若者に変化?
広がるオンライン署名

“政治や社会問題に関心がない”
-若者へのそんな見方は過去のものかもしれません。
オンライン署名サイト「change.org」ではコロナ禍で生活が苦しくなった学生などによる「授業料の減額や返還」を求める署名や「性別に基づかない制服の選択」を求める署名など高校生や大学生などによる活動が去年だけで400件以上立ち上がりました。
何が若者たちを動かしているのでしょうか。
(麓直弥)

オンライン署名で声を上げ始める若者たち

今月、オンライン署名サイト「change.org」は署名を集めたいと考える若者にアドバイスするイベントを開催しました。
10代と20代の若者たち36人が全国から集まりました。

参加者

「私は値上げが続いている英検の受験料の見直しの要求をしようと考えています」

「いちばん大きな目標は(犬と猫の)殺処分をなくすことです」

「私は経済的な格差が教育の格差を生んで、それがまた所得の格差を生むという負のループを変えたいと思っています」

主催した、オンライン署名サイトでキャンペーン・サポーターをつとめる加藤悠二さんはコロナ禍でさまざまな社会問題が顕在化したことが若者たちの関心の高まりにつながっていると考えています。

「コロナ禍の影響で日常生活の中に自分たちにとって必要な変化というかここは変えてほしくない、ここはちゃんとしてくれなきゃ困るっていうふうに意識することっていうのがだいぶ増えたと思うんですね。
そういった思いを持ってchange.orgに期待を持って使ってくださる方が増えてきてるんじゃないかなと思います」

オンライン署名で社会や政治を変えたい

アメリカで2007年に立ち上がったオンライン署名サイト「change.org」。
政治や社会問題などについて、変えたいと考えていることを署名を届ける相手や理由などと共に書き込むと「キャンペーン」が立ち上がり世界中に公開されます。

キャンペーンに共感した人は名前やメールアドレスを入力し「賛同する」をクリック。
これが1人分の署名となります。

去年から、若年層によるキャンペーンが目立つようになり、数万以上の署名を集め大臣に直接届けるケースも出てきています。
およそ3万の署名を集めた神奈川県内の大学に通う中島梨乃さんは愛知県に住む大学生と連携し署名活動をしています。
中島さんたちが呼びかけているキャンペーンは
「安心して性の知識が得られるサイトが検索結果の上位に出るようにしてほしい」

性被害にあった人が支援を求めて性について検索すると、アダルトサイトばかりが上部に表示されることに問題意識を抱いてきました。

【リンク】ネットにあふれる性的な情報についてどう考えるか。詳しく知りたい方はこちら。

中島梨乃さん
「被害にあって、調べてアダルトコンテンツが出てくるというのはセカンドレイプにあたると思うし、支援先を求めるときとかはせめて信頼できる情報にアクセスできるようになってほしいなって」

4月、キャンペーンを始めたところ、「初めて問題の存在に気づいた」「性被害者が正しい情報を得られないのはおかしい」などSNS上で共感を呼び、およそ3万の署名が、わずか2か月で集まりました。
こうした中、検索サイト「ヤフー」は性犯罪や性暴力に関わる言葉が検索されたとき、被害者向けの相談ダイヤルを表示する運用を始めました。

この運用に関してヤフーは「性暴力など社会の課題解決のために検索サービスで何ができるか、数年前から検討しており、署名活動もその参考にした」としています。

中島梨乃さん
「ヤフーの検索結果が変わったんだって驚きました。私たちの思いに共感してくれる人がこんなにいるんだと知ることができて、とてもうれしかったです」

1クリックで声をあげる若者たち

オンラインだからこそ、初めて署名できたという人もいます。
都内の大学に通う女性が取材にこたえてくれました。

もともと難民などを支援する学生団体に所属していて、難民に関する映画や文化についてSNSで発信しています。
一方で、社会や政治の問題について自らの意見を周囲に直接訴えることは難しいと感じています。

大学生
「声を上げることへの抵抗感は感じていて友人どうしの会話でも政治的なことはあまり話しません。意識高い系というレッテルを貼られてしまうことへの懸念があって…」

そんな彼女のもとに大学の先輩から、入管法改正案反対のオンライン署名を求めるメッセージが届きました。
数日間考えた末、署名することにしました。
立ち止まって考え、いつでも賛同できるのがオンライン署名の魅力だといいます。

大学生
「しっかりと自分の中で学んで、そしゃくしてから自分がどういうアクションを起こすべきかをしっかり考えたうえで活動したいと思っています。
オンライン署名を機に難民問題について深く知っていく中で、問題への危機感を感じて行動を起こさなければならないと感じるようになりました」

新たな潮流となるか オンライン社会運動

社会運動を研究している立命館大学の富永京子准教授は近年の若者たちの意識はデモやシュプレヒコールを上げていたかつての学生運動のころとは様変わりしているといいます。

「政治に対して声を上げたいが、あまり表に出てやるようなものではないというか、強い抗議を示すものではないと。例えば外に出て行うデモやボイコットのような、比較的抗議色の強い活動への忌避感は(若い世代には)依然としてまだ残っているんですよね」

その一方で、今の若者たちは自分たちが意思表示をしなければ社会がより悪い方向へ向かうという不安を共有しているのではないかとみています。

「10代20代は、あるタイプの社会運動に対する意欲は格段に高まっているんですよね。政治に対して当然ながら意見は持っていて、何かしたいっていう感覚がオンライン署名につながっているのかなと。新しい潮流というか、少なくとも私たちが経験してきた政治への忌避感とは違う流れが現れてるんだろうなと思います」

こうした若者たちの姿について、富永准教授は若者が政治や社会問題について発言しにくい空気を、大人の側が作り出してきたのではないか、その中で、意思表示できる場がオンライン署名なのではないかと分析しています。

今回の取材で、強い批判の言葉や激しい行動ではなく、自分たちにできる事をしたいという若者の意識を感じました。
じっくりと考えて、人知れず署名できるネット署名はそんな感覚とマッチしているのかもしれません。
政治や社会問題に対して、誰でも自らの意見を表明できる社会に進んで行くことを願っています。

おはよう日本ディレクター
麓 直弥
2015年入局。広島局を経て2019年からおはよう日本。自分と同世代の人たちの社会問題に対する強い思いに刺激を受けました。