日本放送協会(以下、「NHK」と言います。)は、先に成立した武力攻撃事態対処法において、指定公共機関の例示のひとつとして掲げられ、指定公共機関に指定された場合、対処措置の実施の責務を負うこととされています。その対処措置の内容は、放送責務を含め、先月21日、政府より公表された国民保護法制の要旨及びその関連文書(以下、「要旨等」と言います。)により、明らかになりました。
NHKでは、国民の生命・身体等に直結する緊急情報は、迅速、的確に視聴者・国民に伝えることが、公共放送として当然の責務と考えており、要旨等に具体的に盛り込まれた放送責務に関する事項についても、指定公共機関に指定されるかどうかにかかわらず、視聴者・国民に伝わるよう、公共放送として組織を挙げて全力で取り組む方針です。
同時に、わが国が武力攻撃を受けるというような万一の事態には、多角的な見地から広く情報を収集して放送するとともに、緊急に伝えられた情報が正しかったかどうか、時間をおいてきちんと検証するなど、国民の判断が冷静で誤りのないように総力をあげて取り組むのが、報道機関としての当然の責務であると考えています。このためにも有事に際して、放送事業者の報道の自由や編集の自由が確保されることはきわめて重要であり、これによりNHKとしては、放送の機能を十全に発揮しつつ放送対応を行っていく考えです。
以上のような観点に立って、次のとおり、要旨等に関し意見を提出しますので、今後の国民保護法案の策定にあたって十分に考慮されることを要望します。
1.国民保護法制によって、放送事業者である指定公共機関に放送責務を課す場合には、放送すべき内容が、この法律の中で必要最小限のものに限定されていることが必要です。
ア.要旨等によりますと、放送事業者である指定公共機関に対し、放送責務を課すことを法律に明記する項目には、(1)対策本部長が発令する警報の内容、(2)都道府県知事による避難の指示の内容、(3)都道府県知事が発令する緊急通報の内容、の三つがあります。
この場合、放送事業者に、特定の内容の放送責務を課すような立法措置は、憲法や放送法の目的規定に照らし、必要最小限のものに限定することによって、放送の自由、放送の自律との調整が十全に図られることが、理念的に大切なだけでなく、実務的にもたいへん重要です。
具体的には、(1)国民の生命・身体等に危険が迫っていて(危険の存在)、(2)その危険を回避し又は被害を最小にするため(危険防止の目的)、(3)緊急に放送することが必要である場合に(緊急の必要)、(4)緊急の必要を満たす簡潔かつ最小限の範囲・分量であること(簡潔性)などの一定の条件が、放送責務を課す上で、満たされている必要があると考えます。
イ.この点について、政府は国会答弁などで「国民の安全の確保等、緊急性を要する場合に、速報性という機能に着目して、放送事業者に対して、緊急の必要最小限の報道をしてもらうものであって、政府として報道規制をするとか報道の自由を制限するということはまったく考えていない。」(平成15年5月 参議院武力攻撃事態対処特別委員会 官房長官答弁等)と説明しています。
ウ.しかし、今回公表された要旨等を見ると、こうした放送責務の内容・分量に関する限定が十分ではなく、条文化する場合には、以下のような限定を明記されるよう要望します。 |
(1) |
警報については、武力攻撃事態対処法で、「国民の生命、身体及び財産を保護する」等の目的で発令するものとされていますが、要旨等では、具体的にどのような時に発する、どのような種類のものであるかについて何も規定はありません。放送責務を課すのであれば、最低限、その場合の警報の発令には「国民の生命、身体及び財産を保護するために緊急の必要があると認めるとき」といった限定が必要であると思います。 |
(2) |
事態がより進展したあとの緊急通報については、放送責務を課すのであれば、その発令には、例えば「武力攻撃災害の拡大によって住民の生命及び身体に危険が及ぶおそれがある場合に、その危険を防止するため緊急の必要があるとき」など、具体的な危険を要件とした限定をすべきです。
また、武力攻撃災害の発生前の緊急通報の発令については、危険の性格が武力攻撃災害発生後とはおのずと異なることから、まず警報とどのような関係になるのか、具体的な想定を明確にされることを要望します。 |
(3) |
警報、緊急通報に避難の指示を加えた三つの緊急情報の内容についてはいずれも、視聴者に確実かつ速やかに伝わるよう、できるだけ簡潔なものにすることが重要です。法令上も、対策本部長や都道府県知事の発令の内容が簡潔なものとなるための措置を要望します。
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