放送制度等に関するNHK意見 NHK information
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「NHKの子会社の在り方等に関する論点整理」に関する意見
 
 NHKは、NHKの子会社の在り方等に関する「論点整理」についての総務省の意見募集に対し、平成13年11月8日、以下の意見を提出しました。
 
 
1.はじめに
 公共放送NHKのあり方については、総務省の放送政策研究会において、現在検討がなされており、NHKでは、数次にわたるヒアリングのなかで、その時々のテーマに即して、これまでも考え方を表明してきました。
 先般公表された「論点整理」は、総務省において、放送政策研究会のこれまでの審議をふまえつつ、NHKの子会社等のあり方やインターネット利用等について取りまとめられたものと受け止めていますが、その内容に関するNHKの意見は以下のとおりです。
 
2.「我が国の放送における二元体制」について
○いわゆる二元体制のもとで、NHKは、基幹的情報伝達の手段として全国津々浦々まで放送を普及させるとともに、国民が民主主義社会の発展のために共有すべき基本的な情報や、国民の生命や財産を守るために必要な情報を提供し、日本の伝統文化を継承・発展させ、日本国民としての一体感を醸成するなど、放送を通じた公共の福祉の増進に貢献することで、公共放送の使命を果たしてきています。最近、全国紙が世論調査結果として、「信頼できると思うメディアを聞いた質問でも、『NHKテレビ』(82%)と『一般の新聞』(76%)が他のメディアを大きく引き離し」ていると報じるなど、各種の世論調査で見ても、NHKに対する国民の信頼度はきわめて高くなっています。
 受信料を財源とする公共放送は、視聴者の支持と理解が欠かせません。さまざまな分野で優れた番組を提供し、地域や社会的背景の異なる視聴者の多様な関心にこたえ、これによって一貫して放送文化の向上に尽くしてきました。

○放送のデジタル化の進展やインターネットの普及によっても、公共放送NHKが放送文化の向上と民主主義の健全な発展に果たす役割は、今後も変わりません。インターネットにおいても、NHKの参加は、放送の場合と同様に、言論表現の多様性の確保に貢献します。このように公共放送の機能をいっそう高めつつ、今後も二元体制を維持し、より豊かな放送文化を創造することが、視聴者国民の期待にかなう道だと考えます。
 
3.「NHKの子会社等の在り方」について
(1)子会社等に関する改革に向けた取り組み

○NHKの子会社等は、業務の効率化やソフト資産・ノウハウの社会還元、さらにこれらを通じた副次収入による視聴者負担の軽減といったねらいから、NHKが総務大臣の認可を受けて出資し、また設立してきました。そしてNHKの経営のスリム化を進めつつ、これらの役割を通じて、NHKの業務を補完・支援し、社会に貢献してきました。NHKが子会社等から得る副次収入はこの10年間の合計額で約500億円となり、受信料を据え置き、デジタル化を進める一助ともなっています。

○NHKは、子会社等に対して従来から、公共放送の子会社等にふさわしい節度を持って経営に当たるよう指導してきました。その事業内容は、NHKの業務報告書に記載して国会に報告するとともに、視聴者の方々にも提供しています。今日、社会全般に、公的部門、私的部門を問わず、事業活動の透明化や説明責任に対する関心が高まっています。NHKでは、これまでも孫会社の整理統合に取り組むなど、不断に見直しを行ってきましたが、こうした社会情勢をふまえて、(1)「節度」の内容を明らかにする、(2)NHKの指導・管理を徹底する、(3)外部の評価を受け公表する、という3点を柱に、子会社等の改革を検討しています。

○まず、「節度」の内容をできるだけ明示的なものとすることです。つまり、子会社等の業務範囲に関する考え方をより明確にするとともに、公正競争の観点も含んだ遵守事項や禁止事項を定めることを検討しています。

○次に、子会社等の業務運営についてNHKとして責任を持ったコントロールを徹底することです。「節度」と「コントロール」のため、子会社等の管理規程である「関連団体運営基準」を大幅に改定する作業を進めています。NHKの子会社、関連会社、関連公益法人等すべてについて、出資比率あるいは影響力に見合った指導・監督を行っていくという考え方をベースに、上記の「節度」の内容や、NHKとの事前協議事項の拡充などを盛り込み、その内容は公表する予定です。
 また、子会社の定款変更の承認などについて経営レベルでのチェック機能を充実するとともに、子会社等の事業活動についての苦情受付窓口の設置などを検討しています。

○「外部評価と公表」に関しては、上記について外部の評価を受けるとともに、経営の透明化をいっそう進めます。既に試行を開始している連結決算については、インターネットでも公開していますが、さらに当初の予定を前倒しして平成14年度からの実施も念頭において検討したいと考えています。連結決算に際して監査法人の会計監査を受けることに加えて、監査法人等による業務監査を実施し、その結果を公表することを検討しています。業務報告書の記載事項についても充実していきたいと考えています。さらに、孫会社は引き続き整理・統合を推進し、直接出資の子会社等についてもその検討を進めています。

(2)子会社等の業務範囲のあり方

○NHKの子会社等は、まず、NHKからの委託による番組制作など、放送法施行令に定める出資対象事業を行っています。この他に、NHKに直接関係する仕事ではありませんが、公立の美術館や博物館などの展示ビデオの制作や、自治体や官庁が主催するイベントの企画・運営など、NHKの仕事を通じて得た経験やノウハウを活用するような仕事も行っており、依頼主などからも喜ばれています。   

○子会社等の事業のあり方を考えるとき、その基本は、親会社であるNHK本体ができること、つまりNHK自身の業務範囲にあるのではないでしょうか。そのうえで、NHKが出資できる事業、すなわち「出資対象事業」は、子会社等の事業として問題ないものと考えます。さらに、それに関連する分野には、上記のようにNHKの仕事を通じて得た経験やノウハウを活用するような仕事があります。
 社会のニーズに応えてこのような広がりのある仕事を行うことによって、子会社等の経営も安定し、成果がフィードバックされてNHK関連の仕事の質を向上させることにもつながります。このような仕事が、出資対象事業の円滑化やその安定的な遂行に役立ったり、NHK自体の経営の効率化に資するものであったりすれば、子会社等が行う事業として適当なものと考えます。

○これらの仕事は、NHKの子会社等が長期間かつ安定的にNHKの業務を補完・支援し、NHKの経営の効率化に資するうえで欠かせません。今後、放送は、デジタル化によって、通信手段と連携が進みいっそう高度化しますが、その過程で蓄積される豊富なノウハウが社会に還元されるすべが、もしないとしたら、社会的にも損失であると考えます。

○また、これらの議論に該当するのは、基本的には子会社に限られると考えます。関連会社等に対しても影響力に見合った要請を行いますが、他の株主との関係もあり、おのずと限界があると考えます。

○NHKの子会社等の事業範囲を担保する方法としては、放送事業者の自律を基本とする放送法の趣旨をふまえますと、あくまでNHK自身が、自主的に視聴者国民に向けてその考え方を示していくことが望ましく、また、前記の仕組みのもとで、十分担保されると考えます。

(3)子会社等との取引

○子会社等との取引について、NHKは、これまで、今回の論点整理にもあるように、業務委託基準と経理規程に則って、適正に実施してきました。NHKの経理規程では、競争的な手法による調達を原則とし、それによらない場合は契約の性質または目的が競争に適しないときなどに限るとしています。NHKは、毎年会計検査院の検査を受け、その結果は国会に報告されていますが、これまで特段不当であるといった指摘を受けたことはありません。

○業務委託も部外との取引ですが、そもそもNHKの子会社等は、効率化等の観点からNHKの業務を委託する先として設立されたものであり、通常は、それらの子会社等に対して業務を委託しています。委託先については、経済性の他、「高い専門性を有する」「継続的取引に応じられる」「緊急の委託に応じられる」「NHKの信頼性の保持が図られる」など公共放送にふさわしい高い水準を求めていますが、子会社等は、出資や人的関係を通じてこの要求を満たすことが担保されていると考えます。  ただ、今後は、可能なものについては競争の考えを広げ、業務委託の規模や競争の結果等の公表に向けて、その対象も含め、検討を進めています。

○今回の論点整理では、「随意契約額の比率が高い」という指摘がありました。放送事業全般において、次のような事情から、「入札」という手法になじまない調達が多いことはご理解いただきたいと思います。NHKは、そのような中でも、可能な限り競争的な手法による調達に努めてきたところです。

○放送は、ハードとソフトの両方にまたがった仕事です。取材〜伝送〜制作〜送出と、設備的・技術的には多種多様なプロセスの仕事をこなしていくことが求められ、特に、番組の取材や制作に使用する機器・設備は、技術者だけでなく、ディレクターや記者といったさまざまな職種の人が、世界中のあらゆる地域で使用する可能性があります。また、使い勝手が異なると緊急時に混乱を招きます。このように、放送で使われる機材・設備には、多様で多岐にわたる機能や、高い品質や信頼性が必要であり、汎用品で対応できるものは多くありません。従って、放送事業者に限られた小さな市場の中でどうしても契約相手が限られてくるということがあります。また、エレクトロニクスの先端技術としてメーカーの技術力を効果的に活用したり、視聴者ニーズに応え短期間のうちに開発から導入までを可能としたりする調達方法も必要となってきます。

○競争入札では、詳細な仕様書に基づく価格による競争で落札者を決め、落札後は仕様書等の変更はできません。この手法だけでは、放送事業の使命達成に必要な設備・機材を十全に調達することはできません。

○NHKとしては、今後も引き続き、いっそう公正で経済的な調達をめざしていく考えです。調達方式としても、プロポーザル方式、バリュー・エンジニアリング方式など、競争的な手法に基づく多様な調達手法の研究・開発に努め、一件一件の調達について、その特性に応じた最適な調達方法をさらに徹底します。また、外部委員により、競争的な契約の推進状況を点検する体制について検討しています。これらにより、子会社との取引を含めてこれまで以上に、競争的な契約を推進していく考えです。
 
4.「NHKのインターネット利用」について
(1)基本的考え方

○世界各国の主要な放送局は、インターネットを盛んに活用し、ニュースや放送番組を提供したり、詳細な番組関連情報を提供したりしています。NHKも、インターネットを単に広報用の手段にとどめるだけではなく、放送を補完し、高度化する手段として活用していきたいと考えています。国民の生命・財産を守る緊急災害情報や民主主義社会の基盤である選挙情報などを、あらゆるメディアを活用してできる限り迅速・的確に提供するつもりです。
 NHKは、昨年からインターネットによるニュースの提供を始めましたが、インターネットと放送を有機的に組み合わせ、番組関連の詳細情報を入手したり、見逃した番組の内容を確認したりできるようになれば、受信料の価値も高まると考えます。

○NHKが先月中旬に実施した世論調査の結果では、NHKから放送以外の手段で何らかの情報を入手したいと考える人は、国民全体の56%となっています。このうち、情報入手に利用したい手段として「インターネット」をあげる人が47%と最も多く、「電話やFAX」の31%や「テキストや本・雑誌」の25%を大きく上回っており、今やインターネットが国民にとって身近なものとなりつつあることが窺われます。
 NHKのインターネットによる情報提供が新聞や民間放送の経営を圧迫し、言論報道の多様性を阻害するなどということは現実には考えにくく、こうした議論は、利用者や国民の立場を忘れた議論です。公共放送にふさわしい情報がインターネットで提供されれば、言論・表現の多様性はいっそう増すはずです。

(2)規模・態様・分野

○今回の論点整理にあるように、受信料を財源としてインターネット利用を行う場合には、そこにおのずと限界があると考えています。
 その具体的な規模は、国会での毎年度のNHK予算の審議で検討されることが適当と考えます。NHKは、予算審議に資するよう、インターネット利用計画を策定し、予算規模についてもお示しする考えです。

○情報の提供は、各番組のホームページで行う考えです。NHKの番組は、「プロジェクトX」やNHKスペシャル「宇宙」のように一定期間継続するので、情報の提供期間も、その番組が継続している間が基本と考えます。
 論点整理は、「提供期間を放送後一定期間に限定する」という考えを例示していますが、例えば「プロジェクトX」のある回の放送後、1週間なり3か月たつと、その回の情報は機械的に消去するという意味であるとすると、「プロジェクトX」という番組は続いているのに、以前放送された回の情報は見られなくなり、利用者に不便を強いることになります。

○情報提供の分野を、例えば、教育のみとするとか娯楽は不適切であるとか、そうした限定をする必要があるかどうかという点ですが、規模や態様が決まれば、おのずと範囲が定まるので、分野まで制限する意味はないと考えます。番組の中には、報道、教育、教養、娯楽に分類した場合に、複数の要素を持つ番組もありますし、娯楽を例にとっても、NHKは公共放送にふさわしい娯楽を提供していますので、一律に娯楽を否定するのは適当ではありません。分野を限定した場合には、境界線上のものを最終的に誰が判断するのかという問題もあって、実効性に乏しいと考えます。何より、NHKの創意工夫によって視聴者の利便性が向上する契機を、前もって封じるようなことになってしまいます。

(3)コンテンツの活用

○NHKとしては、NHKのコンテンツを活用する趣旨は、あくまで成果の視聴者への還元にあると考えています。従って、NHKが自らの仕事として、直接視聴者に向けて提供することが基本ですが、当面の問題として、今回の論点整理が「卸提供については、認めることが適当」としたことは妥当と考えます。

○ブロードバンド時代におけるコンテンツ流通市場の育成が、行政の課題となっていることは理解しますが、NHKは行政機関ではありません。NHKの卸提供が、結果的あるいは副次的にコンテンツ流通市場の育成に資することはありうると思いますが、この場合も、NHKにとっては視聴者への還元が本来の趣旨であるという点にはご留意いただきたいと思います。

(4)残された課題

○インターネットでの情報提供は、現在のところ、放送とまったく同等のサービスをするには、通信環境が十分ではありません。このため、今回の論点整理が、これを3年間程度の対応としたのはやむを得ないと考えます。
 しかし、通信環境が向上し、放送と通信の融合が進めば、NHKがインターネットで情報を提供する公共的な役割が、いっそう高まる可能性もあります。その場合は、その時点で国民により負託されたNHKの使命に即して、あらためて検討しなければならない課題であると考えます。
 
5.おわりに
○「受信料によって安定した経営基盤を保証されているNHKが、新しい分野に進出することは、民間放送の経営を圧迫する」という議論があります。
 たしかにNHKは、視聴者国民からの受信料で支えられています。一方、民間放送も、電波資源が稀少であることから、免許を受けて参入できる事業者の数に限りがあり、全くの自由市場の中に存在しているわけではありません。だからこそ、NHKと民間放送はともに公共性を追求し、視聴者国民の利益を第一としながら、お互いに切磋琢磨することによって、日本の放送文化の向上を図る責務があると考えます。
 もちろんNHKが公共放送としていっそう重い責任を負っていることは十分自覚していますが、それを前提としたうえで、NHKと民間放送は、後世に残して恥ずかしくない良い番組を視聴者国民に提供できるようお互いに競い合い、ともに社会的責任を果たしていかなければなりません。

○放送を通じて蓄積されたノウハウを放送以外の様々な回路で視聴者に還元していくことも、NHK・民間放送の双方に、期待されています。さまざまな財源、さまざまな規制のもとにある事業者が自由に参入しうるインターネットにおいても、国民の役に立つ、国民のよすがとなる情報の提供を競い合うことによって、国民の利便の向上につなげていきたいと考えます。こうした利用者国民本位の議論こそが、好ましいIT社会を実現する道であると確信しています。

 
 
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