
 たとえば、NHKの社会部が政治家の汚職のスクープをどれくらい最近やりましたか。社会部ネタで政治家のいろいろな問題を暴いた報道がどれくらいありますか。日常のなかに、圧力や縛りや何か見えないものがあって、取材や番組に影響があるのではないかと、疑っているし、そういう本も出ているわけです。
 それに対してNHKは応えていないのです。建前的な話ばかりなので、視聴者との間にズレがどんどん広がって、不信感もあって、乖離がでているのだと思います。
 NHKが、いまやらなければいけないことは、国会議員に対する説明にどれだけ苦労しているか、本音を打ち明けることだと思います。例えば、あちらのほうからこういう要求があって、こういう報道をしようとしたときに、こういうことがあったと。そんなことはありませんでしたとばかり言っていると、不信感が募るだけです。苦労している話を、率直に出していただきたいという気がします。

梶原委員  今の江川さんの話に関連して、NHKを責めているだけでは何ともならないのです。ということは、金澤さんがおっしゃったように、受信者とか国民の立場を代弁するのは国会議員ということになっているのです。もしそうだとすれば、国会が受信者国民の立場でいろいろ注文を付けるのはあたりまえのことです。だけど国会議員で政治的中立の国会議員は一人もいません。そこの矛盾を解決してあげないと、NHKは、国会議員に根回しをして了解を取らないと予算も通らないのです。そこの板挟みというものを、仕組みのうえで解決してあげないと。NHKを責めていればいいということではないと思います。

吉岡委員  それでは、放送法も変えることも含めての話ですね。

梶原委員  制度を変えないと。

笹森委員  今の話で、放送法の話をしようと思ったのですが、資料(放送法)の10ページから11ページにかけて、受信契約で受信料を取られます。今、梶原さんのおっしゃったこと、江川さん、金澤さんのことは、全部、ここに行ってしまいます。わからない部分もあるけれども、先程、梶原さんが、せいぜい政府からもらっているのは20億円くらいではないかという話をされましたが、このなかで見ると政府が出しているのは「国際放送の費用負担」という部分で、政府が国の負担としますと書いてあります。
 その他のところは出ているのか、出ていないのか。この程度の問題であったらそんなに制約をされることはないし、NHKの予算全体からみれば微々たるものですから、それこそ要らないといった場合に、この放送法を変えて、自分たちの方から「お金は要りません、自主独立でやります、受信料オンリーです」というくらいにして、この内容をこう変えてくれということを言わないと、独立性は保たれないのではないか。そこまで行きましょうという思いと、それから、それぞれ私も含めて発言しているけれども、別にNHKの皆さん方を非難しているわけではありません。こういう問題があるけれども、どうなのかということを言っているわけだから、そういう意味で聞いていただくと、やり取りが変わると思います。

辻井座長  話がそういう方向ですので、今の点と他にもどうぞご自由に。

永井委員  放送法は何もNHKだけのものではなく、放送に携わる全ての人に対する法律です。つまりNHKだけの問題ではない。しかし、この懇談会の議論のうえで、放送法の見直しをしてはどうか、と提案する手段はあるのでしょうか。

辻井座長  あると思います。先程、おっしゃったように受信料の体系についても、NHK会長からは、体系という言葉でいただいていますが、それは制度に踏み込んでもよろしいことだけれども、梶原委員も言われたように、とにかく何でも議論をしないといけないし、有識者の提言ですから、別に法律を越えてやってもいいのではないかと、私は思いますが、いかがでしょうか。

金澤委員  国会承認が必要だというのは、別に国際放送交付金を政府が出しているからというわけではないので、広い意味でのNHKのガバナンスをどう見るかという話です。
 もともと、特殊法人というのは、政府がだいたい管理監督をやっているわけですが、NHKだけは非常に特別な形をとっておりまして、政府が基本的な事項については関与しないで、国会が直接見るという仕組みになっているのです。だから、ガバナンスの形が他の特殊法人とは全く違う。政府は見ないで、国会が見るのですが、国会が見なくなったらいったい誰が見るのかという議論になりますので、非常に重要な問題だと思います。

音委員  イギリス・BBCの制度的なお話を長谷部座長代行がしてくださいましたが、もう一つBBCについて実態論的なことを考えるとき、イギリスは二大政党制が定着している政権交代がある国であり、他方、日本は長らく一党が政権を担ってきたことに着目する必要があると思います。これは明らかに違うのだと思います。
 そのことから考えると、会長のご説明のように、NHKの方は全政党に説明をしている、野党と同じようなかたちで、政権与党に説明をされていると言われましたが、視聴者の持っている印象として、特に長い間、政権を取っている党に顔が向いているのではないか。もう片方で江川委員が言われたように、視聴者の視点からすると、または梶原委員のお話にもあったように、生活者の視点からすると、ひょっとするとNHKはこちら(視聴者や生活者)の方を向いていないのではないか。NHKはそれよりも国会の方を向いているのではないかと感じているのではないでしょうか。これは実態というよりも、そういう受信料を支払っている視聴者の不信感が現れたのが、今回のことではないかと感じます。
 とすれば、もっと視聴者に説明をする仕掛けを作っていくべきだと思います。それから別のルートで、つまり国会は、国民が選んで国会議員が出ているわけですから、そこで説明する必要は大事でしょうけれども、国会に提案していく今の制度とは別のルートで、市民の声を聞いて、応えていくことが大事だと思います。視聴者をNHKは軽視しているのではという不信感が、渦になっているのではないかと思います。

家本委員  そもそも、今、音委員がおっしゃったように不信感もそうですが、不払いの世帯主が具体的にどういう世代なのか、データはお取りなのかどうかわかりませんが、どういう世代に悪いパーセンテージが出ているか、ぜひ知りたいと思います。
 つまり、我々の世代、20代から上の30代の方々と、50代、60代の方々とNHKに対する見方はかなり違うのでないかと思っています。
 今、私どもの世代は、1日か2日くらい必死にアルバイトをすれば、小さなテレビが買える時代で、テレビの出始めの頃の初任給の何倍という時代と比べて、テレビの近さが相当違うと思います。まずそういうデータもぜひ見てみたい。つまり具体的にどういう世代に不公平感がとくに現れているのか。
 実は、今までNHKを信頼していた世代も、もうだめだというふうに思っているか。そうではなくて、我々のように、これから先、50年後のNHKまで見ていこうという世代が、いや、ここから先のNHKには付き合っていられないと思っているのか。その辺ももう少し具体的な数字がでてくると、とくに若い世代として申し上げると、10年後、20年後のNHKの姿があまり見えないので、このまま受信料を払い続けていいのかとか。そういう疑問も若い世代にあるのではないかと思います。

辻井座長  そういうデータというのはお持ちですか。

橋本会長  不公平感が何歳にという分布はありません。しかし、別の切り口ですが、番組に対する接触率の年代別は、放送文化研究所で調査したものがございまして、概要でいいますと、やはりNHKをご覧になっている方々は高齢者の方が多い。若年層は少なくて、年齢にしたがって上がっていくという簡単なカーブになっています。これは次回にでもお渡しできると思います。

江川委員  先ほど永井さんがおっしゃったことと関連して、私が前回、これはNHKに出す提言であると同時に、国民に向けてと申し上げたのは、制度の改革が必要であればそこまで踏み込んで、「国民の皆さんどう思いますか」と提起した方がいいのではないかと思ったからです。私も法律や制度の改革まで踏み込んでいいのではないかと思います。
 それから、NHKの方に資料で一つ出していただければと思うのは、政治家とのことは次回に主にやると思いますが、その討議の参考のために、政治家との付き合い、説明だとか懇談とかその他の交際費としてどれくらいのお金をかけているのか、具体的に数字を出していただきたいのです。

中川理事  今のご要望ですと、計算をしてみたいと思いますが、基本的にはお金をかけるとか、かけないということではなくて、会長から申し上げたように日常的に、毎年度の予算の前にご説明に上がるわけです。強いていえばそういうことに関する経費はどのくらいかということになると思います。
 だいたい、毎年1月半ばくらいに、NHK予算と事業計画を総務大臣に提出します。総務大臣は意見を付けて内閣に回すわけですが、その前に自民党の不文律でしょうが、そういう国会での承認案件については、総務会で審議することになりますから、当然、私どもは、まず自民党の方の総務部会、それから政調部会、総務会というふうにいろいろご説明にまわります。
 それと、総務委員の方々にもご説明に上がります。そういうことをしながら、一方で、NHK予算と事業計画は電波監理審議会の諮問、答申を受けて内閣に回される。内閣でそれを国会に提出するという段取りです。
 前後して野党の方々にも、あるいは総務部会的なものに対してもいろいろご説明に上がることで、だいたい合わせますと、 400人から 450人くらい、毎年、事前にご説明をする。だいたい2人くらいのチームで回ることになります。そういった経費がどの程度かということになろうかと思います。

江川委員  私の聞きたいのは、そういう議員会館とか党本部を回ったことではなくて、そのための根回しとかいろいろなお付き合いがありますね。それは、していないわけはないわけで、そういうことにどれだけのお金を掛けているのか。もちろん他のこともいろいろなデータを知りたいのですが、お金のことは数字でわかりやすいから、そういうのを出していただけませんかとお願いをしているのです。

中川理事  根回しでどのくらいというのは、相当、毎日やっているというふうにご想像なのかもしれませんが、実際にはそんなことはございません。それはお付き合いですから、夜、一緒に食事をすることはあろうかと思いますが、ここは全く誤解をされているのかもしれませんが、毎晩のように食事をするということはございません。そのような額を出せるものかどうか、それは考えてみたいと思います。

原田理事  私は放送の担当ですので、一言申し上げておきたいと思います。私どもは何に則って番組を作っているかというと、きょうはお手許に資料として「放送法」がございますが、放送番組というのは、何人からも干渉されない、規律されることはない。NHKは報道機関でありますから、当然、現場はこのことで仕事をしております。
 それから政治的に公平であるとか、事実を曲げないということ。これは放送法がこういう表現になっておりますが、このことをNHKとして置き換えたものが「番組基準」というものです。基本的にはこれが私どもの番組を日常的に作っていく上での憲法であるということで、今までもこれでご説明をしておりますが、日常的にもこれで仕事をしている。ですから予算を通すにあたって、さまざまな経過は当然あるわけですが、そのことと、放送現場で仕事をしていることとは、私どもは全く別のことだと思っております。
 そのあたりは、ある意味で、説明不足もあると思いますが、日常的に仕事をしておりまして、いろいろなご指摘はありますが、NHKの番組が一方的にこちらに偏っているという視聴者のご指摘が目立つということは一切ございません。そのことははっきり申し上げておきたいと思います。

江川委員  だいぶガードをされているような感じがしますが、別に私はNHKをいじめているのではないのです。やはりそういう苦労を正直に出した方が、人々の理解を得られるのではないですか。先ほど梶原さんがおっしゃったように、制度上のいろいろなところを変えて、NHKの人たちも苦労から少し解放されて、視聴者とNHKが直接つながりを持てるようにするには、今はこういう問題があって苦労しているのだということを率直に出してもらった方がいいと思います。
あまりガードしないで安心して出していただければと思います。

原田理事  7月20日に、また民事裁判がございまして、「ETV2001」という番組についての口頭弁論があります。そこでは、要するに、あの番組が政治的な圧力で最終的に番組編集が変わったのかどうかという提起がされております。そのことの裁判があります。そのあたりで誤解があってはいけないのですが、私どもの主張としては、昨日も裁判所に資料を出しましたが、あの編集過程でそういうことはなかったのだということを、私どもの立場でこれからも主張してまいりますので、そういうことも合わせて申し上げておきたいと思います。

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